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    タワマンブルース            -------- Short Story ---------

近未来、超高層のタワーマンションに起きた信じられない欠陥の数々。
建て替えの莫大な費用、出て行く住民、出るに出られぬ住民、そしてアイツがやってきた。


夕暮れの赤い空に60階建て高さ300メートルのタワーマンション(以下タワマン)がそびえている。
都内のその場所にそびえ立ったのはおよそ4年前だ

12階の高さ45メートルまでは横幅150メートルのビジネス棟が拡がり、その上に高さ260メートルの住居棟が直立している。
住居棟とビジネス棟の全部屋は完成前にはすでに完売となり、全戸入居が終わった日、日暮れとともにタワマンの部屋という部屋総てに明かりが灯った。
派手で煌びやかで壮観な眺めに拍手が響き歓声が上がった。
街の中にもう一つの街が現れ、新世界の幕開けを知らせてくれたタワマンだった。

 当時では最新式の工法だと喧伝され、最初の大規模修繕も25年は不要、震度8の地震にも十分耐えられ、騒音からも火災からも守られる鉄骨鉄筋コンクリート造りという振れ込みだった。
加えて外観も内装も有名デザイナーが精魂を込めてデザインした世界に誇れる今世紀一番のタワマン、とテレビも広告欲しさに煽りまくり囃し立てた。

 そして一年過ぎても二年過ぎても三年経ってもその賑やかさは変わらなかった。
経済効果も巨大で「雇用も人口も増え、まさに区の救世主」と喜んだのは区長だった。

 しかし工事の始まりとともにタワマンに住み着いていた悪魔はゆっくりと目を覚ましていた。
その第一手は4年を迎えるころから目に見えてき始めた。
確かに外観は奇抜で内装は先進的で世界の建築関係者を唸らせたが、しかしデザインと安心と住み心地は三者それぞれ別の問題だ。
「デザインはいいのかもしれないが、使い勝手はきわめて悪い。我慢してはいたが、さすがに言わずにはいられない」

「デザイン優先で使い勝手を犠牲にし、おまけにそのせいか、あちらこちらで不具合が出ている。それも段々と拡がっているのが気になる」
「うちはもう不具合どころではなく、欠陥住宅ではないのかとさえ思っている」
「修繕してもまたすぐ元に戻る。設計がおかしいのか、それとも施工のミスなのか、一度専門家に見てもらおうと思っている」
聞えてくる言葉は賞賛から不満になり批判になりいまは抗議めいている。

 事実様々な不具合が現れている。
水漏れ、壁のひび割れ、すき間風、聞こえないはずなのに聞こえる隣室の声、タワマンなのに床にボールを置くと転がる、という。
だが不思議なことにそれが集中しているのは住居棟の下層部分だけだ。
こうなると下層辺りに欠陥があるのでは、ということになるのは当然だ。

 当初は傷口にバンドエイドを張るように小手先の修繕で誤魔化していたが、さすがにそれでは済まなくなった。
やがて完成からわずか4年で14階にある談話室の天井がある晩に崩落してしまった。
夜中のことでケガ人はなかったが、これで住民の我慢が限界を超えた。
我慢強い日本人でも本気になったら革命でもやる。

「最初の宣伝文句と違うじゃないか、大規模修繕は25年大丈夫どころかまだ4年しか経っていないのに、天井が落ちるとは信じられない」
「うちの部屋はトイレの排水が悪くて匂いが逃げない。三度も修繕を頼んだが金だけ取られて治っちゃいない。詐欺じゃないか」
「何だこれは」「すぐに修理しろ」「金を返せ」

夢を持ち期待していただけに、裏切られたと思うとなおさら怒りも激しくなる。
「だが中層から上層階の住人には他人事だ。危惧してい通り住人同士の連帯感に亀裂が入ている。困ったことになった」
と言ったのは区長だ。

 そして全住民で構成された管理組合は区と組み、第三者である大手設計監理事務所に依頼してタワマンの図面を手にして一週間かけて下層階を集中的に徹底的に調査した。
すると下層階から出るわ出るわ、ボロボロと出てきた。
監理事務所の監理士も住人もあまりのひどさに絶句し、区長は頭を抱えた。

「いやあ、手抜きもあれば施行間違いも多い。指定以外の材料を使ったところも多く、慣れていない業者がやったと思われる部分も多い。まるで「中国のおからビル」のようです」
と監理士が言ったのも当然だった。
「中国のおからビル」とは、手抜き工事に加えて鉄骨鉄筋が異常にもろく、コンクリートも木槌で叩けば壊れるような、まさにおからのようなスポスポのビルのことだ。

中国と比べても遜色ないほどの欠陥が無数に見つかった。
それもあり得ないはずの日本で、首都の東京で、最先端の工事のはずだったのに。
上層階ならまだしも下層階だから立て直しの可能性もある。
もはや解体したほうがいいのじゃないか、という意見が出るのももっともだ。

「おからとまでは言いませんが、おからにきな粉を混ぜた程度ですよ」と監理士が言ったのも大げさではなかった。
鉄筋も安くあげるために密かに中国から輸入していたことも分かった。
この鉄筋、探し出して作業員が叩いたらポキッと折れた。
それを見た全員があっけに取られた。

工事現場の状況も調べていくとこれまた悪夢だった。
施行した建築会社には中国人の二次下請けやその他外国人の三次下請けまでもいた。
住民棟の下層の工事を主にやったのが彼らだ。
日本人の監督と言葉がまともに通じず、工期に追われてOKを出して工事を続行させたこともあった。
これだけでも大問題だが、現場で出た廃材をコンクリートの中に混ぜ込んで壁や床をつくったという証言までも出た。
もはや何でもありだ。

役所への届も偽造した書類の山で、担当者の忙しいときを狙ってやってきてザッと説明して帰ったことも二度や三度ではなかった。
外国人が働いていると、必要なことを言っただけで「差別だ、レイシストだ。区は謝罪しろ」と市民団体が騒いだ。
特に公務員では耐えられず、これがまた手抜き工事のきっかけになっていった。

元々から日本人の考えることやることは「性善説」がその根元にある。
しかし外国人は「性悪説」で生きている。
「悪」と「善」が向き合うとどちらが勝つか、間違いなく「悪」が勝つ。
そして日本人の「性善説」は工事現場に泡のように吸い込まれて消えた。

この性善説、たとえばだが、小売店などで使われるレジスター(レジ)がそうだ。
あれを日本人は店と店員たちの便利さを追求した結果のスグレ者と思っているが、本当はそうではない。

アメリカ人があれを考案したのは、店員の不正が多く、それを防止し、店員を見張るためにつくられたものだ。
アメリカ人も世界の人々もみな性悪説だが、日本人だけが性善説で生きている。
結局それが問題を起こしていく要員の一つになった。

 監理事務所は区役所、国交省の関係者とともに会見に臨み、断定した。
「致命的な欠陥が下層階に集中している違法建築ビルです」
ネットニュースの記者が尋ねた。
「直せますか」
「中層から上に問題はないのですが、下層だけやるのはほぼ不可能です。立て直したほうが結局安上がりで確かなものになります」

管理組合も住民も騒然とし、完成当初は囃し立て持ち上げて煽ったテレビは、今度は業者たたきとタワマンを貶めるニュースに仕立てて正義の味方に変身した。

監理士はなおも言った。
「立て直しの工期は解体もあり、養生もあるのでおよそ5年」
会見場は以外にも静かだだった。
住民はもう開き直っていた。
ネットニュースの別の記者が尋ねた。
「いま関東大震災程度の地震がくればどうなりますか」

「わたしが住んでいれば死を覚悟します。近くにおれば必死で離れます」
監理士は真面目な人物だ。
もう時間はないとして、ついしゃべってしまった。
あとで内部で問題になったらしいが、真実であり、いつの間にかうやむやになった。

 一方でタワマンの住民でつくる管理組合は売った不動産会社と建てた建築会社に激怒している。
区役所にもだが、区役所も被害者であり、これをつつけば市民団体に批判が及ぶとしてその筋からの批判は成りを潜めている。
テレビも積極的に区の責任を追及しない有様だ。
区長は思っている。
「なんといい加減なやつらだ」

管理組合の理事は言う。
「立て直しであっても、その費用を我々が負う責務は1ミリも無い。それどころか我々住民は損害賠償を求める立場だ。不動産会社と建築会社には誠意ある回答をすぐにも求めたい」
横にいる不動産会社と建築会社の責任者は声も出ない。
彼らもすでに違法建築の容疑がかかっている立場だ。

こうなると下り坂を転がり落ちるように事態は悪化していった。
住人と関係者が集まった住民総会が公民館で数度も行われた。
「もうあんなところで暮らせない。マンションを出る。代りの同等なマンションとそれらに関わる費用を総て出せ。それによる仕事への損害補償も出せ」
という声が住民総会の会場にあふれたのは、当然の結果だ。
部屋に総ての住民は入れないので、各戸にネットで中継もされた。

だが不動産会社も建築会社も黙っているだけだ。
不動産屋も建築会社も上場企業だが、上場企業にもピンからキリがある。
ふんだんに資金のある企業もあれば、そうではない企業もある。
この両社は上場企業とはいえ、中国にのめり込み過ぎて財務内容は火の車だったこともバレた。

 おまけにタワマンが大問題になって株価が大暴落し、投げ売りが続き、倒産か合併かとされて今や両社とも一株2円だ。
それも一秒ごとに1円と2円の間を行き来している。
株式市場では、すでに倒産扱いであり、東証はすでに整理ポストに入れている。
両社の経営者は退任したが、個人財産は名義を変えて金はもうないとうそぶいているのだから始末が悪い。

最初から何もかもウソと手抜きと虚偽にまみれていたタワマンだった。
なぜここまでバレなかったのか、小さなウソをうっかり見逃し、それを誤魔化すためにまた少し大きなウソをつく、最後には雪だるまのようにウソが転がって巨大な嘘ダルマになってしまった。
「神は細部に宿るというが、悪魔も細部に宿るのだよ」
とは悪魔のひとり言だ。

 責任者の一角を占めるデザイナーも不動産屋たちと同様だ。
住民総会に一度だけ顔を出したが、あとは「こちらに責任は無い。総て施行側に責任がある」と言って逃げたまま二度とは来なかった。
「何がデザインだ。安全も安心も無いデザインなんか何の意味があるのか」
と批判されたが事は莫大な補償が予想される事態だ。
あっさりとデザイン事務所を閉じて本人は家族とともに海外に出てしまった。

 管理組合の理事は身動きできなくなっている。
「立て直しなんぞ、不動産会社も建築会社もアップアップなのに不可能だ。まだ築4年で、軽微な修繕の費用すら貯まってもいない。住民にそれを求めれば一戸当たりの負担額は巨額になり、多くの住民の生活そのものも崩壊する。行政に頼むしかないが、民間のマンションを税金で助けることは難しいと区長も言っている」

そうこうする内に建てた建築会社がやっぱりというか倒産した。
計画倒産だと言われたが、さりとてどうする事も出来ない。
すると二日後に不動産会社も倒産した。
グルで立てて売って最後はグルで倒れた。
住民の中には「あいつら死刑にしろ」と言う者もいる。
「気持ちは分かるが、もはや万事休すだ。このままいくか」と区長は言った。

 そしてついにタワマンに見切りをつけ、出て行く住民が出始めた。
だが出て行けるのは、出て行ける余裕のある一部の住民だけだ。
話題のタワマンなのでわざわざそれを見物にくる野次馬も多い。
カップルがその引っ越しを見ながら話している。
「あれってさ、出て行く順番もお金がある住民から先に出て行くんだよね。出ていくのも格差があるんだね」
「そうだな、入るのも格差、出るのも格差か」

横から年配のサラリーマンらしいのが言った。
「そうだな、タワマン住民の所得格差が歴然と分かるな。悪いかなこんなこと言っちゃ」
犬を連れた近所らしい婦人が言った。
「最後に残る人は・・・そうなんでしょうね・・・きっと」
廻りにいる野次馬はそれを聞いて妙に納得している。

 だがほとんどの住民は住宅ローンをかかえ、売りに出しても当然ながら買い手はつかない。
出るも地獄、止まるも地獄だ。
それでもやはり住民は減っていった。
「出て新しい道を探します。ローンもあるけど権利もあるし」という住民も多い。
減り出すと早い。
そして残ったのは高齢世帯ばかりになった。

 引っ越し費用が足らない者もいれば、動くのはもうイヤという者もいる。
区役所が特別に用意した区営住宅はすぐに埋まったが、「このタワマンと一緒に死ぬんだ」と組合に抵抗した高齢者もいる。
管理組合の理事も出て行った。
タワマンは組合の世話役すら消えて管理組合は名札だけになった。
組合が貯めていた金も無くなった。

 あの煌めきと賑やかさはいつの間にか消え去り、新世界の兆しだったタワマンはいまや黒い化け物と化してしまった。
明かりのついた部屋はほとんど無く、でかくて空を狭くしている化け物の暗い影だけが辺りに不安と言い知れぬ恐怖まで与えている。

大きくて高いのがタワマンのウリだったが、こうなると周辺住民にとっては大きいゆえの威圧感と、空を占有されている閉塞感しかない。
周辺住民はもうタワマンとは言わない。
「あの化け物が」「あいつは化け物だ」
タワマンは化け物化していた。

そして住人はほとんどいなくなった。
夜に見ても灯りがついている部屋は一つ二つ三つ・・と数えても七戸しかない。
こうなると野次馬が言うことは決まっている。
「幽霊マンション」
その次はお決まりの落書きとガラスの破壊である。
放置すると火事や犯罪の温床にもなりかねず、行政もほっておけずタワマンの事務所あとにガードマンを常駐させることになった。

そんなとき一人出て残りは六戸になった。
住人は総て高齢者だ。
ただ六戸はみな違った階で、互いの交流も無い。
すでにエレベーターも止まり、日々の食材や日用品は配達に頼っているが住民のいる一番上は48階だ。
若いのが運んでいたが、三日で辞めた。

だがそんな中でも上がってくる女性がいる。
高齢者のためのヘルパーだ。
タワマンの階段で男とすれ違うときはさすがに構えるらしい。
それでも彼女たちは上がってくる。
ほぼ一人で、大したものだ。

しかし48階はさすがに堪える。
照明用の電気は通じているので廊下階段には最低限だが明かりはある。
でも途中で何かあって大声で叫んでも、みなドアーを閉めて籠っている高齢者だ。
聞えるはずもなく、こうなるとヘルパーも命がけだ。

48階にも中年の女性ヘルパーが交代でやってきてはいたが、とうとう仕事そのものを辞めた。
彼女は言った。
「上がるだけでヘトヘトで、ケアも力が入らず、帰りの下りは地獄へ落ちるような気分です。娘が泣いて止めるんです。『お母さん、もう行かないで、死んじゃうよ』まるで特攻隊になった気分です。もう辞めます、辞めさせてください」
誰も引き止められない。

 今晩も黄昏とともにタワマンは黒い化け物となり、そこにシミのように明かりが6個つく。
超巨大な幽霊ビルはますます世間の興味を搔き立てている。
近所の住民の話しのネタはつきない。

「たまにタワマンの住民がベランダに出ているが、見ると確かに”幽霊”に近くなっている」とは真向いのオフィスビルに残業で残っているサラリーマンの評だ。

 区役所は以前から全員の施設入りを勧めていたが、それを強化した。
区長は担当者に命じた。
「裁判所の許可が出次第、強制的な移動も視野に入れてますからと言え」
そうこうしているうちに気苦労のせいか男の独り者が倒れて病院行きになった。
病院の医師は「一人で帰せば命の保証は出来ない」と言う。
役所はこれ幸いと療養の出来る介護施設に送った。

残るのは5戸。
「裁判所から許可が出ました」
「おお、早かったな」
「すぐにかかりましょう」
強制執行である。
まとめて収容所、いや区営住宅送りだ。

 執行について最初のころはどこからか市民団体がやってきて「強制的退出に反対する」と叫びながら運動をしていたが、いまはもう見にすら来ない。
「本当にその場の気分で動く連中だな」と言ったのはテレビの記者だ。
「あいつらを煽ったのはアンタたちだろう」と横にいた元住人が言うと記者は黙ってその場を離れた。

「明後日、強制執行を行います。区営住宅に入っていただきます」
区長が記者会見で明言した。
当日、住民はもう抵抗する気力もない。
家財の多くは昨日に区営住宅に運んである。
寝具と小物少しを運送会社の担当者が運び降ろしていく。

「いまさら区営住宅、ここの補償金はどうなるの」
「不動産屋も建築屋ももうありません。補償はもう不可能です。でも権利はありますから」
もう泣く気にもならないのだろう。
「そう、そうだよね、分ってはいたけど・・」

・大団円 

夜になった。
区役所の一室に関係者が集まっている。
「みなさん、ご苦労様でした。おかげで化け物から一応手が離れました。これから解体に向けてまたひと仕事です。頑張っていきましょう」
区長の言葉に拍手が起きた。

部屋の窓から区長があの化け物を見ている。
「やっと一歩進みましたね」
「うん、みんなもよくやってくれた」
と区長が言ったそのときだ。
テーブルの上に置かれているジュースの缶がカタカタ、カタカタ、と音を立て始めた。
「何だよ」
「まさか」
と区長が言ったときだ、突然部屋が揺れ始めた。
グラ、グラ、グラ~ッと揺れる。
「地震だ」
部屋は騒然となった。

だが、じきに揺れは止まった。
モニターにネットニュースが流れた。
「震源は茨城県南西部、深さは約45メートル、マグニチュードは4.
0 この地震による津波はありません。
キャスターが付け加えた。
「東京のあの欠陥タワマンはどうなのでしょう、気になりますね」

区長が叫んだ。
「オイッ、キャスター、一々余計なことを言うな」
係りの者がすぐにタワマンのガードマンのいる事務所に電話を入れた。
「異常はないか、全員で手分けして調べに入っているようです」
5分10分20分、全員が言葉もなくタワマンからの連絡を待っている。
ブーッと電話が鳴った。

区長が電話に出た。
ひと言ふた言 何かうなづき、青くなって電話を置いた。
区長は口を開いた。
「タワマンの直立部の下にあるビジネス棟の屋根一帯に大きなヒビが入っているそうだ」
「てことは・・」
建築課の担当が言った。
「ビジネス棟の屋根の上にある住民棟の下層部が傾むくか、あるいは折れてビジネス棟の屋根を押し破ったということでしょう」
「倒れるのか」
「鉄骨鉄筋は下から繋がっていますけど、欠陥だらけの下層階ですから現場を見るまで何とも」

「もしも倒れたら」
「押しつぶした部分から少なくとも300メートル先までは砕けます」
「ここから見る限りでは傾いているようには見えんが」
「ここから分かるような傾きなら、もう倒れてます」
「倒れたら街が消えるぞ」
「・・・・・」

区長は言った。
「すぐに現場に行く。支度を」
するとグラッグラッとまた揺れた。
「余震です」

実際は数秒なのだろうが、区長たちには1時間にも2時間にも思える永い揺れだった。
そしてドスンという地響きがした。

区長は「何が落ちた」と言いながら窓から化け物を見た。
・・・・
「・・消えた・・」
化け物は消えていた。
そして月明かりを受けて巨大な煙がもうもうと舞い上がっていた。

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