育った環境が悪いと認知症になる?

社会経済状態が悪い地域で育つと中年期以降の認知機能が低下する

子育てに重要なのは隣近所の貧困克服と人とのつながりの豊かさ

 米国からの報告。子どものころ住んでいた地域の社会経済状態と、その人が中高年になったときの認知機能を調べたところ、地域全体の所得や学歴が高く、社会的地位の高い住民が多い地域で育った人ほど、中高年になってからの脳の働きが良好なことが分かった。
 米国の異なる4つの州の住民約5700人(平均55.1歳、女性59%、黒人23%)に、10歳のころ住んでいた住所を確認したうえで、神経心理学的検査を行った。地域の社会経済的な環境は、1)世帯所得の中央値、2)持ち家率、3)高卒・大卒の成人の割合、4)専門職・管理職・重役の割合、などをもとに数値化した。また、肥満度や血圧、コレステロール値なども測定した。
 その結果、子どものころ、社会経済的な環境が良好な地域に住んでいた人には白人が多く、教育水準が高く、認知機能が高く、生活習慣病のリスクが低いことが分かった。その人の親の教育水準の違いの影響を統計学的に取り除いても、育った環境がいい人ほど、中年期以降の認知機能が維持されていた。現在(大人になってから)住んでいる地域の環境(社会経済状況)と、本人の認知機能の間に相関はなかった。
 この調査結果は、子どものころに地域社会から受ける健康影響は一生続くこと、大人になってから環境を改善しても、容易に健康状態はよくならないことを示している。
 論文は、「幼少期の環境は、認知機能に影響を与える脳の発達に重要。個人レベルの対策だけでなく、地域全体の貧困率を改善し、社会的な結束力を高めるための場所づくりをするなどして、社会経済格差を是正することが有効な手段となる、としている。
 幼少期の環境が悪いと、身体のストレス反応に重要な役割を果たしている脳の海馬や扁桃体などが十分に発達できなかったり、血液中のコレステロール値が上がったり、高血圧になりやすいことが知られている。親の教育水準や所得水準が、子どもの健康に影響を与えることを確認した研究は多いが、本人とは直接関係ないその人が住んでいる地域社会の環境が、子どもの一生涯の健康状態にどのような影響を与えるか調べた研究は、これまでほとんどなかった。
 最近、米国からは、やたらとこの手の報告が多い。生活習慣病や認知症の予防は、個人レベル(運動や食習慣の改善)では対処しきれないことが明確になってきている。大いなる実験場と昔から言われ続けている格差の激しい米国だからこそ、いち早く、生活習慣病の主な原因は生活習慣ではなく、社会経済格差にあること、格差自体が「勝ち組」を含めて生活習慣病の原因になること、だから、格差を解消して、人と人とのつながりの豊かさを取り戻すことが、有効な健康対策になることに気づいたのだろう。
 格差を解消すると、貧乏人だけでなくて、リッチな人の健康状態もよくなるんですよ。新型コロナの流行で、ますます格差が広がってしまった。日本でも、20年前に3000万円台で購入できた首都圏の新築マンション、いま5000万円出さないと買えない。パワーカップル(単なる共稼ぎ)が買うそうだ。いつまで続くのか、一向に崩壊しないコロナバブル。一方で、生活保護の申請が増えている。日本でも、この論文のような疫学調査が必要だし、人と人との関係の豊かさが、うつ病などの精神疾患だけでなく、糖尿病や心臓病、脳卒中、がんなどの身体の病の原因になることを、社会全体が問題意識として共有するべきだ。

注)冒頭の「米国からの報告」は、以下の論文の引用です。
 Kucharska-Newton AM et a., (2023) JAMA Network Open, 6(8): e2327421

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