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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第16話「最強の黒オニ! 白虎拳通じず… 明かされたその正体とは?」

 俺は奥で目をつむったまま腕組みをして立っている、黒い色をした小柄なオニが気になって仕方が無かった。
「アイツだ… アイツが何かを俺に向けてはなったんだ、だがどうやって…?」
 俺が小柄で黒いオニを見つめていると、青龍刀を持った灰色のオニが大上段に振りかぶった青龍刀を、奇声を発しながら俺めがけて力いっぱい振り下ろして来た。
「きええええーっ!」
 俺は棒を天井に向けて放り上げて、凄まじい勢いで振り下ろされた青龍刀を両掌ではさんで受け止めた…真剣白刃取りだ。
 俺は青龍刀を受け止めたままの両腕を軽くひねって、青龍刀をパキンとへし折りざまに灰色のオニの腹を蹴とばしてやった。オニは無様に後ろへと吹っ飛んで行った。このフロアは半分が物置の様になっており、灰色のオニは置いてあったたなに激突して背中から床へと落ちて止まった。
「ほら、返すぜ!」
 俺は両掌で挟んでへし折った青龍刀の刃を、灰色のオニめがけて目にも止まらぬ速さで投げはなった。
 刃は俺の狙い通り、立ち上がりかけていた灰色オニの頭部に見事に突き刺さって、ヤツの息の根を止めた。

「残り二匹…」
 だが、俺にとって最も気になるヤツは身動きせず目を瞑ったままの黒く小柄なオニ一匹だった。
すかさず、俺の左側から三節棍さんせつこんを持った黄色いオニが襲いかかって来た。
 このオニの持つ三節棍は、長さ50~60cm、太さ4~5cmほどの3本の棒を鎖で一直線になるように連結した武器で複数の関節部分を持ち、振り回して敵を攻撃する事が可能だった。
 しかも関節部分を接合することで、一本の棒としても使用出来る。

「ハイーッ!」
 気合と共に黄色いオニは、一本の棒と化した三節棍を横殴りに振って来た。俺が左前腕部で棒を軽く受け止めると、鎖で繋がれた先端側の棍が二段目の棍から離れて俺の背中を痛打した。
 黄色いオニは満足そうにニヤリと笑ったが、俺は何ほどの痛みも感じなかった。たしかに普通の人間だったら、今の一撃で背骨を砕かれていただろう。半身不随になっていたに違いない。
だが、相手が悪かったな… 俺は天下無双の獣人白虎だ。

 俺はその場で跳躍して、さっき真上に放り投げて天井に突き刺さったままの棒を引き抜くと同時に、その棒を槍の様に黄色のオニに向けて投げつけた。
 獣人白虎の強靭な右腕から投げられた棒は、三節棍を構えたままで俺を見上げていた黄色いオニの額をねらい通りにつらぬき、そのまま床に突き刺さった。

 そして、黄色いオニを仕留めた俺が床に猫族のしなやかな動きで着地しようとした瞬間だった…
「ビシュッシュッ!」

何かが俺の両足の甲を同時に貫いた!
 さすがの俺も着地する瞬間だったために、両足を払われたように体勢をくずして尻もちを着いてしまった。
この俺が尻もちだと! 
こんな不様ぶざまな姿を人目にさらすなど、俺はかつて経験した事が無かった。

いや、昔… あるにはあった。だが、その相手はもう…

 俺はすぐに立ち上がり身構えた。両足の貫通した傷は、獣人の驚異の再生能力ですでに修復されている。俺には傷よりも心に負ったダメージの方が大きかったのだ。
だが、またあの音だ…
「ビシュッ!」
 俺は自分の顔を横にずらして顔への直撃を瞬時にけ、右手で飛来したモノをつかもうとした…
「ブシュッ!」
 だが、飛来したものは俺の右掌から甲へとつらぬいた。骨で止まる事無く右手の示指骨と中指骨の間の肉をぶち抜いたのだった。

「カキンッ! コン、コン、コン…」
 俺の右手の肉をぶち抜いた後、俺の後ろにあったスチール製のロッカーの扉に当たったモノは床に落ちて数回はねた後で転がった。それは黒い色をした鉄製の玉の様だった。

「なるほど、指弾か… 俺と同じ技を…」
 俺は黒いオニを見た。
 なんて野郎だ…さっき見た時と少しも体勢も変えていないばかりか、目もつむったままだった。

「何てこった… 俺の指弾よりも威力も早さも上を行ってやがる…」
 オニである事から人間の能力の数倍から十数倍はあると見ていいが、俺だって獣人白虎だ。
 力でも速度でもドーピングで作り出された強化人間などに劣るはずが無いのに、それをこの黒オニは…

「まさしく、最強のオニって事か…」
 俺が黒オニをにらみつけようとした時だった。黒オニの全体像が蜃気楼しんきろうのようにれたのだ。

「な、何だ…」
 俺は自分の目を疑った。目の錯覚か…とまばたきを数回した俺のすぐ目の前にヤツが立っていた…
 そして、俺よりも小柄なヤツは軽くかがんだと思うと、右足を踏み出しながら右の掌底を俺の鳩尾みぞおちに打ち込んだのだ。そんなに力を込めた一撃では無かったが、俺の鳩尾から背中へと衝撃が走り抜けた。
俺は、まるで電撃を受けた様に感じた。
 
 外観上は何も変化は無かっただろう… だが、おそらく俺の内臓はズタズタに傷付けられたに違いなかった。普通の人間なら内臓破裂で即座にショック死を起こしていただろう。
 俺は文字通り後ろに吹っ飛んだが、空中を飛びながら破裂した内臓が腹の中で即座に再生修復されていくのを感じた。
 俺は猫族の身のこなしで、不様ぶざまに倒れる事無く瞬時に空中で身体をひねって見事に床に着地した。

だが…
 着地した場所にはすでに黒オニが立っていたのだった。俺の着地を待ち受けていたヤツは、腹部への攻撃が無駄だと悟ったのだろう。
振り向いてヤツへと対峙した俺の股間を、右膝でり上げて来た。
 俺は左掌底でヤツの右膝蹴りを払った。だが、その瞬間に俺はやや前かがみの姿勢になってしまったのだ…

「しまった! 双峰貫耳そうほうかんじかっ!」
気が付いた俺が叫んだ時は遅かった…

俺の両こめかみに、ヤツのこぶしの甲の部分が同時に叩き込まれたのだ…
 双峰貫耳とは中国武術の太極拳において用いられる技の名称で、まず敵である相手に蹴りを入れ、相手が身をかわひるんだすきに両拳で相手の両耳を打ち付ける攻撃を加える。
 今度はヤツの拳から俺の頭へと電撃が加えられた様に感じた。そう思ったのを最後に俺の意識は消失した…
俺は何も見えず、何も聞こえず、何も感じなくなった…

『所長! しっかりして下さい、所長!』 『ピーピーピーッ!』
 風祭かざまつり聖子の必死に呼びかける叫び声と、鳴り響くヘッドセットの警告音が遠くで聞こえた…

「う、うう…」
どれくらいの間、意識を失っていたのだろう…?
俺は床にうつ伏せに倒れたままだった。
俺は床に両手を着いて身体を起こした。少し頭がフラフラする…

「黒オニは… ヤツはどこだ…?」
俺は周りを見回した。

「いた…」
 ヤツは置いてあった机に腰を下ろして座っていた。座ってはいたが、またヤツはさっきの様に腕組みをして目をつむったままだった。

 頭がふらつくのは、おそらくヤツの双峰貫耳そうほうかんじで俺の脳が一度完全に破壊されたのだろう。だが…不死身の俺の脳は意識を失いながらも再生修復し、元通りになって意識が戻ったのだ。
 オニどもは脳を破壊されれば死んでしまうが、完全な白虎と化した俺の再生能力は損傷した脳さえも修復してしまうのだ。
 しかし、急激に再生されてまだ間が無い俺の脳は、本来の働きをまだ取り戻せていないようだった。俺がふらつくのは、そのせいだろう…

記憶に問題は無かった… 全部思い出せる。
 ヤツが俺に打ち込んだ腹部と頭部への攻撃は通常の打撃ではあり得なかった。獣人化している俺にダメージを与えたいのなら、戦車の砲撃でも加えない事には無理だ。

俺はまだ完全にはハッキリしていない頭で考えた…

 あの黒オニが中国武術の達人である事は間違いない。しかも舞の様な身体の動かし方といい、さっきの双峰貫耳そうほうかんじから見ても太極拳を極限まで極めていると見ていいだろう。
 それに、あれはただの打撃では無い… ヤツは自分の掌底や拳が俺の身体に当たる瞬間に「気」を送り込みやがったんだ。
 「気」すなわち「気功」だ。「気功」は中国では中医学の経絡理論などと結びついて、太極拳と同様に民間でも健康法として盛んに行われてきた。
ヤツは自分の拳法に「気功」を応用したんだ。

 ヤツは外気功によって外から取り入れた「気」を自分の体内で内気功によって練り上げ極限まで高め、打撃が当たる瞬間に手から俺の体内に流し込んだんだ。
 流し込まれたヤツの「気」は、俺の内臓や脳を内部からズタズタに破壊したんだ。これが獣人で不死身の俺で無かったら、内臓破裂と脳の破壊で確実に二度死んでいた所だ。
 オニになる前の人間だった時でさえ、ひょっとするとヤツは俺を倒していたかも知れない…

 俺にはあの究極の身のこなしと、オニと化してはいたが目を細めたヤツの表情にも見覚えがあった。

だが、そんなはずが無い… あの人がそんな…
 俺は必死になって自分の考えを否定しようとした。だが、世界広しと言えどもこんな事を軽々とやってのけられる人物と言えば、俺には他に思い当たらなかった。

リン… 石龍シーロン…」
 俺がその名前をつぶやいた時、黒オニの表情にわずかに動きがあった。ヤツのまゆがピクリと動いたのだ。俺はその一瞬の表情の動きを見逃さなかった。

「そうか、やはりあなただったのか… 師匠…
林 大人リン たいじん。」
俺は目を見張って、驚いた表情を隠す事が出来ないままにつぶやいた。

 すると黒オニは、ずっとつむったままだった両目を開いて俺を見た。そして、俺を見つめたまま嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべて見せた。
まるで、失くしていた感情をやっと取り戻したかのように見えた。

「久しいのう…千寿 理チェン ショウ リーよ、何年ぶりじゃろうかのう…?」
リン 石龍シーロンが楽しそうに俺に言った。

「20年というところか…」
俺はゴクリと唾を飲み込みながら答えた。

 リン 石龍シーロンは俺が中学高校の時期に、俺に中国武術を仕込んでくれた師匠だったのだ。
 俺が使用する指弾やさっきの棒術も太極拳を始めとした様々な中国拳法も、全て教えてくれたのは彼だった…もちろん、林 石龍が人間だった頃の話だが。

 俺が黒オニの動きについて行けるはずが無かった… 彼は中国四千年の歴史を持つ中国武術の神髄を極めた仙人のような人物だったのだ。
 しかも、今の林 石龍は人間では無くオニの力と速さを手に入れているのだ。俺が白虎と化した今でも、は大いに彼の方にあると言えた。

林 大人リン たいじん、素晴らしい武術の達人であるあなたが何故オニなんかに…?」
俺は正体に気付いた時からの疑問をぶつけてみた。

「お前がオニと呼ぶのは、わしのこの姿の事か…?」
 初めて林 石龍が不思議そうな表情になって、座っていた机からゆっくりと床に降り立った。そして自分の両手を顔の前にかざして、広げたり握ったりしながら片方ずつ掌と甲を代わるがわるに眺めまわしてつぶやいた。

リーよ、この死なない身体はいいな… お前は生まれながらに不死身の身体じゃから分からんか?」
そう言って自分の手から俺の方へと顔を向けた。

「お前はわしが教えた最後の弟子じゃ。お前の元を離れたわしは本国である中国へと戻った。
 呼び戻されたのじゃ。わしの本職はのう… お前には言わなんだが殺し屋じゃよ、中国では『殺手シャショウ』と言う。わしは祖国では伝説とまで言われた『殺手シャショウ』じゃった。
 そうして中国へと戻ったわしを待っておったのは、組織からの新たな殺人依頼じゃった…
 わしは日本のお前の元を離れてから十数年間、組織からの指令で殺し屋としての仕事を続けた。

 わしは素手における殺人の分野では、若い頃から誰にも引けを取ったことが無かった。常に頂点におったのじゃ。殺しの依頼をしくじった事など一度も無かったわい。
 じゃが、そんなわしでも人である以上…老いには勝てんかった。身体の動きは鈍り、目も時おりかすんできよった。
わしは引退を考え始めた。失敗をする前にやめようとな…

そして、今から三年前の事じゃ…
 組織から下った殺しの指令は、当時の中国の最高指導者であり中国共産党の序列一位である国家主席の暗殺依頼じゃった。依頼主は当時の党の序列で言うと二位に当たる人物だとだけ言っておこう。

 わしはその仕事を最後に引退する事にした。わしの殺し屋としての最後を飾る相手としては不足は無かった。いや、最高の標的と言ってよかった。」

 ここで一旦言葉を切った林 石龍は、右手を握って拳で左掌をポンと叩いた。そして話を再開した。

「わしは組織の指示通りに国家主席を狙った。
 ある日の午後、国家主席は愛人の住居へと護衛を連れて向かうとの事だった。わしは組織の整えた手筈てはず通りに、内部からの手引きで愛人宅へ忍び込んだ。
 わしは愛人と二人きりになった寝室で、国家主席を殺す予定だったのだ。愛人の命は奪うまでも無く意識を奪うだけで良い。わしは標的以外の命は、なるべく奪わんようにしておったからのう。」
ここで林 石龍は、今度は強く右拳で左掌を叩き左手で右拳を握りしめた。

「じゃがな、りーよ… この依頼は罠だったのじゃよ。」
俺が見つめた林 石龍は大きく頷いた。

「そう、わしの始末が組織の本当の狙いだったのじゃ。わしはまんまと罠にはめられて寝室に忍び込んだ。
 そして…そこでわしを待っておったのは、わしと同じ若き武術使いの殺し屋だった。まだ40歳そこそこで、わしから見ればヒヨッコ同然の小僧じゃった。
そいつは、案の定わしとの決闘を挑んできおった。
 それまでにもよくあった事じゃが、わしを倒して名実ともに殺し屋界のNo.1になりたがる若い連中は五万とおった。
まあ、挑んできて無事に生きて帰った奴はいなかったがな。わしは手加減は一切いっさいせんかったからのう。ほっほっほっ…」
林 石龍は少し笑ったが、すぐに真顔に戻って話を続けた。

「じゃがな、その男は信じられんほど強かった。
 わしは最初その男をめてかかっておったが、だんだんと本気にならざるを得なかった。
 わしは普通なら確かに何十回と言えるほど、その男を殺したはずだったのじゃ… だが、そいつは死なんかった…

わしはその時、生まれて初めて戦闘において恐怖を味わった。
その男は文字通り人間では無かったのじゃ、今のわしと同じ様にな…
お前さんが言ったオニそのものだったのじゃよ。
 わしは恐ろしくなって、恥も外聞がいぶんもなく逃げた。この地上最強の殺し屋と呼ばれたわしが生まれて初めて、子供の様にわめきちらしながら逃げ出したのじゃ。

じゃがわしは、ついにヤツにつかまった… 生きたままとらえられたのじゃ…
 ヤツは捕らえたわしの手足の指を全部千切ちぎり取って、わしに見せびらかしながら食ってしまいよった。
それ以上わしは逃げる事も逆らって戦うことも出来なくなった…

 いよいよヤツに殺される事を覚悟したわしの前に、ヤツの黒幕が現れたのじゃ… その黒幕とは、わしが長年殺しを請け負ってきた組織のボスじゃった。
 わしは目を疑ったよ。長年組織の依頼を断った事など無く、必ず標的は仕留めてきたわしを組織のボスの方が裏切ったのじゃからな。
ボスはわしに言いよった。
『お前は知り過ぎたのだ』…とな。
 わしが今まで殺してきた連中の中には、中国共産党の上層部同士の権力争いもあった。
 そして何よりも…わしはボスの正体を知っておったからな。ボスは口封じのために組織をあげて、わしを殺す気になったのじゃ。」

 俺が見る限りでは、林 石龍の表情に怒りも悲しみの色も無かった。俺のかつての師である林 大人だった黒オニは無表情のまま、たんたんとしゃべるだけだった。

「そして、組織のボスはわしにこうも言いおった。
『もう一度若い頃の様な身体に戻って、殺しの頂点に立って見る気はないか? お前が忠誠を誓えば不死身の肉体にもなれるがどうだ? お前をこのまま殺すのは惜しいとおっしゃる方がいるのだ。』
わしはもう一度戻りたかった… 若くて無敵だった頃の自分にな。
そしてボスの申し出を受けたのじゃ。

 ボスは手足を拘束され手足の全ての指を失ったわしに、一本の注射を打ちおった。それからの数分間、わしは気が狂わんばかりの苦痛と快楽の両方を味わった。
 その状態が終わった後、わしは固く拘束されていたロープを全て素手で引き千切って床に軽やかに立って居った。
 わしを半死半生の目に遭わせ、全ての指を喰らいおったオニめを瞬時に八つ裂きにしてな… それでもヤツはまだ生きておったから頭を踏みつぶしてやったら、ようやく死におった。
わしの負わされた全身の傷も失った指も全て元通りに再生しておった。
こうして、わしは生まれ変わったのじゃ、不死身の肉体を得てな。」

「パチパチパチ…」俺は聞き終わって拍手をした。
そして、林 石龍に言った。

「長い話だったな… それで終わりかい?」
 俺の軽口を聞いた林 石龍が一瞬だったが殺気を発した。だが、すぐに殺気は消え去った。

「つまり、俺の師として尊敬していたあんたは、自分の命惜しさに人間をやめてオニになっちまったってわけだな。見損なったぜ…林大人。」
俺は怒っていたのだ、どうしようもないほどに…

「ふん、生まれながらに不死身の肉体を持ったお前に何が分かるか。」
林 石龍は俺に向かって腕組みをして立ち、吐き捨てる様に言った。

「ああ、分からんさ。分かりたくも無いがね。
人間こそ、限りある命の尊さやはかない命の美しさを理解していないんだ。
俺がどんなにそういったモノにあこがれたか…」
俺は相手に聞かせるためにではなく、自分自身に対してそうつぶやいていた。

「決着をつけるか、りーよ。お前をこの先に進ませんのが、わしの今回受けた仕事なのでな。」
オニと化した林 石龍が腕組みを解き、目を薄く開いて俺を見た。

「ああ… オニになったあんたを倒して先ヘ進む。それが弟子だった俺の使命だ。行くぜ、リン 石龍シーロン!」

 相手は人間だった時でも、中国武術の神髄を極め地上最強と言われた伝説の殺し屋だ。しかも今ではオニと化し不死身に近い肉体を手に入れている。
今回ばかりは俺にとっても別次元の相手だと言っていい。
 あのミノタウロスのバリーと対峙した時でさえ感じなかった恐怖を、俺は感じていた。
 俺は満月の夜なのに、生まれて初めて勝てる気のまったくしない勝負に挑むのだ…

 死を覚悟して向かう俺の顔を見た林 石龍が、不思議そうな表情になった。

やはりな… また俺の悪い癖だ。
 どうやら、また俺はこのピンチにのぞんでいる今でさえ、顔にうすら笑いを浮かべていたらしい…

自分でもあきれるが仕方が無い。
だが、俺のこの悪癖も今日で最後かもしれないな…

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