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【両利きの組織をつくる5 : 第三章(前半)「両利きの経営」論 成熟企業の生き残り戦略 コングルエンスモデル 】

前回までのマガジンは上記に入れています。

本マガジンでは、近年注目の“両利きの経営”についてAGCを題材に事例研究した書籍、“両利きの組織をつくる”について解説していきます。今回は、前回マガジンでビジョナリーカンパニーを学習した健が同期の倫也に工場で会います。(両者とも課長)倫也がこの本について解説し、その中で2人が議論していきます。今回は第三章「両利きの経営 成熟企業の生き残り戦略」の前半を解説します。

・・・・・

👱🏼‍:おはよう。

👨‍🦱:おはよう。今日は第三章に入っていこう。前回は、AGCの紹介とともにどんな課題に直面していたか、その課題とは既存事業を維持・強化しながら、次世代の成長時期となる新規事業を生み出すこと、つまり両利きの経営だったということを説明したな。

👱🏼‍;ああ、そうだったな。

◆「両利きの経営」とは何か

👨‍🦱;今回は、その両利きの経営とは何かを三章の前半として解説する。
著書の中では、概略として下記のように説明している。

「両利きの経営」とは、既存事業の「深掘り」(exploit)と新しい事業機会の「探索」(explore)を両立させる経営のことである。本書の共著者でスタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・オライリーとハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・タッシュマンが一九九六年に初めて発表した経営理論であり(1)、論文発表以来、膨大な実証研究が積み上げられてきた。日本では2019年に翻訳刊行された書籍によって広く知られるようになった理論だ。

👱🏼‍:「深堀」と「探索」ね。新たしい事業機会が探索で、既存事業に必要なものが深堀と捉えればいいな。

👨‍🦱:事業にはライフサイクルがあり、企業が生き残り繁栄を続けるためには個々の事業のライフサイクルをとらえ、次の事業を作り出さなければならない。つまり、既存事業が衰退期に入る前の踊り場で次の成長事業を生み出していかなければならないのはわかるな。下記の図のイメージだ。

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さらに言えば、同じ会社の中に、コア事業(成熟事業)、成長事業、そして探索事業(新規事業)が同居しているイメージだ。

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👱🏼‍;なるほど、まさにビジョナリーカンパニーのANDの才能の活用と同じ考え方に見えるな。

👨‍🦱;これまで日本では、両利きの経営は「知の深化」と「知の探索」として紹介されてきたんだ。自社の知識を深堀する。そして、外部の知識と繋ぎ新しい知識の組み合わせ、つまりイノベーションを促進するという考えとして理解されていた。

👱🏼‍;ようするに、オープン・イノベーション論ってことだね。

👨‍🦱:でも、オライリー教授は、そうではないと言っており、これは、組織イノベーション論であり、組織進化論と言っている。

👱🏼‍:ん?どゆこと?

👨‍🦱;自己組織内の問題であると言っているんだと思う。つまり、外の知識とつなぎ、新たな知識を生むとを言っているのではなく、成熟した自己組織のレベルを上げるために深堀と探索を実行していく必要があるということに言及しているんだ。わかるかな。

👱🏼‍:なるほど、自組織の進化が目的であり、そのために深堀と探索があるというわけだ。

👨‍🦱;組織として進化し、競争力を高めていかないと振興企業に対し太刀打ちできないという危機感があるのだろう。振興企業も常に変化・進化してくるからね。

◆異なる組織能力を併存させる

👱🏼‍;でもさ、結局、深堀と探索って結局事業ポートフォリオ理論と同じことを言っているように見えるんだけど。。

👨‍🦱:いや、それは違う。ポートフォリオはその中身をどうするかというだけの議論であり、既存事業の深堀、新規事業の探索という事業の両立は言及していないと思う。

👱🏼‍:そうか。両立しなければならないという概念はポートフォリオ理論にはないな。より高度だ。それは大変だ。。フレームワークが本質とはもちろん思わないが、検討する方法はないのかな。

👨‍🦱;ああ、そうだな。イノベーションストリームというフレームワークが本書に解説されているよ。これは、コア事業を深堀しながら、どの方向に探索するかを考えるための枠組みと言えるんだ。

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それぞれのイノベーションの定義については、下記のように書かれている。

改善によって生まれる「漸進型イノベーション」、技術革新などの大きな変化によって生まれる「不連続型イノベーション」、既存の製品やサービスを創意工夫により大幅に向上させる「アーキテクチュアル・イノベーション」である。

👱🏼‍;なるほど。こんな解釈でいいのかな。漸進型イノベーションは既存の組織能力を新たな市場で適応させる。これは一般に日本のグローバル企業が実施してきた海外進出がイメージできるかな。でも、もう行き詰っているというところはある。あとはアフリカくらいか・・。他の二つのイノベーションでは、新たな組織能力が必要とされると

👨‍🦱;そう。つまり、新たな組織能力を獲得しないかぎり、不連続型イノベーションやアーキテクチュアル・イノベーションは起こせないということになる。ここでポイントになるのは、新商品やサービスで新市場に乗り込むというこではないんだ。新たな組織能力が必要ということだ。ここ重要。これまでとは異なる組織能力を形成しなければ いのだ。「両利きの経営」が、製品やサービスのイノベーションをいっているのではなく、それを生み出す組織自体のイノベーションについて言及していることを理解してほしい

👱🏼‍;なるほど、でもこれまで何度も言っていたけどもこれら新しい組織能力と既存の組織能力っていうものは、相性が悪いんだよな。

👨‍🦱;そう。わかると思うけど、既存事業組織っていうのは、ガチガチに固まっていてリスクを最小限にして、高品質の製品を作る能力にたけている。要するに失敗をしない、決まったことを行うことが特徴の組織だ。しかしながら、新規事業を行うには失敗は許容しながら様々なアイデアを試していかなければならない、失敗事態も価値になるという組織だ。

👱🏼‍:それは相容れないわ・・。だが、その共存が競争力になるわけだから必須だということだよな。

👨‍🦱;そうだ。本の中では、下記のように記載されている。

「両利きの経営」の核心は、「既存事業を深掘りする」という組織能力と「新しい事業機会を探索する」という組織能力、さらにこれら二つの相矛盾する組織能力を併存させる組織能力という、三つの組織能力の獲得を目指すことにある。そのためには、各々の能力形成を可能とする組織カルチャー (仕事のやり方)をマネジメントすることが大切なのだ。

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◆組織を読み解く視点―コングルエンス・モデル

👱🏼‍:何が大事かってことはわかってきたんだけど、もう一度組織能力ってそもそもなんなのか整理したいな。組織能力ってなにから構成されて、能力が発揮されているとはどのような状態をいうのだろうか。

👨‍🦱;そうだよな。それらの点について考えていく上で、組織経営論の基本で、両利きの経営のベースとなっている。コングルエンス・モデルについて紹介しておこう。

👱🏼‍;コングルエンスモデル??

👨‍🦱:コングルエンス・モデルは、四つの基本要素と、その背景を図示した概念である。下記だ。

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基本要素

①「KSF (Key Success Factor )」:
「現在の戦略を実行する上でのカギ」(実行課題)を意味する。戦略論と組織論の連結点となる。

②「人材 (People)」:
「どういう知識・経験・スキルをもった人材がいるのか」を意味する。

③「公式の組織」:
「組織カルチャー」という非公式な組織の対語として使われており、組織体制、評価制度、仕事上の仕組み・手順」なども含む広い概念である。

④「組織カルチャー (Culture)」:
その組織で観察される特有の「行動パターン」のことである。ここでは、その組織特有の「仕事のやり方」と理解されたい。
背景

「戦略 (Strategy)」:
組織が目指しているもの、織経営の方向性という意味で、「目標Objective)」と表現される場合もある。

「経営のリーダーシップ (Leadership)」:
「経営者(経営チーム)はどういうキャラクターの人物で、どんなリーダーシップ・スタイルをとるのか?」ということだ。

👱🏼‍;これらの関係性を議論していけばいいのか。

👨‍🦱:組織っていうのは人でできているから、生き物だ。血が通っている。今の組織も4つの基礎要素の複雑な均衡で成り立っているんだ。まず、組織能力だったり組織を考えるときは、上記の現状の状態を理解することが重要なんだ。例えば、

「ある組織のKSFは何なのか? KSFを実行するのに必要な人材はどういう人材なのか? その人材を評価する仕組みはどうあるべきなのか? そうした人材が働きやすくなるには、どんな組織カルチャーが必要なのか?」

というような感じに、関係者で対話し、組織の現状を読み解き、その共有ができた上で目指すべき姿を作らなければならない。

👱🏼‍;なるほど、これは大組織だけでなくて、全ての組織いえることだな。

👨‍🦱;このモデルをベースにした額実的な実証研究がオライリー教授にてなされてきた。研究成果の一つに「組織カルチャーが競争力の源泉になる」ことの実証があるが、その研究では「リーダーシップ・戦略・KSF・人材・制度/仕組み・組織カルチャー」の適合度合(フィット)が鍵とされたそうだ。

👱🏼‍;フィット。なるほどね。バランスが取れているというか、整合性が取れているということか。ストーリーが出来るといってもいいかもしれないね。

👨‍🦱;さらに、4要素が互いにフィットしている状態であることを「アライメントが取れてる」というそうだ。組織論を語る上では抑えておかなければならない概念だ。なお組織はこのアライメントが取れていることで初めて機能を発揮するとされている。著者はこう言っている。

組織経営の核心は、「事業環境に応じて、経営者(経営チーム)がリーダーシップを発揮し、戦略を策定し、戦略を実行できる組織をどう作るか?」、つまり、「その事業に適したアラインメントの形成ができるかどうか?」ということになるのだ。

👱🏼‍;なるほど。そうか、両利きの経営で言った場合、既存事業に適した組織と探索事業に適した組織を併存させるために、新たなアライメントを形成することが必要となってくると。それが言いたかったんだな。

👨‍🦱:その通りだ。整合性といったほうがわかりやすいかもしれないが、同じ意味だ。過去に話した成功の罠があったりして、アライメントの変更が困難であったり、勃興期、成長期、成熟では必要となる異なるアライメントが異なったりする。しかしながら、組織がアライメントを作り直していくプロセスこそ、組織進化であると著書は述べている。

👱🏼‍:そうか。その時々の状況でアライメントを変化・意向させていかなければならないのだな。

◆アライメントを取る難しさ

👨‍🦱;そうだ。しかし、著者は、下記の点が難しい点になってくる。

① 恐怖心が生じる
移行期における組織の感情は、「現状満足→反発→不安→刷新」というプロセスを辿るという考え方がある(5) (図3・0)。既存のやり方に満足していた組織は、経営者による組織変革の取り組みに対して、まず反発するだろう。その反発に経営者がひるまず変革を進めると、次に組織は先が見えない不安に陥るだろう。その不安の暗いトンネルを突き抜けると、ようやく組織は刷新された段階に辿り着く。

② 時間がかかる
また、新しいアラインメントの形成には時間がかかる。特に(経営危機に陥る前の)平時にそれを行うのはきわめて根気のいる取り組みだ。各人の立場によって、危機意識の感度が大きく異なるからだ。その結果、特定の部門やキーマンからの反発や抵抗が避けられない。一方で、事業環境の変化はアラインメントの形成を待ってはくれない。

③ 新旧アラインメントの差異が大きい
既存事業(深掘り)のアラインメントと新規事業(探索)のアラインメントとは、まったく異なるものだ。これがきわめて難しいポイントとなる。

👱🏼‍:これ、言いたかった言い訳が凝縮されているな。新規事業と既存事業は社内でさえ、相容れない・お互いを尊敬できていないもんな。片方は先を見てないといい、もう一方は湯水のように俺たちの金を使うって言う

👨‍🦱;そうだな。だが、だからこそ、克服出来たら強みになっていくんだ。ここまでで「両利きの経営」論のポイントは分かったと思う。既存事業を維持しながらも新規事業(探索事業)を生み出すこと。そのために新たなアラインメントを形成すること。それを通じて組織に進化をもたらすということがポイントだったな。

👱🏼‍;ああ、わかった。

👨‍🦱;よし。今日はここで終わりだ、3章の後半はこの課題にAGCはどのように取り組んでいったのかを解説する。

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今回は第3章の前半を解説しました。両利きの経営のエッセンス、そして難しさについては理解できたかと思います。次回はAGCがこれに対してどう活動していったかを第三章の後半として解説します。

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