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原田マハ、さかのぼって原田宗典、大好きです

原田兄妹のファンです

原田マハとアート

『楽園のカンヴァス』原田マハ/著、2012年

『楽園のカンヴァス』は、フランスの画家アンリ・ルソー(1844‐1910)の作品『夢』をめぐる物語です。

アート&ミステリー。
成人して大人になってもやっぱり憧れてしまう「大人の世界」。ちょっと近寄り難さも感じます。「現代アートを実業家がオークションで高額落札」というニュースはたまに話題になりますね。

近所の図書館で原田マハの『楽園のカンヴァス』を探したら、ヤングアダルトコーナーの棚にありました。子どもだって憧れるアートの世界。絵や歴史文化が好きな子が、将来なりたい職業はキュレーター。いいね!

『楽園のカンヴァス』は、アートの真贋をめぐる謎解きが美しく、こんな世界にちょっと身を置きたくなるような小説です。

日本語で書かれたものですが、私たちはいつの間にか謎解きの舞台であるスイスやフランスにやって来てしまいました。
マスターピース(名作)を描いた画家についても、もっといろいろ知りたくなります。
私もフランス語や英語を自由に話せたらいいのに。画家のピカソやルソーと実際に会ってみたいという衝動に駆られました。

『楽園のカンヴァス』はフランスの画家アンリ・ルソー(1844‐1910)の作品をめぐる物語です。
存命中は世間の評価が薄かったルソーの絵。しかし、あのピカソ(1881‐1973)は、彼にいち早く目をつけていました。

『楽園のカンヴァス』原田マハ/著、2012年

これを読めば近代画家ルソーについてだいたいわかると言うのは過言ですが、私のようなアート初心者には充分なテキストでした。
私は、入門書よりもストーリーを読んで覚えるのが好きなんですよね。

『楽園のカンヴァス』は、第25回山本周五郎賞受賞。

ここで、アンリ・ルソーについて教えてくれる山田五郎さんの動画をご紹介します。

アートの情報は世の中に溢れていますが、私はこの動画シリーズ一択です。ここ数年はこれを見尽くして知識を得ていました。楽しくて、つっ込みどころも満載です。

山田五郎のルソー動画『オトナの教養講座』

原田宗典は青春の代弁者

ハラダ兄妹対談

ネットに掘り出し物がありました。原田宗典・原田マハの対談記事です。
こんな兄弟姉妹はいいな。同業者。ライバルであり共に歩む。互いに認め合うあたたかい目線。

原田宗典とは

私にとって、原田宗典さんはエッセイの人です。小説もいくつか読んでいますが、やっぱりエッセイの人。
エッセイ『むむむの日々』、『十七歳だった!』が大好きです。

数十年前、私は女性率が高い家庭で育った上に、地元の女子校に入ってしまいました。
つまり同世代の男性の生態をほぼ知らない高校生だったのですが、原田さんのエッセイに登場する青春まっしぐらの「ハラダ少年、およびハラダ青年」のエピソードがとても刺さりました。

かっこつけて恥をかいて、若さゆえにコントロールの効かない下半身に悩まされ、後悔しても立ち直る。そしてまた失敗している文学青年。

バイクに乗り、内心ドキドキ、表面はクールを装って、彼女の前でがんばっていい顔をする。

様々なアルバイトをしていたハラダ青年。
ガソリンスタンドのバイトでは、制服のつなぎを着た彼を、恋人が「似合う」とほめてくれ、真冬の現場に彼女がサンドイッチとあたたかい飲み物を差し入れてくれた、私はこの部分が大好きで何回も読み返しました。

現実には肉体労働系のアルバイトや、恋人に差し入れをするということに縁のなかった私ですが、原田さんが書くハラダ青年の姿は「だよね!」と言いたい共感と切なさにあふれていて、私は彼を応援しつつ、エッセイを全身で味わい尽くすように読んでいたのです。

原田さんの本。持っていたのを忘れてて、図書館で同じやつ借りてきちゃった

『むむむの日々』原田宗典/著、1994年

『十七歳だった!』1996年

『やや黄色い熱をおびた旅人』原田宗典/著、2018年

これを読んだとき、私は沢木耕太郎の『深夜特急』を思い出しました。

2018年のエッセイです。私自身、10代に読んでいた原田さんの作品からずいぶん離れていて、久しぶりに読みました。やはり原田宗典の文章は好きです。

エリトリア、スイス、セルビア、カンボジア、タイ。紛争地帯やいまも戦禍の跡が残る国や地域を原田さんが訪れた記録です。
旅に出たのは1997年でしたが、原稿が書き直され2018年に発行しました。

『むむむの日々』でもわかるように、体は大きく中身は小心者の原田さん。取材のための海外訪問という声がかかり「これを逃せば機会が二度とないかと思い」、半分死ぬ気で向かったそうです。

エリトリアはアフリカ大陸の北東、紅海に面した国です。ホテルでの1泊目から、日本とはまったく違う異国の夜を原田さんはやや神経質に感じ取り、とまどいます。

私が初めてヨーロッパ旅行をしたときも、ホテルの部屋に入っただけで「日本と違う、においが全然違う!」とそわそわしたな。それを思い出しました。

『やや黄色い熱をおびた旅人』原田宗典/著、2018年

過去に植民地であった国。戦争の後、いまだ紛争の跡を残した状態、除去が行き届かないままの地雷、難民になった人々の生活は続いている。
数か国を訪れてその様子に触れた原田さんは、彼の視点と文章で書きあらわしました。

ジャーナリストではない。作家の原田宗典が書いたからこそ

原田宗典・原田マハの対談で、マハさんはこの『やや黄色い熱を帯びた旅人』を書いた兄について以下のように言っています。

「文学的な“潤い“がもたらされている」「旅のとまどいが自分にはないから、兄がそれを書いていてうらやましかった」
など。
そして彼女自身を含め、作家という仕事についてこんな風に述べています。
「小説は“残る“。即効性はないけれど読み手にゆっくり浸透していく」

原田宗典・マハ対談
「図書」8月号2018年8月1日
(web岩波書店『たねをまく』より、雑誌『図書』試し読み)

こんなに豊かな対談を、たっぷりと読めるのはすばらしいと思います。
岩波書店さん、ありがとう!

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