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空想図書室

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日々なんとなく頭に浮かんだ駄文の切れ端とか読み散らした本の断片など
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記事一覧

キッチン

キッチン

積みあがった荷物を片付ける
ひとつ またひとつ 箱を開けては

増えるばかりの がらくたの山
ラップに洗剤 キッチンタオル

あなたが一生かかって使いきれなかった
残り物 捨てては拾い 拾っては捨て

ああもう きりがないやと
お茶をわかして 一休み

いい天気の秋の日 やり残した仕事は
途中で投げて 一休み

公園で遊んでいるのは いつかの誰か
まだこんなに忙しくなかったころの

きみとあいつと

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Lord knows

Lord knows

晴れた秋の日 あなたを運ぶ
ひどく晴れた空は やけにまぶしくて

まるで夏が帰ってきたような陽気の下
あなたが箱の中で ことこと揺れる

見上げるほどに高かった背中も
大きてごつごつした手も 長かった足も

日に焼けた笑顔も 目じりの皺も
今は小さな箱の中

石段を踏んでお堂に上がる
ここであなたとお別れ いや

かつてあなただったものが
火となり土となり水となって

またこの世界を巡る ただそれ

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No exit

No exit

汗ばむ陽気の午後 何もしたくない昼下がり
じっとしていてさえ 襟首あたりから

汗のにおいに入り混じって湧き上がるのは
救いようのない雑念ばかり

どこへ行くあてもなく ペダルを蹴って
海へ行けど 山へ行けど

風にまで染みついた甘ったるい煙と
脂を焼く炭の臭いに吐きそうになる

どうせ冬将軍のやつが来もしないうちに
誰一人いなくなるくせに

強すぎる裸の太陽が外へ出るなと言う
素直な僕は ベラン

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最後の雨に

最後の雨に

いったいこの雨は いつから降り出したのか
延々とだらしなく降る 夏の長雨に

触るもの全てに 黴が生えてしまうほど
いっそ記憶まで腐らせてくれればいい

黴だのウイルスだのの立ち込める夏なんて
誰一人想像もしなかった

空の果てまでよじれた世界からも
逃げ出して見せると自信満々に

笑って飛び出していった君は
今 どこにいるのだろう

僕は今 黴だらけの地面を這いずって
前にも後ろにも進めないまま

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この夏へ

この夏へ

まだらな雨雲が行く空に ちぎれた青空が
久しぶりの顔を出した日曜の午後

まだ太陽のやつさえ姿を見せてないくせ
湿度ばかりがぐんぐんと不快指数を上げる

どこへ逃げても生ぬるいビールみたいな
湿った風ばかり吹いてるけど

もえさかるような雑草の背丈は
とっくに君より高くなってる

汗ばんだシャツのにおいさえ
今はもうあの頃と同じじゃないけど

金網の向こうで並んでる鋼管は今も
錆びを浮かべて涼しげ

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断面

断面

乾いた空気と寒さが 肌を刺す
まだいくらか冬の顔をした空は

曇りとも日の出前ともつかない
憂鬱な灰色を浮かべてる

寒気とかゆみに眠気も失せて
仕方なしに起き出して着替える

いつも以上に静まり返った朝の町を
いつもと同じ顔で通り抜ける

公園の散り始めた桜の下
冬の間に縮こまった体を伸ばす

一日が始まる前の余白の時間に
いつか切って捨てた記憶を拾う

 〇  〇  〇  〇  〇

 復活祭

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空の詩

空の詩

いつものように 扉の鍵を開けて
当たり前のように 上がり込む
声をかけても もう返事はない

部屋中が暗く 湿った臭いに沈んでる
あんなにおしゃべりだったテレビさえ
むっつりと黙ったまま 目をつぶってる

ああもう ここに誰もいないのだな
笑うことも泣くことも怒りだすことも
もう ないのだな

主のいなくなった家で ひとり
イヤホンを聞きながら 部屋を片付ける
もうここに 戻ることはないのだな

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都会の空

都会の空

土曜日のオフィス街 閑散とした舗道を
あてもなく歩く 灰色の陽光に

主のいない町は まるで時間もなく
食べた気のしない レストランのよう

随分変わったような 変わり映えしないような
別にどうでもいいけど こんな町も

好きじゃないけど 嫌いということもない
どうせこんな時代 この町もあの町も

どこに暮らしたって大して違わない
誰がいても いなくても そう

多分 君は今ごろ また別の場所で

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God Rest Ye Merry

God Rest Ye Merry

灰色に冷えた朝 薄い毛布の中で目を覚ます
アラームが鳴ってるけど まだ暗くて

何となく枕に埋まったまま ぼんやり
してるうちにまた 眠りに落ちて

を繰り返し 眠り疲れてようやく起きる
1年で1番 日の短い日曜日の朝

冬らしいといえば冬らしい
くすんだ灰色の光に満ちた空気に

スクルージ爺さんなら何を見るだろう
こんな日くらい 幽霊がいてもいい

過去も未来も見たくないけど
クラチットんとこの

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my black universe

my black universe

冬枯れた草を踏んで歩く どこかの
国境沿いのロードサイドみたいな

埋立地の果て とんびとカラスが
高い空で くるくる踊ってる

乾きかけた水たまりに 映る空が
青と黒の間で 光を返してる

凍りつくほどじゃないけど寒くて
震えてるくせに 僕のマフラーも

手袋さえいらないって強がってた
君のなめらかな肩がまぶしくて

思わず目をそらした空の向こうが
こんな場所に続いてたなんて

野焼きするタイヤ

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冬の日に

冬の日に

耳まで凍えそうな灰色の朝
パジャマのままコートにくるまり
冷たい靴をひっかけ 外へ出る

用もないくせに わざわざ
ポケットに手を突っ込んで
歩いては走り 走っては歩き

どこへ行くでもなく 公園を
ぐるりと回る 池の水面で
水鳥が眠っている

こんな寒い朝に どうしてわざわざ
言いかけて気づく そうだね 
他人のことなんて言えた身分じゃない

どうしてわざわざ
こんな寒い朝に
走ったり歩いたり 

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地下へ

地下へ

建築現場の 重機もまだ眠っている朝
ポケットに手をつっこんで走る

行きたいわけじゃないけど 義務だから
働かざる者食うべからずの世界

うんざりするような場所で 黙々と
褒められもせず 毎日の務めを果たす

この重機で あのビルの根元を
ほじくってやりたいな

などと思ったり思わなかったり
鉄格子がないだけの灰色の牢獄に

閉じ込められているのは僕だけじゃない
そんなことくらい 分かってはいるけ

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いない君に

いない君に

誰もいない埋立地の果てを歩く
カラスの群れは 沖合の方へ
猫たちは 草むらの中へ

僕はひとり 歩いたり走ったり
時々 板に乗ったりして
それでいつ 帰ろうかと

帰る?
どこへ? 誰と? 何しに?

意地悪なカラスが笑いながら
飛んで行った
西の空はもう 暮れかけている

一緒にいた時間より
いなくなってからの時間の方が
何倍も長くなった

なのに どうしてだか
距離が遠くなればなるほど
強く心

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嵐の日に

嵐の日に

嵐の朝に 雨戸を半分開ける
雨 雨 雨 まだ風は吹いてないけど

灰色の憂鬱な空に 渦を巻く雲
雨の音が 屋根と壁と地面をたたく

雨戸を閉めて ラジオをかけ
お湯を沸かして コーヒーを入れる

読みかけで積んでいた本を引っ張り出し
忘れていた物語の 続きを読む

その昔 嵐の夜に二人
あまり話さない君と ぼくは
いつになく雄弁に いろんな話をした

風の音であまりよく聞こえなかったけど
言葉の意

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