パン職人の修造98 江川と修造シリーズ some future
「修造パンロンドのみんなはどう?」
早番で早く帰ってきた修造に妻の律子が話しかけた。
「花嶋由梨って新入社員が入って来たんだ。丁度探そうとしてた所だったんでタイミングよかったんだよ」
「そうなの」
「今みんなで仕事を教えてるよ。今日は江川と一緒に生地の手ゴネをしてた」
「どんな人?」
「えーと藤岡の紹介で入ってきたんだよ。今度お店に来たら紹介するね」
と言いながら修造は、6ヶ月児の大地とうつ伏せになって向かい合った。
「大地これどうぞ〜」と言ってオモチャを渡そうとする。
「ほら、こっちだよ」大地はオモチャを取ろうとニコニコしながらハイハイでやってくる。
すると修造は一周して大地に追いつきちょんちょんとつつくと大地が振り向いて大喜びして座ってパチパチして笑う。
追いかけて来るとわかっていて振り向きながらニコニコと急いでハイハイするのだ。大地はこの遊びが大のお気に入りで、2人の楽しいひと時だ。
そのあと、大地は座って修造が足の間にポンと投げたボールを可愛い手で掴んで「ダ〜」と言って投げ返してくる「大地上手上手」これが今修造の最も嬉しい瞬間だ。
「大地可愛い可愛い〜」と目を細めて大地に話しかけた。
「律子ホラ見て!歯が生えてきたよ」
律子も「大地歯が生えてきたね」と言って大地の顔をのぞいて笑った。
本当は律子は知っていたが、修造を嬉しい第一発見者にしてあげる為に黙っていた。
「ふふふ。可愛い」
「ただいま〜」
「あ!おかえり緑」
夕方は学校から帰ってきた長女の緑と3人で東南スーパーに買い物に行く。
「今日空手道場の日だね、お母さんと大地も見に来てくれるかなあ」
「一緒に行きたいね」
「うん」
緑は修造と繋いだ手をゆらゆら揺らしながら「ねえ、お父さん、私達って仲良しよね」と言った。
「勿論だよ。超仲良し」
夕焼けの光に照らされて子供達の成長とこれからの未来に想いを馳せる修造だった。
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次の日
修造は藤岡とハート型の※レープクーヘンを作っていた。
オブラートに生地を乗せて焼くとスパイスの香りが辺りに立ち込める。
チョコを塗りながら「乾いたらこれにアイシングしてみよう。すごく日持ちがして、袋に入れて紐で吊るして並べると可愛いんだよ」
「楽しみです」
「藤岡は吸収率が高いから教えがいがあるよ」
「ありがとうございます。もっと色々教えて下さいね」
「うん」
とそこへ、律子が大地と緑を連れて来た。
律子の実家から野菜が送られて来たから奥さんに持って来たのだ。
「修ちゃん、律子さん達が来たわよ〜」奥さんがお店から修造を呼んだ。
「あ!律子!」
修造は作業中の顔つきとはガラリと変わって嬉しそうに飛んで行った。
「凄いハッピーファミリーなんですね」
それを見た由梨が驚いて風花に言った。
「そうなのよ。普段強面なのに律子さんの前に行くとニコニコね」
由梨が見ていると奥さんが手招きしたのでそちらに行く
「由梨ちゃん、この人が修造さんの奥さんよ。そして緑ちゃんと大地くん」
「初めまして花嶋由梨です」
「律子です。お仕事頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
3人が帰るのを見送った後、由梨は結婚という言葉についてイメージしてみた。
自分もいつか結婚したり子供ができたりするのかしら。そして今見たハッピーファミリーの様な暮らしをするのかしら。
ちょっとだけ藤岡を見てみた。
そしてこの間聞いた前の職場の先輩の事を思い出した。
「あ」
そうだった。全然遠い道のりだったんだった。
すぐそこにいるのに遠い。
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次の日
由梨は仕事が休みの日なので東南駅の横の巨大ショッピングモールで服屋巡りをしているとペビーカーで大地を連れた律子に会った。
「こんにちは。お買い物ですか」
「あ、由梨ちゃん。こんにちは、そうなの。パンロンドはどう?とても働きやすい所でしょう?」
「はい、本当に。皆さんに優しくして頂いています」
「私も以前パンロンドで働いてたのよ。5年間工場にいたの」
「そうなんですね、、あの」
「なあに?」
「修造さんとはどうやって知り合ったんですか?」
「私は始めは販売員として働いていたのよ」
「えっそうなんですか?」
「そう初日にね、工場の奥のミキサーの所に修造がいてね、私が挨拶したの」
律子は懐かしそうに当時の事を思い出して話しだした。
それはこんな風だった。
働き始めた初日。
奥さんが案内してくれて、奥からお店に向かって歩いて行って順番に挨拶していったの。工場の奥のミキサーの所に修造がいたわ。
その時初めて目があって私を見て修造が思った事が私にはわかったの。
ドキッとして顔が真っ赤になったから私もドキッとしちゃった。
その後ね、何度も何度も目が合うのに全然話しかけてこなくてね。
もう多分話すことはないんだわって思ってた。
そんな時に事件が起こったわ。
突然ナイフを持った痩せた男が入って来て、奥に入って行こうとして私を突き飛ばした。後で聞いたんだけど、その人はお店とトラブルになった人らしくてね、大きい声を出してたし、めちゃくちゃ怖かった。そしたら修造が血相変えて飛んできてオーブンの前まで来ていた男の腕を掴んで脇腹を蹴って倒した。
揉み合ってるうちにナイフを掴んでしまって床が修造の血で一杯になってこっちが卒倒しそうだった。
その時ね、凄く心配で私この人から離れないって思ったの。
それから病院に一緒に行って
毎日手当に行ったのよ。フフフ。
そしてすぐに一緒に住みだしたの。
今も修造の手にはその時の跡が残ってる。
でもね
私は修造が大好きだったのに、、、
結婚して緑が生まれて間もなくして急にドイツに行くって言い出したわ。
つづく
パン職人の修造 江川と修造シリーズ1〜55話はこちら
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