日本は過剰サービス見直す時  

「きょうは日曜日。家族で湖に行っているので休業します」

 10年前に訪れたフィンランドで、レストランのドアに堂々と貼り出されたメッセージに驚いた。休日でも懇切丁寧なサービスを提供し続ける日本とは大違いだったからだ。

 あの貼り紙の衝撃は今も胸に残り、残響はむしろ大きくなるばかりだ。そして、何度も自問してきた。「日本人は長時間労働のために家族との時間を犠牲にしていないか。何のために働いているだろう」

 ■過剰サービスの伝統
 サービス大国として世界に知られるニッポン。同時に、生産性は先進国で最低レベルだ。そこには「お客さまは神様」とあがめ、ほぼ年中フルサービスを提供しようとする慣行が根深く横たわる。

 こうした「伝統」が過剰サービスを生み、現場の従業員の過労や健康問題を招く一因になってはいないか。家族との時間も満足に持てず、幸せを感じられない人もいるのではないか。

 ■人手不足で悲鳴
 折しも人手不足は深刻化の一途をたどっている。来店客が平日よりも多い週末に、ぎりぎりの人員で接客する飲食店は悲鳴を上げている。睡眠時間と休日を削り、飲食店を切り盛りしたあげく心身を病み、離職を余儀なくされた人を何人も知っている。

 ■「過剰」が生む異常
 食品ロスも大量供給、大量消費のひずみを象徴している。売れ残った食品の廃棄に心を痛め、辞めてしまう従業員もいるという。「お客さまに最大限のサービスを」の掛け声の下、現場の従業員が無理と無駄に追い立てられ、身を削る現状は、やはりおかしい。

 従業員のちょっとした手違いを責め立て、人格まで否定する「カスハラ」などもってのほかだ。「人を支える人」への敬意と配慮が余りにも足りない。

 ■これからは従業員の幸せを優先
 企業が顧客サービスを重視するのは当然のことだ。しかし、人口が加速度的に減る今、働き手も顧客も減っていく。従来のように人手と手間暇をかけたサービスを持続するのは難しくなっている。顧客はもとより、企業の従業員も幸せでなければ本末転倒だ。従業員の犠牲の上に成り立つ「もてなし」が世界に称賛されるのは、どう考えてもいびつだ。

 企業側が過剰サービスを見直し、消費者も受け入れなければ、日本のサービス業や小売業は立ちゆかなくなるだろう。「お客さまは神様」が当たり前だった時代は終わりを迎えつつあると認識し、消費やサービスの未来を描き直す時に来ている。

 労働者は家族や自分の幸せのために働き、企業は従業員の幸せを最優先にサービスの質と量を見直す。もてなしの国は大きな曲がり角にある。

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