服部まゆみ作品の一気読みを、ただいましています。

刊行順に読んでおり、これまでは『時のアラベスク』『罪深き緑の夏』『時のかたち』『黒猫遁走曲』まで記録しています。

今回は『一八八八 切り裂きジャック』から。

『一八八八 切り裂きジャック』

1888年の霧深いロンドンを舞台に、エレファント・マンと切り裂きジャックを巡るゴシックミステリー。これだけでも涎が出そうな煽り。
エレファント・マンも切り裂きジャックも実在の人物で、事件や出来事も史実に基づきつつ、作者の圧倒的創作力で絶妙に絡み合っている。絡み合わせるために出てくるフィクションの主人公が鷹原と柏木。

健啖家で行動力の塊であり、バーからパーティまでどこでもそつなくふるまい誰からも好かれる美貌の青年鷹原（あまりにも完璧すぎて、イケメンを想像するのが大変）と、解剖学を学ぶために留学しているはずがエレファント・マンの影響から文学に目覚めてしまうほど素直で内気な記録魔柏木。お互いを補完しあうような二人のコンビネーションが絶妙で、正しくシャーロックとワトソン。

読みながら、出てくる史実やモチーフを興味がある限りで調べていきましたが、切り裂きジャックは未だ解決されていない連続通り魔事件。事件の数も多い（1年間ほど続いたよう）ので、すべての事件を追いかけたうえで、これをいかにしてミステリーの解決編を書くのだろうか……？と期待を膨らませ読み進めていました。文庫で800ページ近くあるので、本当に長い。長いが読み応えは抜群にあり、どんどんロンドンに迷い込むというか、惑い込まれているような感覚。さまざまな人物と、裏歴史の深いロンドンが錯綜し、結末に結び付けた、作者の創造力のすさまじさに、最後はとても感動に打ち震えました。

エピローグは切なく麗しい。年末年始をまたいで読んでいたので、年明けの瞬間、私はロンドンにいた……と思っています。
そしてリアルなロンドンにもいつか行きたい。図書館とか駅周辺など。蝋の「ヴィーナス」も、いつか生で見てみたい。興奮が冷めない一冊です。

『ハムレット狂詩曲（ラプソディー）』

劇場の杮落としでハムレットを上映するため、集められた演出家と俳優たち。演出家は母殺しの憎しみから、父親である俳優への殺意をたぎらせる復讐劇を演出しようとしていた！といったあらすじ。

今まで読んだ服部作品の中で一番殺意のある話でしたが、しかし一番毒素が少ない作品でした。というのも、肝心の事件が起きるようで、なかなか起きず、ついつい「殺意が足りない！」と思ってしまいました。出てくる小悪魔的少年が物語をとても軽やかに、爽やかにしていますが、個人的には、もっと悪意を！と駄々をこねたかった。服部氏らしい、洒脱な人物と美文はとても楽しみました。

刊行順で言えば、『ハムレット狂詩曲』のあとに『この闇と光』が続きますが、すでに読んでいるため、次は『シメール』です。読み始めたところで仕事初めになってしまった。ゆっくり読んでいきます。
とても自己中心的で大胆に時間を使った休暇を過ごせたのではないかと思っています。