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話題になった本の、書評らしきものを書いてみた。「近畿地方のある場所について」


背筋 著作  KADOKAWA

 出版社KADOKAWAが主催する投稿サイト「カクヨム」にて、圧倒的なプレビュー数を記録して注目され、書籍化されたホラー作品だ。
 本編は、タイトルにある通り、近畿地方のある場所をめぐって起こる不気味な出来事や事件についての真相を、ルポタージュ形式で展開する内容となっていて、小説ではないが、それ故、書かれていることがあたかも本当にあった出来事のような錯覚を覚える。

 「やまにきませんか。かきもあります」の謎の返信のことから始まり、いわくつきの地名をあえて黒丸表記で伏せたり、行方不明になった幼女のことや、まっしろさまの都市伝説めいた話題、恐ろしい張り紙のこと、一連の事件との繋がりを持つ信仰宗教のことなど、幾つもの怖い要素が散りばめられた構成は興味津々で、ページをめくるにつれて、じわじわとした気味の悪さが募る。作者はそうしたネタを、ある時はライターとして聴取するスタイルで、またある時はSNSの掲示板サイトのやりとりを載せたりして、一層ノンフィクション風としてのスタイルを確立させることに成功している。

 いずれにしてもアイデアが素晴らしく、投稿サイトを巧みに使った、新時代の作品としてボクとしては賞賛したい。ただ、小説ではないにしても、そうした色々な場面で構成したからか、それなりに筋書きがある訳で、終盤に明かされる真相がよくわからなくなった。これはボクが数日に分けて読んだせいなのかもしれないので、あくまで個人的な見解ではあるけれども。しかしそれが、アレ?ここはどんなだったかな、という思いを想起させ、何度も読み返してみたくなる、という作者の狙いでもあるならば、成功しているとも言えるのだが…。
 これは書籍化にあたっての創作かはわからないが、巻末の参考資料とした袋とじの中身も、恐怖を煽るのに効果的で面白かった。

袋とじの中身はさすがに掲載できないが…。

 さて、この作品を取り上げたので、せっかくの機会だから、個人的に好きなホラー小説を紹介させていただきたい。それがこちら↓

遠藤徹 著作  角川書店

 本作「姉飼」は、今なお公募が続けられている「ホラー小説大賞」(岩井志麻子の「ぼっけえきょうてい」も有名)の、第10回の大賞受賞作品である。
 他の優秀な長編を抜き、短編ながら大賞を受賞するにはそれなりの理由がある訳で、不気味なカバーにも表れているように、本作の異色さは他に類を見ないレベルで際立っている。
 脂祭りの夜に見世物にされる、”姉”という奇怪な生き物と、それを飼うことに憑りつかれた主人公の男の狂気を描くが、これが単なるホラーの域を出て、残酷描写もどこか気色の悪い魅力的なファンタジーとして読む者を圧倒し、またオチの効いた短編小説として成立している。
 荒俣宏氏や林真理子氏ら、委員の選考にも相当に物議を醸したようだが、それぐらいに未知の魅力のある作品だと実感した。

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