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パン職人の修造83 江川と修造シリーズ surprise gift


翌日

朝食は園部が当番らしく、バゲットにクリームチーズとラズベリー。そしてアツアツの※キッシュロレーヌをカフエオレと頂く。

「園部君これ最高!」と朝からテンションの高い江川に園部が黙って微笑んだ。

 

修造と園部が後かたずけをしていた時、窓の外を通る路面電車を見ていた江川に

「あのさ」

と鷲羽は恥ずかしそうに話しかけた。


「俺は今までお前のパン作りを見てきたよ。だからお前の底力も分かってる。俺の分も上乗せして修造さんを助けてくれよな。俺はお前を信じてるぞ」

 


「鷲羽君」

信じてる、、そんな言葉が鷲羽の口から出て来るなんて!

 

江川の大きな瞳がみるみるうちにウルウルしてきたのを見て鷲羽もちょっとウルっときた。

 

江川は鷲羽と握手して「ありがとう。そんな風に言ってくれて僕本当に嬉しいよ。今になって、鷲羽君は僕の事ずっと見てきた理解者なんだってわかった」

思いがけない鷲羽の言葉に江川が本気で感動しているのを見て「やめろよ照れ臭い奴だな」と背中を向けたら、話を聞いてニコニコして見ている修造と園部と目が合う。

「え、江川に喝を入れてただけですよ!」と言い訳した。

 

ーーーー

 

2人は鷲羽から受け取った種を持って

ベルノン駅で降りた。

 

セーヌ川の見える橋を渡り綺麗で広い会場に入る。

興善フーズの五十嵐良子を探した。

「田所さん、江川さん、お疲れ様です」

「どうも」

「早速おふたりの練習場に行きましょう」

そこには既に送った荷物と興善フーズの手配した材料が置かれていた。

「五十嵐さん。助かりました。どうもありがとうございます」

「何か困ったことがあったら相談して下さいね」

「はい」

早速粉を石臼挽きで挽き、それで種をリフレッシュして冷蔵庫に入れた。

そのあとはパンデコレの部品を作っていく。

本体を焼いた後、ナイフで正確に刻んでいき、継ぎ手を差し込んで水飴で留める。帯、蝶の羽や花など本番で組み立てるものは次々と作り上げて並べていった。

江川は鷲羽のパンデコレの一件を思い出して、もしこれを誰かが倒して壊したらと思うとゾッとした。

これを組み立てるのは大会の終盤なのだ。

「ここから外に絶対出さないようにしよう」

明日はいよいよ前日準備だ。

2人が興善フーズの用意した材料や資材をチェックしていると「ボンジュール!ムッシュ田所、ムッシュ江川」とスーツ姿の男が声を掛けてきた。

「どうも、後藤さん」

「あ、後藤さん。ムッシュだって、ウフフ。もう早くもフランスかぶれですか」と江川がからかった。


「まだそこまではいってませんが、お2人を応援する気持ちが高まってきています」と言って大げさに両手を広げて白い歯を見せ、上着を脱いでエプロンを付けた。

「私もお手伝いしますね」

洗い物を始めた後藤は「それで全部ですか?」と荷物を整理している江川に聞いた。

「明日知り合いが肉や野菜や乾物を持ってきてくれるんだ」と言いながら間に合わなかったらどうするのかなと心配になるが鷲羽と園部を信頼するしかない。

「向こうは僕を信じてくれてるんだから僕だって、、、」

「お友達ですか?」

「うん、僕今まではライバルと思っていたけど今朝凄く頼りになる友達なんだって気が付いたんだ」

「今日の朝、そんな素敵な事があったんですか」後藤はにっこりした。

素敵と言われて今までの経験が全て無駄にならず自分を押し上げる波のようにやってきて、高い所に運んでくれるようなそんな気持ちに気が付く。

「うん、僕勇気を貰ったんだ」

 


今の気持ちを言葉にするなら『勇気』が一番ピッタリな気がする。


頼りなそうに見えた江川が急に大人びていい顔つきになった。

 

こりゃやってくれるな。

後藤は大会が楽しみになってきた。

 

 

おわり

 

 

※キッシュ・ロレーヌ  ロレーヌ地方風キッシュの意。パータプリゼ(パイ生地)に卵、ベーコン、玉ねぎ、チーズなどの具とアパレイユ(液状の生地)を流して焼く。

パン職人の修造 江川と修造シリーズ 1話からのマガジンはこちら

https://note.com/gloire/m/m0eff88870636

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