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経営に活かしたい先人の知恵…その13

◆指導者の役割◆


 組織の成否はリーダー次第と言えるが、リーダーが果たすべき役割はどのようなものなのか。中国古典のなかで、最も的を射ていると思えるのが『管仲』の指摘だ。

 「時勢に応じた対策を立てられるのが指導者としての条件であり、公平無私であることが治めるものの徳なのです。多くの臣下を統率して、その能力を最大限に発揮させなければならないのです」(『管子』=管仲の言行をまとめた本とされている)。

 これほど、指導者のあるべき姿を、端的にズバリ指摘している言葉は、私の知る限り、経営学の教科書にも見当たらない。

 時勢に応じた対策を立てることの大事さは、他にも多くの中国古典が指摘しているが、代表例として、『貞観政要』中の、側近の魏徴が太宗に語った言葉を引用したい。
 
「古来、政治を行なうには、その時勢に応じて教えを設けました。もしその時の人情が、険しくゆとりがないようであれば、それを救い正すのに緩やかな法律を用い、その時の人情があまりにもだらけていれば、それを正すのに厳しい法律を用います。時勢というものが、一定しない以上は、法令というものは、緩やかか厳しいかのひとつに定まることがないわけです」。

『貞観政要』には、時勢の変化に適応するのが、リーダーの役目との指摘もある。

 「すべからくは変通に合すべし=すべてのことは変化に応じて適応しないといけない」

 ダーウィンは「生き残る種とは、最も強い者ではない、最も知的な者ではない。それは、変化に最もよく適応した者である」と言っているが、これは組織でも同じだと考えればいいだろう。

 アメリカの自動車会社「GM」の創業期の経営者、スローンは「変化に対応する具体的方法を持っていなければ、どのような組織も叩き潰されてしまう」と、自著に書いているが、まさにその通りで、GMは変化に対応できずに、1990年代に一時的にしろ、経営危機に陥っている。

 経営学者のセオドア・レビットは「変化への対応と適応が唯一生存への道」と語っているが、同じ趣旨の発言をした先達の経営者は数多くいる。変化に対応できなければ、組織に未来はないと考えるべきだろう。

 「公平無私」は、言うまでもないだろうが、それに続く「その能力を最大限に発揮させなければならない」については、先達の経営者、経営学者も強く指摘しているところだ。

 松下幸之助さんは、「人間一人ひとりの豊かな個性を最大限に活かしきることに全精力を使うのが事業を成功に導く絶対条件。事業成功の秘訣は、いかにして人間の創造性を引き出すかにあるんや」との言葉を残し、ドラッカーは、「マネジメントの定義はひとつしかない。それは、人をして何かを生み出させることである」と言っている。

 生意気なようだが、日本の経営者のみなさんに、「貴社は社員の能力を最大限に引き出すことができていますか」と問いかけたい。日本企業の生産性の低い原因は、日本人の能力にあるのではなく、その能力を引き出せていないところにあると、私は考えている。

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