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大槌の鹿肉と『なめとこ山の熊』と宮沢賢治と、ジビエ料理(おまけレシピ)

料理になると忘れてしまう、この食材はかつて生きていたことを。人間は生きとし生けるものの生命をいただきながら生きていることを。

しかし、気にしだしたら何も食べられなくなってしまうから、ありがとう、いただきますと心の中で手を合わせ、感謝しながら、残さず、もったいないことのないように、食べることが大事、といつも思っている。

牧場で眺める羊のショーはとても可愛い。そのあと、残酷だねーと言いながら、ジンギスカンを食べる。なのにジンギスカンは美味しい。

食べる、生きるとは、罪深いものだな。

もったいないことのないように

料理人として食材に向かっていると、否が応でもこの食材は生き物だということを突きつけられる。元気に動くすっぽんや魚、足だけになってもまだピクピクしているタコ。大きな魚の内臓からたまに飛び出す丸ごとのイカやイワシ、丸鶏の毛、いろんな骨つきの肉やモツ。

みんなそれぞれに生きていた証。

魚のお腹の中から感じさせられる食物連鎖。

ごめんね、無駄にしないからね、と心の中で呟く。私に出来るのは、出来るだけ捨てるところのないように、もったいないことのないように、大事に丸ごと隅々まで美味しく料理に昇華させることだと思う。

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例えば、魚のアラはあら汁に、肉のスジは煮込みに、脂や半端な肉片は叩いてひき肉や賄いにしている。

骨があれば出汁が取れる。マグロのスジは火を通せば柔らかくなるから、スジっぽいマグロは自家製のツナや煮付けにする。皮ごと使える野菜はそのまま使うし、綺麗な皮は味噌汁の出汁の足しにしたりもする。業者から納品される食品の梱包はいつも過剰過ぎて、包装材(ラップや発泡スチロールトレイ)のゴミがでがちなのが悩み。お客様の食べ残しなどは仕方ないけど、食材廃棄としてのゴミはほとんど出ないようには気を使っている。

フードロス問題や、今後の食料問題などを考えると胸が痛む。生産し過ぎない、適量を買う、無駄なく使い切るなどと言われているけど、どうしても使いきれない、買い過ぎてしまうという家庭は多いと思う。また、生産者には生活があるから、生産し過ぎるなと言われても他に収入源もないし、という難しさもある。

適量をうまく循環させ、無駄な廃棄のないように、お腹を空かせる人がいないように、少しずつ一人一人が意識すればきっと世界は変わっていく、そう願っている。

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宮沢賢治となめとこ山の熊

宮沢賢治の作品になめとこ山の熊という作品がある。淵沢小十郎という熊撃ち猟師がいて、熊を撃って、熊の胆や毛皮を売って生計を立てている。小十郎は言う。

「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめえも射うたなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰たれも相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」

出会ってしまったからには撃たなければならない。小十郎には他に稼げる手段がなく生活のため、という理由もあるけど、実際、熊や猪や鹿が里におりたら畑を荒らし、人にも襲い掛かることがあるから、人が自然や動物達と共存するには仕方がないことなのだ。本当はお互いの生活を侵食せずに、そっとそれぞれの生活ができたら良いのに。

小十郎はある日、いつもと違う雰囲気で山に入り、ついには逆に熊に襲われてしまう。小十郎の山での振る舞いを知っていた熊達は彼の亡骸を丁寧に祀った、というところで話が終わる。

お互い生まれた境遇があり、それが宿命なら仕方ない。しかし、それぞれの生命に畏敬の念、尊敬と感謝を持つことを忘れてはいけない、そんなこと、熊にだってわかるんだから、と賢治さんは言っている気がする。

ただの害獣にしない!ジビエとして活用する道

岩手県大槌町に三陸で初めて害獣駆除で撃たれた鹿をジビエとして加工し、販売している猟師さんがいる。東北食べる通信で出会った。

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丁寧で迅速な下処理のおかげで、臭みは全くなく、旨味があってジューシーな鹿肉は名店のレストランのシェフ達にも高評価だそう。

鹿や熊などは前述のように共存できるならうまくお互い住み分けられればいいのだが、山や畑を荒らし、時には人に襲いかかるので、どうしても"駆除"しなければならない。ダーンと撃ち、チャリーンと手数料をもらい、バサッと捨てる、それが今まで続けられてきた方法だそうだ。

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しかし、兼澤さんは、撃った鹿を手早く処理し、美味しく昇華させる道を選んだ。東北では震災による原発事故の影響で、まだまだ色んな規制や困難が多いけど、それを一つずつクリアして、東北初のジビエの加工場を作った。"害獣"として"駆除"され捨てられることではなく、極上の食材として美味しくいただき成仏させられるように。生命を無駄に終わらせないために。

鹿のおいしさに驚き、その試みに感動して、もっと広く、みんなが親しんでくれたら良いなと思い、弊店でも兼澤さんの鹿肉を扱っている。

※ここで買えます!


(他にも素晴らしい猟師さんがいるのだけど、そのジビエの扱いに対する規制の厳しさから、なかなかお取引きできないのがもどかしい。)

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〜おまけレシピ〜

難しいけど美味しい【鹿肉のステーキ】

生産者さんもレアで食べるのはやめてくださいというように、食中毒防止のためには芯温75℃1分以上の加熱が求められている。表面を焼いて休ませて余熱で通すというのも、いまいち加減がよくわからないし、かと言ってじっくり焼き過ぎると脂肪分の少ない鹿の食感はパサつく。

そういうわけで、低温調理したものを焼く、もしくはオーブンできちんと中まで火を通す、この方法だと、安心して、中まで火を通した鹿肉のステーキが食べられそう。

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①鹿肉は焼く2〜30分前から常温に出しておく。ハーブソルト(もしくは塩、コショウ、ローズマリーなどのハーブ)とオリーブオイルでマリネする。
②フライパンに油を引き、鹿肉をいれ、中火で1分くらいずつ、面を替えながら満遍なく焼き固める。
③170℃に余熱しておいたオーブンに②の鹿肉をいれ、10〜15分焼く。取り出してアルミホイルに包み、15分置いておき、肉汁を落ち着かせる。
④食べる前に再度表面を強火でさっと焼き、切り分ける。フライパンに酒、みりん、醤油各大さじ2、玉ねぎのすりおろし1/4こ、黒にんにく1粒を入れて煮詰め、ソースとしてかける。

低温調理※


①マリネした鹿肉を密閉できるビニール袋に入れ、空気を抜いて密封する。
②65℃のお湯に入れ、30分保温する。(芯温65℃15分以上加熱がめやす)
③お湯から取り出して、10分くらい休ませる。
④袋から出し、表面をカリッと強火で焼く。
⑤残った汁に酒、みりん、醤油各大さじ1、すりおろし玉ねぎ1/4個分、黒にんにく1かけを入れて煮詰め、ソースとする。

【鹿スジ肉の煮込み】

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鹿のすじ肉を丁寧に茹でこぼし、あとは水、酒で柔らかく煮て、根菜を入れ、醤油、きび砂糖で煮込んだもの。

【鹿肉のコンビーフ風】

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鹿肉の煮込みをほぐして、バター、にんにく、きのこと玉ねぎのみじん切りで炒め煮に。手軽に鹿肉の美味しさを味わえる。

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おかげさまで最近店が忙しくなり、なかなかnote更新できませんでした。

食材廃棄問題、生き物を活かし、いただくということ、代替肉の使用、プラントベースや精進料理への移行など、Podcastやラジオ、ニュースや記事から食の未来や有限性について考えさせられることの多いこの頃。料理人として、常に当事者意識、問題意識を持って食と向き合っていこうとあらためて思います。

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SDGsへの向き合い方

おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。