おばあちゃんに道を尋ねたら ・・

僕は大学生の時、大きなリュックを背負い北海道からひとり旅を始めた。
ひとり旅の思い出は、その土地の観光名所や食べ物
だけではない。いろんな人たちとの出会いも思い出になっている。
今思えば、いろんな方々の親切のお陰で出来た旅だったとも思っている。
僕は何故か、おばあちゃんに親切にしてもらえる体質みたいで、特におばあちゃん達に助けてもらったことが多い。
1人で歩いていると、食べてきなさい、と言って
庭で焚き火をしながら作っていた焼き芋を頂いたこともある。
酪農家さんの家の前を通り過ぎようとした時、
喉が乾いてない?と言って牛乳を大きなグラス1杯ご馳走してくれたおばあちゃんもいた。

僕は道に迷ったりすると、おばあちゃんを探して
尋ねていた。みんな親切に教えてくださったのだが
そのなかで印象に残っているおばあちゃんを紹介したいと思います。

1、東西南北  
僕は自分が宿泊予定の民宿の場所が分からず困っていた。庭で草むしりをしているおばあちゃんを見つけたので尋ねると、
「この道をこのまま真っ直ぐ行くと四つ辻があるから、そこを西に曲がりなさい。少し行くと川にぶつかるから、川沿いの道を北に上って行きなさい。
そうすると信号機があるから、そこを東に曲がると南側にその民宿が見えて来るから。」
「?・・おばあちゃん、北はどっちですか?」
「北がどっちかも分からずに、よくここまで来れたもんだね。」

2、軽トラに乗ったおばあちゃん
道が二又に別れていた。駅までの道がどっちなのか
標識もなかった。困っていると軽トラに乗ったおばあちゃんがやって来た。
僕は手を降って軽トラを止めて 
「すみません、駅への道は右ですか、それとも左ですか?」
おばあちゃんは人懐っこそうな微笑みを浮かべて 
「あんた、トマトは好きか?」
「はい、トマトは大好きですが・・」
おばあちゃんは車を降りて荷台に行き 
「トマト少し持ってけ、形の悪いトマトは農協で買い取ってくれなくてな、味は同じだから。あたしの作るトマトは美味しいよ。」
僕は丁寧にお礼を言ってトマトをリュックのなかにいれた。
すると、
「あんた、キュウリは好きか?」
「はい、キュウリも大好きですが・・・」
「少し持ってけ、曲がったキュウリは農協で買い取ってくれないからね。味は同じだから、あたしの作るキュウリは美味しいよ。」
僕はまた丁寧にお礼を言ってリュックにキュウリを入れた。
ふと見ると、おばあちゃんは車の運転席に乗っていた。そして、
「気をつけていきなさいよ。」
と言って軽トラを発進させてしまった。
「えっ? おばあちゃん、ちょっと待って・・
おばあちゃん、駅までの道はどっちー!?」
おばあちゃんは軽トラに乗って、そのまま行ってしまった。

3、矢沢永吉
日向ぼっこをしているおばあちゃんを見つけた。
「すみませんが、郷土館までの道を教えて頂けますか?」
「あの爺さんの後についていけばいい、毎日郷土館まで散歩に行くから。」
「あのおじいちゃんですか?」
「そうだ、ヤザワエイキチさんだ。」
「あのおじいちゃん、矢沢永吉って名前なんですか?」
「そうだよ、弓夜の矢、沢、栄える、大吉の吉だ。」
そっちの矢沢栄吉さんか、ビックリした。
それにしてもカッコいい名前のおじいちゃんだな、
若い頃は皆にエイちゃんと呼ばれていたのだろうか

僕は矢沢栄吉さんの後をついて行った。
ところが30分ほど歩くと矢沢栄吉さんは空を見上げて、
「今日は、ここまでだー!」と言った。
矢沢栄吉さんは挫折してしまった。
すると、赤い軽自動車が矢沢栄吉さんの隣りに停まり、お嫁さんらしき女の人が、
「お父さん、こんな所にいたんですか?全然帰って来ないから心配して見に来たんですよ。早く車に乗ってください。みんな心配してますから。」
僕はそのお嫁さんらしき女の人に、
「すみませんが、郷土館はこの道をまっすぐ行けばいいですか?」
「えっ?郷土館はあの丘の上ですよ。」
その日、矢沢栄吉さんは道を間違えていた。

ひとり旅をしていると、いろんな人たちと出会う。
どれもみんな、今ではいい思い出だ。





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