「スペードエース、『ロシナンテ』までの到達時間は？」
　『黒鉄の翼アイアンウイング』の操縦席に座った青方龍士郎あおかたりゅうしろうが、『黒鉄の翼』を制御する完全自立型AI搭載コンピューターである『スペードエース』に質問した。

「はい、青龍せいりゅう…　現在の『黒鉄の翼』の飛行速度は時速630km…　『ロシナンテ』とのランデブーポイントまであと３分47秒…46秒…45秒…」

「分かった、もういい…　とにかく急ぐぞ。」
　青方龍士郎あおかたりゅうしろうは最高速度で『黒鉄の翼』を飛ばし続けた。

「青龍せいりゅう！　有明埠頭ありあけふとうの上空に２機の攻撃型ヘリが飛行しています！」
スペードエースが警告を発した。

「何？　こんな所に何で攻撃ヘリがいるんだ！　しかも２機だと？
きっと、そいつらは敵で…『ロシナンテ』を狙ってるんだ！　千寿せんじゅさん達が危ない！」

「青龍せいりゅう！　すでに『ロシナンテ』の発射台は展開を終えています…
　ただ今『ロシナンテ』から受信！　『黒鉄の天馬アイアンペガサス」のCombineコンバインに向けてロシーナとの同期シンクロを開始します…　開始！
　『ロシナンテ』、発射台に向けて発進しました。
　現在、有明埠頭ありあけふとうの直線道路を急加速しながら激走中！　『ロシナンテ』、時速200kmを超えました。
　警告！　上空で待機していた２機の攻撃ヘリが、走行中の『ロシナンテ』に向けて30mmチェーンガンの射撃を開始しました！
『ロシナンテ』が数発被弾！　目だった大きな損傷は認められません。
　フル装甲モードに入った『ロシナンテ』は無事に高速走行を続けています…　さらに加速しました！　現在時速265km！
青龍！　命令を！」

　スペードエースが喚わめくように実況中継し続けた後、青方龍士郎あおかたりゅうしろうに命令を促うながした。

「うるさい！　ちょっと黙ってろ！
　今回『黒鉄の翼』に搭載している主武装の超電磁加速銃レールガンなら、攻撃ヘリなど一撃で撃墜げきつい出来るが、すでに『ロシナンテ』が発射台から飛び立とうとしている！　もう、戦闘している暇ひまなんて無い…
　それに…夜明け前とは言え、こんな人目に触れる場所で戦闘行為は出来ない…
　仕方が無い…『妖滅丸ようめつまる』を使おう…
　スペードエース、『天馬ペガサス計画』はこのまま予定通りに続行する！
　ちょっとの間、お前に操縦を任まかせる！　頼んだぞ！」
　そう言った青方龍士郎あおかたりゅうしろうは自身で操縦席に持ち込み、脇に置いてあった二本の太刀たちと一本の棒のうち、黒い棒を右手で取り上げた。

　それは…60㎝程の長さの黒い棒だったが、青方龍士郎あおかたりゅうしろうが握ると一方の先端から25㎝程の槍やりの穂先ほさきが飛び出した。

「やるぞ、『妖滅丸ようめつまる』！　お前の出番だ！
　出でよ！　空飛ぶ妖あやかし、野衾のぶすまよっ！」
　そう叫びながら、槍の穂先を狭い操縦席の中でキャノピーの外の空間に向けてクルリと回した。

すると、何と言う事だろうか！
　高速で飛行する『黒鉄の翼』の右斜め前方に、やはり高速で飛行する茶色い物体が突如として出現した。

「ぎぃえええーっ！」
　突然、茶色い飛行物体が咆哮ほうこうした。
　物体は徐々に形を変えていき、人間大のサイズをした巨大なムササビ(？)の姿へと変化した。その姿は、まるで…昔話の絵本に登場しそうな妖怪ようかいそのものであった…　　　（※１）

「行け、野衾のぶすま！　２機の攻撃ヘリを『ロシナンテ』に近付かせるな！　敵を撹乱かくらんしろ！」

「ぎゃあああーっ！」
　『野衾のぶすま』と呼ばれた妖怪は、まるで青方龍士郎あおかたりゅうしろうの命令を理解したかの様に一鳴ひとなきすると、２機の攻撃ヘリへと向かって飛行して行った。

「ブオオォーッ！」
　一見したところ、大きさこそ巨大な獣のムササビの姿をした妖怪『野衾のぶすま』はヘリに向かって飛行しながら、その細かい牙きばを生やした獣の口から紅蓮ぐれんの炎を吐き出し始めた。
　存在がレーダーに全く映らない『野衾のぶすま』の接近に、ようやくパイロットが目視で気付いた２機のヘリは、『ロシナンテ』への攻撃を中止して妖怪『野衾のぶすま』から距離を取る様に遠ざかった。

「いいぞ、『野衾のぶすま』！　その調子だ！」
　『野衾のぶすま』を応援すべく叫ぶ青方龍士郎あおかたりゅうしろうに、スペードエースが報告する。

「青龍せいりゅう！　『ロシナンテ』がスーパージェットブースターに点火、たった今…発射台から離脱しました！」

　操縦席のキャノピー越しの前方に広がる視界に、巨大な発射台から『ロシナンテ』が飛び立つのが青方龍士郎あおかたりゅうしろうの目に確認出来た。

「分かった、もう俺にも目視で確認出来る！　スペードエース、操縦をマニュアルモードで俺に寄こせ！」

「了解ラジャー！　操縦モードをマニュアルに移行完了。青龍せいりゅう、『ロシナンテ』がビーコン（beacon）を発信しました。」

　青方龍士郎あおかたりゅうしろうの握る操縦桿そうじゅうかんにズッシリとした手動操縦の感触が戻って来た。

「よし、これで俺の手に『黒鉄の天馬』の成功と運命の鍵が握られたんだ…
　白虎びゃっこのためにも、そして俺が手塩てしおにかけて整備した『黒鉄の翼』と『ロシナンテ』のためにも、絶対に成功させて見せる！」

「ビーッ！　ビーッ！　ビーッ！」
鋭い警告ブザーが操縦席に鳴り響いた。

「よし、『ロシナンテ』のビーコンキャッチ！　同期シンクロした！
　『黒鉄の翼』の機体速度及び角度を『ロシナンテ』に合わせて修正！
　『黒鉄の天馬』Combineコンバインまであと90秒！　秒読み開始！
スペードエース！『黒鉄の爪アイアンクロー』を展開しろ、急げ！」

「了解ラジャーッ！　『黒鉄の爪アイアンクロー』展開！」
　スペードエースの返答と共に『黒鉄の翼』の機体下部に折りたたまれた状態で収納されていた、機体と同じ特殊チタニウム合金製の『｜黒鉄の爪《アイアンクロー』が飛行しながら展開されていく。
　それはまるで大鷲おおわしの足の様に機体左右に一本ずつの計二本が備えられ、それぞれの先端が前二本で後ろ一本で構成された鋭い三本爪で、本物の猛禽もうきん類の鳥の爪と同じ様に獲物をキャッチ出来る構造となっていた。

　発射台を飛び出した『ロシナンテ』を目で追う青方龍士郎あおかたりゅうしろう…

「『ロシナンテ』のビーコンを追尾し、『黒鉄の翼』を後方より接近させるぞ！」

「ダメです！　青龍せいりゅうっ！　飛行中の『ロシナンテ』の車体右側が左に較べて下がり傾かしいでいます！　『ロシナンテ』があの傾いた姿勢のままでは、双方が安全に『Combineコンバイン』出来ません！」
　スペードエースが人間の声そのものの悲鳴のような声で叫んだ。

「落ち着け、スペードエース！　冷静に状況分析だ！　急げ！」
　17歳の少年である青方龍士郎あおかたりゅうしろうが、完全自立思考型AIのスペードエースよりも落ち着いているかの様だった。

「ら、了解ラジャー…
　状況分析完了。『ロシナンテ』は発射台に向かう走行中での敵攻撃ヘリ『AH-64R アパッチ改』の30mmチェーンガンの攻撃により右補助翼を損傷しており、左翼に比べ100%完全には展開し切れていません。」

「分かった…　この状況は非常にまずいな。『ロシナンテ』のスーパージェットブースターの残り噴射時間は？」

「噴射可能時間は、残り27秒…　…　25秒…」

　スペードエースのカウントダウンを聞き、青方龍士郎あおかたりゅうしろうは焦った。

「まずいぞ…　スーパージェットブースターが切れれば『ロシナンテ』は失速し墜落する。それまでに『Combineコンバイン』しなければ！」

＊＊＊＊＊＊＊＊

「ひゃっほーっ！　『ロシナンテ』が空を飛んでるぞ！
　ロシーナ、『黒鉄の翼』はどうなってる？　それに敵攻撃ヘリの状況は？」

　俺は『ロシナンテ』が『滑すべり台』から離脱し飛行し始めた事に気を良くしながらも、現状を確認しない訳にはいかなかった。
　今の『ロシナンテ』は特殊チタニウム合金の装甲に護まもられているとはいえ、亀が甲羅こうらに閉じ籠こもってる様に手も足も出せない状況なのだ。
　この状況で敵に攻撃を受けたら間違いなく撃墜される…

「敵攻撃ヘリは２機共に正体不明の何者かと交戦中の模様！　『黒鉄の翼』はこちらからのビーコンをキャッチし、Combineコンバインの準備に入りました。現在、黒鉄の爪アイアンクロー』を展開中！」

　俺はロシーナの報告に仰天した。
「何者かって何なんだ？　こっちに味方がいるって言うのか？　後方の状況をモニターに映うつせ！」

　すぐさま後方カメラの映像が、フロントガラス上のモニター画面の一画に開いたウインドーに映し出された。

「な、何だあれは…？　敵攻撃ヘリと戦っているのは巨大なムササビじゃないか！　化け物…いや、妖怪か？　なんでムササビの妖怪が俺達の敵と戦ってるんだ…？　訳が分からん！」
　横にいる鳳 成治おおとり せいじの顔を見ても、首を激しく横に振るだけだった。

「鳳おおとり！　あれは陰陽師おんみょうじのお前の領分じゃないのか？」
　俺が鳳おおとりに問いただすと、特務機関の長としての自分のもう一つの姿である『陰陽師』という言葉を聞いた途端とたんに、ヤツは落ち着きを取り戻した様だった。

「ああ…　俺にも詳しい事は分からんが、あれは術者が打った式神では無いな…　あれは正真正銘、本物の妖あやかしだ。」
　鳳おおとり自身が優秀な陰陽師おんみょうじである事から、ヤツの言う事には信憑しんぴょう性がある。
　ましてや、俺自身が伝説の白虎びゃっこなんていう存在なんだから…妖怪が目の前にいたって今さら驚きはしない。
　しかし、この状況で突然現れて敵と戦う妖怪というのはいったい…敵か味方か…？

その時だった。

『こちら「黒鉄の翼」！　千寿さん、聞こえますか？』

　突然、『ロシナンテ』の車内に何者かの声が響き渡った。もちろんロシーナが発した声ではない。

「これは『黒鉄の翼』からの通信です。しかし、スペードエースの合成音声ではありません。本物の人間の声です。
　声の主は『黒鉄の翼』と『ロシナンテ』の専任エンジニアである青方龍士郎あおかたりゅうしろうです。」

ロシーナの解説を聞いた俺が驚いたのは言うまでもない。

「何だと！　青方あおかたの坊やが『黒鉄の翼』に乗ってるってのか？」
俺は誰に聞くともなく叫んでいた。

『千寿せんじゅ所長、ロシーナの言った通りです。
　僕は青方龍士郎あおかたりゅうしろうで、今「黒鉄の翼」の操縦席にいます。』

「どういう事だ！」
俺は青方を問い質ただした。

『今は説明してる暇は無いんです！　僕の命令で野衾のぶすまが敵を食い止めているうちにCombineコンバインをしなければ、『ロシナンテ』は東京湾に墜落します！』
青方龍士郎あおかたりゅうしろうが必死な声で叫んでいる。

「しかし…」
俺が口ごもり、青方への言葉を探していると…

『いいから僕の言う事を聞け、白虎びゃっこ！　僕は青龍せいりゅうなんだ！』

　青方龍士郎あおかたりゅうしろうの悲痛な叫びが俺に届いた。
　そしてヤツの叫んだ『青龍せいりゅう』の一言が俺の胸に突き刺さった…
　こんなに俺の身近にいたのか…　俺と同じ神獣の青龍せいりゅうが…
俺は全てを理解した。

「お前が青龍せいりゅう…　分かった、お前を信じる。
俺はどうすればいいんだ？」

『ありがとう、千寿せんじゅさん。僕を信じてくれて…
　じゃあ聞いてください。深刻な問題です…
　さっきの敵攻撃ヘリから受けた銃撃で「ロシナンテ」の右補助翼に損傷を受けています。外から見ると…車体が安定性を欠き、わずかずつですが右側が下がりつつあります。
　間もなくスーパージェットブースターのジェット噴射も切れます。
　この不安定な状態では、「ロシナンテ」の発信するビーコンをスペードエースが受信して行うにしても、緻密ちみつな精確さを要するCombineコンバインは危険すぎます。
　「ロシナンテ」と「黒鉄の翼」が激突して、双方とも空中で木っ端微塵こっぱみじんです…』

　青方からここまで聞いた俺はゴクリと唾を飲み込んで、助手席の鳳の顔を見る。鳳の顔は真っ青だった。不死身の俺はどうとでもなる。だが、このまま海面に突っ込んだら鳳の命はないだろう…

「で…　お前はどうするつもりなんだ、青龍…　言ってくれ。」
　俺は万に一つの期待を込めて、祈る気持ちで青方龍士郎あおかたりゅうしろうに問いかけた。青龍のこいつなら何とかしてくれる筈だ…

『僕が「黒鉄の翼」に乗ったのは、初めてのCombineコンバインを行なうのが、いくらロシーナとスペードエースという最高の頭脳を誇るコンピューターだったとしても予測不能の事態が生じた時に計算では対処し切れない事を危惧したからなんです。
　残念な事に、僕の不幸な予測は当たってしまった…』

「お前のせいじゃないさ…」
　俺は柄がらにもなく、青方龍士郎あおかたりゅうしろうを慰なぐさめる様に言った。

　『とにかく、僕が手動操縦で必ずCombineコンバインを成し遂げ、「黒鉄の天馬アイアンペガサス」を完成させて見せます。先祖より受け継つぎし、この青龍せいりゅうの名に賭かけて！』
　
　青方龍士郎あおかたりゅうしろうの自信に満ちた声が聞こえてきた。　　　
　俺は少年青龍せいりゅうの若さゆえの無謀むぼうさと自信に満ちた挑戦心を頼もしく思いながら、自分の血気盛けっきさかんだった少年期を思い出して微笑ましく思った。

「ふ…　わかった、やって見せろ。俺達の命運はお前にまかせた。」
　そう言って笑いながら横を向くと助手席の鳳 成治おおとり せいじの顔が引きつっていたが、俺は無視した…

「マスター！　スーパージェットブースターの燃料の残量ゼロ！
　『ロシナンテ』のジェット推進が停止しました！　重量軽減のためブースターを車体より切り離しました。
　慣性での飛行に移ります！　これより、重力と風圧の影響を大きく受けます！」

ロシーナの声が車内に響き渡った。
　ここから先は、運を青龍せいりゅうに任せるしか無かった。
　
　俺は眼前に広がる青空を見ながら、隣で真っ青な顔をしている鳳おおとりには不謹慎ふきんしんながらも、こみ上げてくる笑いを止められなかった。
　やはり…ピンチになるほど楽しくなる俺の悪い癖は、治りそうもないようだ…

＊＊＊＊＊＊＊＊

「スペードエース、始めるぞ！
　こちらからも『ロシナンテ』に向けてビーコンを発信しろ！
　双方向のビーコンの誘導に従い、俺が手動で『ロシナンテ』の右下がりの傾きに『黒鉄の翼』の角度を合わせる。
　この角度が少しでも狂えば…掴みそこなった『黒鉄の爪』が『ロシナンテ』のボディーを引き裂いちまうぞ！
　死ぬ気で『ロシナンテ』をキャッチだ！」

　青方龍士郎あおかたりゅうしろうは『黒鉄の翼』の左右のティルトローターを調整し、右翼をやや下へと角度を修正させた。

その時だった！

「ガガガッ！」
　『黒鉄の翼』の機体に数発の30mm徹甲弾が当たった。

「数発の徹甲弾を被弾！　損傷軽微！　敵攻撃ヘリ『AH-64R アパッチ改』一機が当機の後方より攻撃してきました！」
スペードエースの悲鳴のような声が操縦席に響き渡る。

「くそっ！　野衾のぶすまはどうしたんだ？」

　スペードエースが後方監視カメラの映像を、操縦席前面のHUD（ヘッドアップディスプレイ）に即座に映し出した。
　映し出されたのは、こちらを追尾する一機の『AH-64R アパッチ改』と、さらにその後方には、もう一機の『AH-64R アパッチ改』との戦闘で、かなりの砲撃を受けて血まみれになりながらも火炎攻撃を続ける妖怪『野衾のぶすま』が対峙たいじしていた。

「やはり最新鋭兵器の前では限界があるか…　衾ふすま、よくやったぞ。戻れ！」
　青方龍士郎あおかたりゅうしろうの叫び声と共に、それまで後方映像に映し出されていた妖怪『野衾のぶすま』の姿が空中から消え去った。

「ダダダダダダダッ！」
　その間にも『AH-64R アパッチ改』からの30mmチェーンガンの攻撃が容赦ようしゃなく浴あびせられる。
「ダダダダダダダッ！」「ダダダダダダダッ！」
　『野衾のぶすま』と対峙していたもう一機の『AH-64R アパッチ改』も『黒鉄の翼』に攻撃を開始した。
二機からの同時攻撃だった。

　青方龍士郎あおかたりゅうしろうは『野衾のぶすま』を呼び戻した魔槍『妖滅丸ようめつまる』を操縦席脇に置き、置いてあった二本の太刀たちのうち一本を取り上げた。

「今度はお前の番だ、『時雨丸しぐれまる』、頼むぞ！
出でよ、水竜すいりゅうっ！」
『時雨丸しぐれまる』と呼びかけられた太刀の、鯉口こいくちを切って少し覗のぞいた刃やいばが青い光を発した…

　すると『黒鉄の翼』の後方の空間に突然、まるで竜巻たつまきの様な激しい水流の渦巻うずまきが出現した。
　その渦巻は激しい回転により凄まじい水しぶきを上げてはいるが、全体は空中に浮き、信じられない事に『黒鉄の翼』に付き従い同じ高速度で飛行し続けているのだ。

　巨大な渦巻は、二機の『AH-64R アパッチ改』と『黒鉄の翼』の間に割って入ったかと思うと、攻撃ヘリから『黒鉄の翼』を庇かばい、機体を覆おおい隠すようにして飛行し始めた。

　二機の『AH-64R アパッチ改』が渦巻に構わずチェーンガンの掃射そうしゃを続ける。

「キシャアァーッ！」
　大空に響き渡るかのような雄叫おたけびを上げながら渦巻の中心から、水で出来た透明な竜の頭が突如とつじょとして顔を出した。
　その渦巻は…　まさしく、激しく渦を巻く水流で出来た水竜の全身そのものだったのだ。
　一頭の水竜が、自身を構成する水で激しい回転を続けて『黒鉄の翼』を護まもりながら飛行しているのだ。　（※２）

　二機の攻撃ヘリ『AH-64R アパッチ改』から容赦なく撃ち出された30mm徹甲弾が全て、水竜の巨大な渦巻に飲み込まれていく…
　発射された30mmの機関砲弾は一発として『黒鉄の翼』の機体にまで達する事は無く阻はばまれた砲弾は、その全ての運動エネルギーを渦巻によって吸収され海にバラバラと落下して行った。
　その渦うずを成す水の竜は、『黒鉄の翼』を護る水の障壁バリアと化していたのだった。

「いいぞ、水竜！　そのまま俺達を護まもれ！
スペードエース、Combineコンバイン開始だ！」

【次回に続く…】

　（※１）幻田恋人著：妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」（➁弐）" 恐るべき魔槍… "　参照
　
　（※２）幻田恋人著：妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「火車と『時雨丸』」（前編）　＆　（後編）　参照