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妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』:「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(⑳弐拾)" 青龍よ!! 傍若無人の不死者に打つ手はあるのか⁉”

「ふ、不覚…」
拙者は折れそうなほど強く歯を食いしばった
拙者のせいだ…
あかね殿をまもり切れなかった…

「ほほう…
我が主マイマスターよ… 如何いかがなされましたので?
 みにくい猿忍者めはこの通り、私が退治致しましてございます」
 ノスフェラトゥが怪物の姿のままで、拙者達の方を振り返って言った

「貴様… よくも…」
拙者は逆上していた…
 腰にびた愛刀の魔剣『斬妖丸ざんようまる』に手をかけ立ち上がった
 拙者はノスフェラトゥに向かって『斬妖丸ざんようまる』の鯉口こいくちを切る…

我が主マイマスター… それは何の真似でございますか?
 いったい、何を怒っておいでなのか…私にはさっぱり分かりませぬなあ…
 てっきり私めは、猿忍者を退治致しましたのをめて頂けるものとばかり思っておりましたのに、その魔剣にかけられた右手はいったいどういう了見でございましょうか?
 はなはだ心外ではありますが、私に対して何やら含むところがお有りのようですな… 我が主マイマスターよ」
 ノスフェラトゥは口にする丁寧な言葉とは裏腹に、拙者の目を真っ赤に燃える邪眼じゃがんにらみ付けながら言った
 しかも、その口元には明らかに嘲笑ちょうしょうを浮かべていた

「貴様… どうにも拙者は、その慇懃無礼いんぎんぶれいな貴様の態度を好きになれなかったが、今ようやく理解出来たぞ…
 拙者に対して口や態度では従属じゅうぞくしている風を装ってはおったが、それは貴様の芝居だったのであろうが?」
 拙者はノスフェラトゥの返答次第では、即座にヤツを斬り捨てるつもりだった

「ふふふふ… とうとう、バレましたかな?
左様でございますなあ…
 おっしゃる通り、私はあなた様の使い魔になり下がった事など一度たりともありませぬな… フハハハハ!」

 ノスフェラトゥが高笑いを上げながら拙者に言いはなった…

「何を、貴様! ぬけぬけと…
 では…今までの貴様のその鼻につく、へりくだった態度は芝居であったと申すのだな?」
 予想はついていた事とは言え、ノスフェラトゥ自身の口からあからさまな申し様を聞いて、拙者は『斬妖丸ざんようまる』を抜き放つ手を途中で止めてもヤツに確かめずにはいられなかった

「いかにも… 其方そなたの持つその魔剣『斬妖丸ざんようまる』とやらが、実に興味深い剣なものでな
 私としては、その魔剣の内部を調べて見たくなったので自らの意志で封じられたふりをしてみたまでだ…
 しかし、貴様が打ち上げたあの人工の太陽には正直言って参ったがな…
 我ながら情けない話だが、あの時ばかりは不死の私も己が肉体の消滅を覚悟した… (※)
 苦しまぎれの策として、人工太陽からその魔剣の内部に逃げ込んだというのが真の事情ではあるがな…
フフフ、おかげで命拾いしたわ
 あのままでは、我が身は人工太陽に全身を焼き尽くされておった
 しかし…魔剣の中へ入ったは良いが、自力で外へ出られんので難儀しておったのだ…
 そこへ例の猿忍者どもが現れ、貴様の命令で魔剣が私を外へ吐き出しよった…というのが事の真相という訳だ
 そこの死にかけておる猿忍者のおかげで、私は再び外の空気を吸う事が出来た…
 その礼と言っては何だが、その猿めには二度目の死を与えてやった
 そ奴がどうやって人間からあやかしに転生したのかは知らぬが、もう再び生き返る事は出来まい…」

 その時、もう虫の息と言うしか無い状態だった猿飛 佐助さるとび さすけが、横たわっていた状態から仰向あおむけへと身体を倒しながら苦し気に言った
「お…おのれ… む、無念じゃ… 青龍せいりゅうよ… は、早う…その娘を、な…何とか致さぬと…
 はようせねば、わしと、お…同じに…」

拙者の耳に佐助の瀕死ひんしの言葉が届いた
そうだ…あかね殿を…

あかね殿! しっかり致せ!」
 拙者は、脚に打ち込まれた猛毒針のせいで地面に横たわっていたあかね殿の身体を抱き起して、彼女を揺さぶりながら必死の思いで呼びかけた

「りゅ…龍士郎りゅうしろう様… く、苦しい…」
 苦しげなかすれ声で、そううめくように言ったあかね殿の顔は真っさおで、おびただしい汗にまみれていた
 彼女の身体は、着物の上から触れても分かるほどの発熱状態にあった…
このままでは…

「その娘、気の毒だがもう助かるまいよ… 私の猛毒をびた体毛針たいもうばりを、その身に喰らったのではな…
 しかし、もったいない事をした… 毒に犯される前に、私がその生娘きむすめの血をすすっておれば永遠の美しさを保っていられたものを…
誠に残念という他は無い…」

 ノスフェラトゥの抜け抜けとはなった一切いっさいの情けもこもらぬ言葉に、拙者は再び逆上しかけた
 だがその時…今わのきわにある瀕死ひんしの佐助の声が、またしても聞こえてきた

「せ、青龍せいりゅう… その娘… こ、こおらせよ… む、娘の時を止めるのだ… ゆ、雪女を…」
 そこまで言って佐助は、今度こそ力尽ちからつ息絶いきたえた…

 拙者は、佐助の死の間際の言葉に思い当たった
「佐助殿、すまぬ! 礼を申す!」

でよ! 雪女!」
 拙者はすぐさま『斬妖丸ざんようまる』を抜き放ち、空中に円を描きながら叫んだ

「あぃー! 主様ぬしさまわらわをお呼びかえ?」
 『斬妖丸ざんようまる』からき出した凄まじい冷気と共に雪女が目の前に現れ出た

「お雪! この娘御むすめごを生きたままこおらせよ! 決して死なせてはならぬぞ!」
 拙者はあかね殿を静かに地面に仰向けにして横たえ、胸に組ませた手を載せてあかね殿の身体から離れた

「あいぃー! お安い御用じゃ! とくとごらんあれ!
 娘よ、こおりゃあーっ! ふううぅーっ!」
 雪女の口からすさまじい勢いで冷気が吐き出され、あかね殿の身体に吹きかけられた
 かつて、たくさんの男達を自分の欲望を満たすために凍らせ、氷漬けにして閉じ込めていた雪女の口から吐き出す冷気は、あかね殿の身体を瞬時に凍らせた

ぬし様、ご命令通りに娘御むすめごを生きたまま凍らせましたえ」
 雪女がほこらしげに拙者に向かって言った

「よし! よくやってくれた、お雪!」
 これで佐助殿が今際いまわきわに残した助言通り、身体をめぐる毒ごとあかね殿の時を停止させて時間はかせげた
 この間に、解毒げどくする方法をノスフェラトゥめに吐かさねば…
 拙者は愛刀の魔剣『斬妖丸ざんようまる』をノスフェラトゥに向けて正眼せいがんに構えて言った

「ノスフェラトゥよ! 貴様を決して許す訳にはいかぬが、あかね殿の身体をむしばみつつある貴様の毒を消し去る方法を言え!」
 拙者は有無を言わせぬ厳しい調子でノスフェラトゥに迫ったつもりだったが、実際には言葉に心のあせりが含まれてしまうのを、自分ではどうする事も出来なかった…

「フフフフ… 考えたな…
 瞬間に凍結させる事によって娘の身体の機能を停止させ、私の猛毒の巡りをも止めてしまうとはな
 しかし、それでは根本的な解決になりはせぬぞ…
 それにな、青方あおかた殿よ… 剣を構えて他人におのが望みを強要するというのは感心出来かねるなあ その行為を脅迫というのでは無かったか?
 そのようざまでは、正義の『妖狩りの侍』の名が泣くのではあるまいかな?
 もっとも、さすがの妖狩りの侍殿とて愛しい娘が死にひんしているとあれば、背に腹は代えられぬか?
 フフフフ… この私も、いささか貴様にあわれをもよおす事も無いではない…」

 ノスフェラトゥの人を小馬鹿にし、さげすんだ表情に拙者は逆上しそうになった
 だが、この状況で何よりも優先するのはあかね殿の命…
 そう思った拙者は、おのが本心を押し隠してノスフェラトゥに言った

「頼む、ノスフェラトゥ…殿どの
 我らの問題にあかね殿は何の関係も無いのだ
 頼む…この通りだ、解毒げどくの方法を教えてくれい…」

 拙者は『斬妖丸ざんようまる』をさやに収め、仇敵きゅうてきのノスフェラトゥに対し死ぬほどの屈辱を感じながらも頭を下げずにはいられなかった
 この程度の屈辱など…茜殿の窮地きゅうちくらぶれば何というほどの事もあろうか…
 何としてでも、拙者はあかね殿を救わねばならぬ…
 いや、もしあかね殿が命を落とす事があったならば、拙者は…

「ふははは… 愉快ではないか
 これが、日本ジャポンあやかしどもの恐れる『妖狩りの侍』の正体か…
 何の事は無い、れた女子おなご一人のために敵に頭を下げるなど、戦士の風上にも置けぬなあ… ふはははは!」

「笑いたければ笑うがいい… 拙者は自分をどれだけ嘲笑されようが構わぬ! 頼む、ノスフェラトゥ!
あかね殿を救う手立てを教えてくれい!」
 拙者は自分の侍としての誇りなどどうでもよかった… 何としてでもあかね殿の命だけは救わねば…

「ほほう… では、青方殿よ 其方そなたが毛嫌い致す私に対して、その場で土下座してもらおうかな? 其方のその端正たんせいな顔立ちのひたいを地面にこすり付けてな
 フフフフ… 其方にそれが出来るのであれば、考えてやっても良い…」
 ノスフェラトゥは顔中に嬉々ききとした下卑げびた笑いを浮かべながら、拙者を見下みくだす様に冷たく言いはなった

「うぬ… それが貴様の望みというならば、拙者に異存はない…
 しかし、その前に… 水竜よ! お雪と共にあかね殿の身体を安全な所へ!」

「キシャーッ!」
わらわ達にまかせや、ぬし様!」

 水竜は雪女によって完全に凍らせられたあかね殿を、そっと優しく取り囲むようにして自分の身体で包み込み、拙者達から遠ざけて行く
 雪女も静々しずしずと水竜に付き従った

「お前達、茜殿を頼んだぞ…」
 拙者は祈るような気持ちで遠ざかる茜殿の方を見やった

「さて、青方殿よ 土下座をしてもらう上に、もう一つ私からの条件がある…
其方に聞く気はあるかな?」
 ノスフェラトゥが横目でこちらを見つつ、いやらしい響きをびた声で拙者に対して言った

「何なりと申して見よ、拙者に出来る事であれば…」
 今の拙者にいやも応も無かった
 ヤツの申す要求を飲まねば、茜殿の命が…

「では申し上げよう… 其方の愛刀である魔剣『斬妖丸ざんようまる』を、こちらに渡してもらいたい
 其方にそれが出来るかな…? 如何いかが致す?」

「くっ…」
拙者は息をんだ…
 ノスフェラトゥの要求は予想されてしかるべきだったのだ
 猿飛佐助を倒した今… このに及んでヤツの恐れるものと言えば、拙者と『斬妖丸』の一心同体の組み合わせのみ…
 だが、この『斬妖丸』は拙者の武士の魂であると共に、拙者の分身ともいえる存在…
 しかし、茜殿の命に代えられるものなどがこの世にあろうか…
拙者は断腸だんちょうの思いで決心した

ゆるせ、我が魂…『斬妖丸』よ…

「仕方あるまい… 如何様いかようにでも好きに致すがよい…」

 拙者は腰に帯びた愛刀『斬妖丸』をさやごとおびから外して、自分の前の地面に置いた そして、立ち上がった拙者自身は置いた『斬妖丸』の位置から遠ざかった

「フフフフ… 他愛たあいも無いな、青方殿… あまりにもあっけなくて、私は拍子抜ひょうしぬけしたぞ そこでくたばった猿忍者モンキーのほうが、よほど歯ごたえがあったというものだ
 たかが娘一人のために敵前で地面にひざを付き、己が魂ともいえる愛刀を差し出すとはな… おろかなヤツよ
 フハハハ… 貴様から魔剣『斬妖丸』をうばってしまえば、もう私の敵ではあり得ぬな
 ゆっくりと時間を掛けて、この日本ひのもとの国を私の支配下にしていくと致そうかな…」

 ノスフェラトゥは魔剣に近付き、『斬妖丸』を拾い上げた

「ふ… 思えば、私はこの魔剣の中に封じられていた間は、我ながら情けない事に自分では何も出来ない状態であった…
 貴様がこの世界へと私を呼び出すまではな…
 この魔剣『斬妖丸』の中は、時間が止まりし異空間…
 私の魔力を持ってしても抜け出す事はおろか、この私に反逆をくわだてる意志すら起こさせぬ不思議な居場所であったわ…
 思い返しただけで恐ろしい場所… 二度と再び、閉じ込められるのは御免ごめんじゃ  
 この私ですら、ずっとあそこにいると忌々いまいましい事に何やら心がおだやかとやらになりそうであった…
 この『斬妖丸』にとらわれし他の魔物どもは、まるできばつめを抜かれた様に大人しくなっておった… ケッ! 反吐へどが出るわ!
 この様な憎らしい魔剣めは、私の怪力でへし折ってくれよう!」

 ノスフェラトゥは魔剣『斬妖丸』を両手で持ち、渾身こんしんの力を込めて折ろうとした… しかし、折れるどころか魔剣はさやからもきしみ音すら発する事が無かった
 ノスフェラトゥが息を荒くして、いくら魔物としての並外なみはずれた怪力を加えようとも『斬妖丸』はびくともしなかった

「クソッ! ならば、刀身だけでもへし折ってくれる!」
 自分の思い通りにならぬ腹立たしさに、ノスフェラトゥは抜き身のやいばのみをへし折るために『斬妖丸』のつかを握り、鞘から抜こうとした…

 すると、ノスフェラトゥの抜こうとする動作には『斬妖丸』は逆らおうとしないらしく、ニヤリと不敵な笑いを浮かべたノスフェラトゥがゆっくりと刀を抜き始めた…

 するするとノスフェラトゥに抜き出される『斬妖丸』の刀身…

しかし、見よ!

 魔剣『斬妖丸ざんようまる』のき出しとなった刀身がまばゆい光を発し出したのだ
 それは眩く青白い清浄な光だった
 だが、それは拙者には心地よい光に見えた
 
「ぬおおおぉーっ! 何だこの光は! まぶしい! 目がっ!目が焼けるう!」
 ノスフェラトゥは叫びながら両目を閉じて顔をそむけ、『斬妖丸』のつかから離した右手で刀身から発する光をふさぎ押さえようとした

「ジュゥーッ!」
 ノスフェラトゥの右手は『斬妖丸』の刀身に軽く触れただけに見えたが、その手は勢いよく白い煙を噴き上げ、肉のげる匂いをあたりにまき散らしながら刀身の発する青白い光に焼かれていく

「ぐぎゃあああぁー!」
 ノスフェラトゥはあわてて『斬妖丸』のさやを握っている左手を離した
 落ちた『斬妖丸』は地面に落ちた衝撃で刀身が鞘に収まった すると当然、『斬妖丸』の刀身が発していた青白い光は消え去った

「な、何だ… 今の光は…? もう少しで目を焼かれる所であった」

 ノスフェラトゥは両目を激しく瞬きしている どうやら、ヤツの両目は間一髪で失明をまぬがれたらしく無事だった様だ…
 だが、その両目で見つめたヤツの右掌は無事では済まなかった 『斬妖丸』を手放した今もまだ、激しく煙を噴き出しくすぶり続けていた

「ぐおお! なぜ消えん? この程度の火が!」
 ノスフェラトゥが口から激しく息を吹きかけても、いくら右手を振り回しても 右掌を焼き続ける青白い炎は消えなかった… それどころか、ヤツの右掌から立ち昇る煙と肉の焼ける匂いの放出は激しくなってきていた

「おのれ! こんな右手などっ!」
 ノスフェラトゥは何を思ったか左手を手刀の形にするやいなや、その左手刀で自分の右手首を叩き切った!

「ボトッ!」
 地面に落ちた右手は、まだ燃え続ける…
 そして…やがて右手全体が青白い炎に包まれ、しばらく燃え続けた後に真っ白な灰となった 白い灰は吹いてきた風に吹き散らされた

「おのれ、まわしい魔剣め! そんな剣に用は無いわ!
 この程度の傷など私には、何ほどの事も無い! 見よ!」

 そう言ったノスフェラトゥは、手首から先を自ら切断した右腕を前方に突き出した そして右腕に激しく力を込める!

「ふんっ!」
「ズボボッ! グジュルルッ!」

 何と! 自分で切り落としたヤツの右手首の断面から、数十本ものミミズの様な色と形をした触手が嫌らしい音と共に粘液をまき散らしながら突然現れたかと思うと、にゅるにゅるとうごめきつつ伸び始めた
 そして… ミミズの触手はからまり合って出来た平たい部分から五本の枝を分岐させた
 見る間にミミズの触手達は、ノスフェラトゥの右手を形作り元通りに復元再生させてしまった…

「ふはははは! この程度の再生など、朝飯前よ!」
 ノスフェラトゥはニヤニヤと笑いながら、再生した自分の右手で握ったり開いたりの動作を繰り返し、その元通りのなめらかな動きを自慢そうな表情で見つめた

「!」
 そのノスフェラトゥの顔面に、驚愕きょうがくの表情が広がった

「ぬおっ! 何だこれは!」
 ノスフェラトゥの見つめる先、自分の再生した右掌にはまるでてのひらを横断するかの様に痛々しいほどの火傷やけどの痕跡があったのだ
 それは、ちょうど…真っ赤に焼けた刀の刀身を横にして掌に押し付けた様な火傷の形であった
 その火傷は、まさしく青白い輝きを放った『斬妖丸』が付けた痕跡であろう
 驚くべき事に、ノスフェラトゥが自ら右手首から先を切断して再生した後も『斬妖丸』が焼き付けた烙印らくいんはヤツの右掌から消える事が無かったのだ
 これには拙者も驚き、後方の離れた所に横たわる猿飛佐助の遺体の方を振り返り、その右手首を見た

 先ほど清海入道せいかいにゅうどうとの戦闘の前に、拙者はあかね殿に無礼を働いた猿飛佐助の右手首を抜き打ちで斬り落としたが、その時は佐助の右手首は切断面をくっつける事で見事に癒着ゆちゃくした
 今、佐助の遺体の右手首を見ると、やはり『斬妖丸』に切断された傷跡は完全に消えていた
 月明かりの中での佐助との戦いの最中さなかであったため、しかと確認した訳では無かったが、今はっきりと現物をこの目で見た…
 あの際は確かに『斬妖丸』の刃は通常の状態で、刀身から青白い光などを発していなかったのだ
 つまり、魔剣『斬妖丸』であっても常時その状態である訳では無い…
 不死者にとって、通常の刃で斬られた傷は何の差しさわりも無く再生出来るが、刀身からあの青白き光を発動中の『斬妖丸』だったら…

 我が魔剣『斬妖丸』ならば、不死者にも致命傷となり得る傷を与える事が出来るのだ…
 つまり、さっき『斬妖丸』が発した青白き光…
 そうだっ! あの青白き光を放つ状態の『斬妖丸』でヤツを斬りさえすれば!

「ぬううう! おのれおのれおのれええっ! 許さん! 絶対に許さんぞ、下賤げせんな魔剣ごときが我が不死の肉体に傷を与えるなど! そのあるじもろとも焼き尽くしてくれん!
焼け死ねい、青方龍士郎あおかたりゅうしろう!」

 『斬妖丸』に付けられた右掌の烙印らくいんに我を失ったノスフェラトゥは、地面に置かれた『斬妖丸』に向かって吠えるかのように自らの口を大きく開けた

「いかん、斬妖丸っ!」

 拙者が叫ぶと同時にノスフェラトゥは、その大きく開いた口の喉奥のどおくからすさまじい勢いで真っ赤な火炎を吐き出した

「ゴオオオオーッ!」
 またたく間に『斬妖丸』を包み込む真っ赤な業火ごうか
 そしてノスフェラトゥは、口から火炎を吐き出し続けながら拙者にも顔を向けた
「ゴオオオオーッ!」
拙者に炎が襲い掛かった

主様ぬしさまあーっ!」
「キッシャアアアーッ!」
 拙者の後方であかね殿を守っていた雪女と水竜が同時に叫んだ!

しかし、もう間に合わぬ!
あきらめた拙者が目をつむった時だった

「てええええぇーいっ!」
 空気をふるわせるすさまじい裂帛れっぱくの気合と共に、上空から何かがって来た

「ズバァーッ! ゴトッ! ゴロゴロ…」

 目を開けた拙者の前には、まだ口から火を吐こうと大口を開いたままのノスフェラトゥの首が地面に転がっていた

 そして… その斬り落とされ地面に転がりしノスフェラトゥの首の横には、背中に半透明の大きな翼をやした一人の隻眼せきがんの剣士が立っていた

ああ、その剣士とは…

大天狗おおてんぐ柳生十兵衛 三厳やぎゅうじゅうべえ みつよし! 推参すいさんっ!」




【次回に続く…】


(※)ノスフェラトウとの戦い… 幻田恋人著:妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「伴天連の吸血鬼…」 参照

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