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【連載小説】三日月の夜に(第2話)

 司会がマイクを片手に、集計結果を読み上げた。
「今回フィーリングカップルに選ばれたのは、2組です!」
司会から、発表されたこの中の一組はめでたく、サトルと彼女に決まった。 
 
 予定通りでに選ばれた。

 二人は、ステージにあげられて、一言あいさつを促され、奥にある別室に移動し連絡先を渡された。
「あとは若い者同士、おまかせしますー!」
 仲人みたいなことをスタッフに告げられ、選ばれた男女四人は、すこし躊躇していた。

 そこにもう一人の男性が、
「近くに大仏のオブジェのある居酒屋があるから、そこに行きませんか?」
というのをきっかけに、
「せっかくだし、行こうか」
と大仏のある居酒屋へ移動となった。

 あらためて、彼女から自己紹介を受けた。女性はナオミと名乗り、「明治大学をこの春に卒業して1年目、友達と二人でイベントに参加したんだけど、こういうイベントは初めてだけど、カップルに選ばれるってなんかいいね。」そう彼女は言った。
 
 「研修で1ヶ月の期間限定なんだよね。名前は、あまりみんなと同じように呼びたくないから、サトチンでいい?」と彼女が聞いた。

「せっかくだから東京にいる間にさー、ディズニーシーにいこうよ。観覧車に乗るの付き合ってくれない?ジェットコースターとか大丈夫?」

 東京弁の彼女が聞いてきた。僕は、その洗練された雰囲気に惹かれて、次に会う約束をした。付け加えるように「あと、今度は大仏のある居酒屋でなくて、サトチンの行きたい店を選ぶね。」
 そう、彼女は僕に主導権を握ってほしかったのである。

 一応、その場では、フィーリングカップルになったこともあり、あとで、西武沿線極楽寺行きの電車で合流した同期10人と西武線の車内で、合流。

「その後、どうだった?すげーじゃん。」
同僚がはやし立てた。他の乗客もいたが、高校生のようにはしゃいだ。

 これから、ナオミとはメールや電話を毎日欠かせない感じの関係となりサトルは激動の1年になることをまだ知らない。

 「東京の魅力は、欲しいと望んで手を伸ばせば、手に入ることだよ。」とヨシノは言う。
  
 そして今回のように、あっという間にガールフレンドができてしまう。
 しかし、人生は良きことと悪きことは、バランス良く配分されているのだ。 
 海の波のように、潮の満ち引きのように、揺らめいては、良いことと、そうでないことが、繰り返しおとずれる。良いことばかりは永遠には続かないことをまだ理解出来ていない。
 
 青春という青き春は、やがて熱き夏を経験し、円熟した秋を迎え哀愁のただよう冬を迎える。
 そして、やがて別れがおとずれる。それは、自分の意思とは関係なく、無意識に向かっている。

 しかし、四季の移ろいのように、心のゆらぎのように、ただ、今はその期待させる春に胸を躍らせれて、心が焦がされるように刹那的で美しいのだ。
  
 僕はこのときは、永遠と刹那的な意味を同義に考えていて、価値観を今に注ぐことが全てだと考えていた。
 
 次の週は、大学時代の同級生で弁護士を目指すヨシノに会う約束をしていた。彼は、一度大手企業に勤めることを選択し、東京に配属となり、練馬に住んでいる。

 「ひさしぶりだな。元気?東京でまた再会できるとは思わなかったよ。今度泊まりで遊びに行っていい?」

 「うん、いいよ。どこで研修をしてるん?」
「西武沿線の〇〇駅」と僕がいうと
「へー、めっちゃ、遠いなー。東京の終点みたいなとこだよね。まー、遊びにおいでよ。」
ヨシノは、大学の時と同じテンションで言った。
 
 同期の中でも、東京勤務する数少ない友達のヨシノは、東京でも頼りになる男だ。彼とは、練馬で待ち合わせをして、近くのラーメン屋で昼飯を食べた。朝はいつも我慢して食べない主義だから昼は食べたいものを食べる。

 その日は、浅草でお参りしようということになり、浅草寺に行き、煙を頭に浴びてから、おみくじをひいた。浅草寺は観光客で賑わっていて、せっかくだからおみくじを引いてみようよということになり、まずは、ヨシノがひいた。「中吉だってさ。捜し物がみつかるでしょうだって。恋人とは、自分の運気次第で良好な関係に、だってさ」

次に、僕がひいた。
 
 人生で初めての「大凶」がでた、【うそやろ。もう一回ひいてみるわ。】また「大凶」が出た。
「2回目はなしだろ?」ヨシノは、そう言ったが、二回ともなのでさすがに何かいやな予感はした。
 「しかし、凶の字は、カタカナのメが出たがっていると言う縁起の良い意味もあるので」と説明をヨシノがするので、良いことあるだろうと思っていた。

 そして、男二人では色気がないので、同じくヨシノの同期の女の子、マキちゃんも誘い、三人で居酒屋へ行くことになった。マキちゃんは、ヨシノと同じく、大手一流企業で就職した新社会人1年目。ELTのボーカルに似ている。
 
 しかし、入社早々に会社に馴染めてないらしく、表向きは休暇療養中。療養中測りの姿で、ロングバケーション中らしいのだ。 

 彼女は、キャビンアテンダントになるのが夢で、就職活動を秘密裏に進めていた、語学力も堪能で、関西学院の文学部を卒業していた。 
 
 彼女は、ヨシノにいつも労務相談をしており、転職先が見つかるまでの、つなぎでいったん就職したらしい。ヨシノは弁護士を目指しているだけあって、労務関係の相談には詳しいから頼りになる。

 その日は、自己紹介もほどほどにして、東京でのサラリーマン生活や同僚とのしのぎを削る話を中心に、情報交換をした。
 大学時代は法学部で、勉強仲間ではリーダー的な存在だ。弁護士を目指していたが、社労士を取った後、いったん就職して社会勉強したあとまた、司法試験を目指すプランを持っていた。

 やはり、10年後の今は、夢を叶え、父の後を継いで弁護士をするのだろう。また、彼は大学時代から付き合っていた彼女、毎日ご飯を作ってくれる彼女と別れて東京に来た。
 
 当時を振り返る今、東京の練馬区で二人酒を飲み交わしていると思うと感慨深い。一つの時代が終わり、新たなステージでなにかしらの希望をもち、理想にあこがれ、夢を求めている。
 
 人生は選択することの連続だが、分岐点呼ばれる大きな選択をするときは、様々なことが影響を受け選択決断する。因果関係の流れが、さけられないのであれば、世の流れは、すべては必然といえる。
 
 その次の休みは、大学時代に留学した時にともに、ニューヨークで一ヵ月を過ごした、タケルと新宿へ、さし飲みに出掛けた。
 
 「おふくろ」という家庭料理のお店だ。彼は、今勤めているベンチャー系の、投資信託の会社につとめていて、「ベンチャー企業は激務だ。毎日お金の流れと株式の動き、政治や経済の動向を注視しながら、投資先を選ぶ必要がある。」と彼は、スマートに話した。
 タケルは、後に米国のフィラデルフィアにあるウォートンスクールでMBAを取得するほどの英語力とバイタリティーの持ち主で、彼のエピソードで有名なものがある。留学がおわり日本に帰って、本気でお付き合いを申し込む時に、バラを一輪持って、成田空港へトランジットする合間に会いに行ったという話は有名だ。
 そして、その彼女と結婚し、結婚式にも招待を受けることになる。
 
 ふたたび、僕の話に戻ろう。
 その次の週は、ナオミとデートの約束で、千葉の遊園地に行こうと、待ち合わせをした。
 しかし、三日前くらいに電話があり、「ごめん!どうしても調整できなかった仕事があって、行けなくなった。そのかわりに、この前一緒に来ていた友達を代わりに行かせるから、許してー。この埋め合わせは必ずするからさー。ごめん。」彼女は、申し訳なさそうに、そう言った。
 
 やはりとんとん拍子にものごとが進み過ぎていた。

「まー、いいか、うーん、さすがは東京。わかった。じゃあ、そうするね。」

 と僕は半信半疑で答えた。納得はしていないけど、もともと行く予定だったナオミの友達のミサトが待ち合せをしてディズニー・シーへ二人で遊びに行くことになったのだ。

 ミサトは、黒の編みタイツ風のストッキングに革製のミニスカートと可愛らしく、上品なニットで登場した。
 
 ミサトは、女性の好みとしては、口説きたくなるほど理想的だった。
 そこは、恋愛のセオリーとして、「二と追うものは、一とも得ず」ということわざにもある通り。不思議な組み合わせの二人のデートは、それはそれで楽しくて、ジェットコースターや観覧車に乗ったりして恋人気分であったので良い時間を過ごせた。

 ただ、その日の一部始終をこのデートのあと、「この後、ナオミに報告するんだろうなー。」と考えるとうかつな行動はできずに、おとなしくして、発言もわきまえた。
ミサトは、「あの新宿の地下でのイベントで、私は1位指名で、サトルン♡って書いたんだよ。でも、残念だった。ナオミを1位指名にしたんだよね。次は念願のナオミとのデートだね。」彼女はそう静かに行った。
 
 僕は、まさかの発言に心揺れたけど、「またまたー、上手いこと言うわー。」と僕は後ろ髪引かれ、心残りだったけど、この誘惑を振り切るしかなかった。
 その日の、不思議なかりそめデートは、期待感を持たされ、一時的だけど、奇妙な楽しいデートとなった。キツネにつまままれたように、感情を揺さぶれていたぼくは、別れ際に、
 
 「編みタイのストッキングって男の野望だわ-笑。」と意味の深いようで、よくわからないコメントを残し、そのかりそめデートは終了した。
 
 次の日に、ナオミから電話があった。「なんかデート楽しかったらしいね。聞いていて、嫉妬しちゃったー。」彼女は小悪魔的に言う。

 「おわびと埋め合わせをしたいから、さっそくだけど、前から行きたいお店が、井の頭公園の近くにあってさ、今週の金曜日なんだけど、大丈夫かな?」
申し訳なさそうに彼女は言った。
ようやく再び会う念願の約束が完了した。
 
 研修期間は、終業が、16時半で、始業は9時半からだから、自由な時間は普段より多く、残業もほぼない。同期には先週の週末の続きで出掛けてくると説明し、約束の井の頭公園へ向かった。
 
 駅前で待ち合わせして、サトルの背が高いからすぐに見付かった。
「サトルは背が高いから遠くから探してもすぐわかるね。この前はごめんね。」
と申し訳なさそうに話す彼女は好感ありで、少し顔もピンク色の笑顔だった。
 
 彼女の行きたかった焼き鳥屋は、ありきたりな感じのお店で、ハイボールと焼き鳥をほおばって、お互い3杯くらい飲んだ。

 「しきりなおしにカラオケ行かない?もっとサトちんのこと知りたいからさー。」と、カラオケ🎤店に入った。

 カラオケ🎤店では、二人だけで、尾崎豊の「アイラブユー」や、先日、TSUTAYAで購入したばかりのイエモンの「球根」を熱唱した。「サトちんは、期間限定だから、また、東京にも1ヶ月来るっていうし、広島にも行ってみたいなー。どうなるかわかんないけど、期間限定の恋人を前提に付き合ってみる?」20代の恋多き東京女子は感覚が新しい。

そして、勢いまかせに、

 「もちろん、いいよ。」と返事をすると、ナオミは抱きついてきて、抱擁とともにキスをした。最初は、軽いキスで、すぐに笑顔とともに、目をつむり、深い接吻となった。

 カラオケ店の中は、外から見える小窓があったので、その中で、押し倒したり、体位は上になったり、下になったり、抱き合ったりしていても外にはわからない。時たま、店員が入ってくるとまずいので、ジャケットで小窓を隠した。ハイボールとラブソングを熱唱したせいか、抱擁を繰り返して興奮したせいで、小窓が曇るくらい室温は上昇した。
 
 ナオミが、「明日、仕事休みだから、湘南で海を見て鎌倉あたり行かない?今日はうちに泊まる?」そういうと、二つ返事で、カラオケ店をでて、二人で手を繋いで歩いて向かった。ナオミの寮へ歩く夜の歩道で夜空見上げると、下弦の三日月がゆらゆら揺れて見えた。
 
 東京で、今、見上げている夜空の爽快感と興奮している感覚は研ぎ澄まされ、見上げた夜空は二人の熱と夜の涼しさでクリアに冴え渡った。
さっき歌ったスマップの「夜空の向こう」の歌詞がリフレインした。寮についた時には、夜中過ぎで周囲に気をつかいながら、彼女の部屋に入った。彼女は、まず「お風呂に入るから、サトちんもお風呂に入って。」と来る途中で、コンビニで買った、ZIMAを飲みながら彼女を待った。抱きたい気持ちを焦らされながら。そして、「明日の湘南は楽しみだね。修学旅行みたいだね。」とワクワクする気持ちを感じながら待っていると、バスタオルを巻いた彼女が現れ、ベッドに座りキスをする。
 
 そこから、二人は運命のような相性の良さを感じる。ウェストの括れと筋肉質なわりに胸はバランス良くふくよかで、何よりもがまんできない吐息が、ふたりを盛り上げ、指使いと表情と荒げる声に、「これが東京かー」と、興奮した。しかし、ここはナオミの寮で郊外の埼玉だと気づいた。まー、東京ではないけど別次元の都会だ。
 
 外は雨が降っていた。しかし、雨が降ろうが関係なかった。雨が降れば、傘をさして出掛ければいい。ただ、それだけのことだ。
 
 次の日は、湘南に向かう途中で、彼女の括れた腰に手を回し、相合い傘でくっついたまま、お出掛けをする。
 
 湘南は、雨も似合う海岸線で、江ノ電はこれまで見たどの電鉄よりもおしゃれで、海が似合っていた。瀬戸内の景色をこれまで何度も見てきたが、同じ海とは思えない色気を感じた。
 
 ナオミは、「私の実家は熱海で、毎年富士山に登ってんるだよね。サトちんとも登れたらいいね。」と言った。
「じゃあ、次回の1ヶ月研修は来年の8月だから、その時に一緒に登ろうよ。」と約束した。
 
 「それまで、遠距離恋愛だね。半年も待ちきれないから、広島にサトちんに会いに行くね。」
 その後、一泊して寮に帰ったときは、寮母から無断外泊になっていて、次回から必ず、連絡か事前に申請を出すように注意を受けた。しかし、注意を受けるのも男の甲斐性だと、半分笑顔で説明を聞いた。
 
 東京の1ヶ月の研修は土日が4回あり。週末は、大学時代を共に過ごした友人と情報交換するのが目的のひとつだった。さらに、ナオミと会うことがさらに大きな目的のひとつとなっていた。しかし、遠距離恋愛はお互い寂しさを越えてどのように絆をつむいでいくか、悩みのつきない毎日だ。
会いたくても会えない日々も続く。

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