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一人ぼっちと瘦せ我慢 #3 心の旅行

子供の頃は文章を読むのが大っ嫌いだった。
そんなことをする暇があるなら、外に行って鬼ごっこやドロケイをやった方が楽しいし、有意義だとも思っていた。それでもいつからか読書をする楽しみってやつを覚えてからは、時間があると本を読むようになった。いや、正確に言うならば読書するための時間を無理やり生み出すようになった。

僕は読書は"心の旅行"だと思っている。
手に取って1ページ開くだけで、そこは自分とは全く違う世界が広がっていて僕は傍観者としてその物語を贅沢に余すところなく見ることができる。さらに、その物語の外側を傍観者の僕が妄想することもできる。それは現実の世界では味わうことができない、何にも変えられない贅沢な時間。作者によって作り出される世界は異なるからこそ旅行だと思う。

小学生から今まで僕は怖がりで、何かをやるにあたって一歩を踏み出すことができないことが多々あった。今も一歩を踏み出すことができず、結局安定なことをしている。それに満足しているわけではないけれども、満足感よりも怖さが増してしまい結局"無難"や"安定"、"安全"といったことに重きを置いて行動してしまう。でも、色々とやってみたいしやりたいこともある。そんな矛盾を埋めるという意味でも本の世界は必要だった。

例えば、仕事が上手くいかなくって転職を考えている時は仕事系の小説を読むことが多くなる。登場人物と自分を重ね合わせたりしてその題材の仕事が自分に向いているかどうかを妄想する。あるいは、登場人物の働き方で自分に落とし込めるものがあればそれを落とし込んで現実でやってみる。まあ結局の場合、妄想だけで終わってしまうけれどもそれは僕にとっては凄く大事な時間だった。

僕にとって本を読む時間が大切なのは、それが相談の時間でもあるから。
もちろん娯楽として、単に楽しんでいるというのもあるけど僕は本に相談をしている。

人から相談を受けることは多々あるけれども、自分自身の事について誰かに相談をすることはほとんどない。それは、弱いところを他人に見せる怖さやその相談事が知らないうちに一人歩きして尾ひれがついたよくわからない噂に成り下がってしまうことがあるから。だけれども、僕も人間だからどうしても耐えられなくなるし、本当は誰かに相談をしたくなるときはある。そういう時に助けてくれるのは僕にとっては本だったわけです。

もちろん、本の中の登場人物は直接しゃべることをはないし僕の悩みに直接回答してくれるわけでもない。間接的にでも回答しているわけでもないけども、登場人物が僕と同じような悩みを抱えているとその登場人物がどうやって悩みを乗り越えていくのかを読むことで何となく僕自身もその悩みを乗り越えることができるような気がして心が落ちつく。

実際のところ、こんな遠回しなことをせずに誰か現実の人に相談をすれば良いって話かもしれないけど、上に書いたみたいに性格上なかなかそれができない。というよりも、それはトラウマに近いのかもしれない。

学生時代に付き合っていた彼女は、その当時一番信用していたのでとにかく何でも話しをしていた。嘘偽りなく、隠し事は何もなかった。本当にすべてをさらけ出せる相手だと思っていたから。今思えば凄く青臭いと思う。ただ、そう思っていたのは僕だけだった。もちろん相手は悪気があったわけではないけれども、SNS上で僕の相談内容を呟き他人とあれこれ言いあっていた。思い返すのも苦いけれども、言ってしまえばおもちゃみたいな感じだった。特に覚えているのが『○○可哀そう(○○には僕の本名が入ります。こんな相談してるからもうすぐ振られちゃう』って全く僕が知らない、彼女のフォロワーから彼女にリプライが飛んでいたこと。また、彼女はそれを特に否定もしていなかった。

なぜこれが分かったかっていうと、僕が凄くなんでも話していることだけを知っていた親友から「これ多分がわのこと言ってるけど大丈夫?」って聞かれて見せてもらったから。その親友は女友達から「たぶんこれがわ君のことでしょ?」って言われたらしい。いい意味でも悪い意味でも僕はその親友ともう一人の友達の3人で3バカとくくられていたから知り合いが多かった。だからこういうことも人づてに教えてもらって、まあ結局大事にはならなかった。

それ以来、僕は腹のうちを人に明かせなくなった。
どうしても耐えられないときはひたすら本を読んで、心だけでも旅をする。
それは時には癒してくれるし、時には思っていた内容と違って心を抉ってくる。あるいは、泣かせてくるし悲しませてくる。でも、それによってどこか軽い気持ちになれるからこそ、僕のそばには本がいる。

いつか本当に色々なことを話せる人が現れたとしても、もうすでに読書は僕の生活の一部だし、心の旅行を止めることはできないだろうからこれからも本を読み続けると思う。紙媒体や電子媒体問わずに、読める時に読みたいものを読んで心の旅行をして心を豊かにしていく。

がわ


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