見出し画像

【ネタバレ注意】『アクアマン』(Aquaman):オジ&デス対談第一弾 Vol.5

《アクアマンはメガ盛り大サービス映画》

映画を見ていて幸せな瞬間というのには、これまでに見たことがない映像を見せてくれる瞬間というのがある。そして、また、その一方で、別の映画からの引用や自分の好きな映画との共通点を見つけた瞬間もまた幸せだ。「お前らはこの引用に気づいてないのか?」「それは違うぞ!」とツッコミどころ満載だろうと思うけど、論文でもなんでもない素人の駄話なのでそこはお許しを…

「今までに見たことがないあれやこれや」

デス 『アクアマン』には魅力的な場面が次々と出てくるけれど、特にシチリアの場面はダイナミックなアクション映画としてもロマンチックな恋愛映画としても画期的だと思う。
 まず、カメラワーク。ジェームズ・ワンの作品を見ているひとはわかると思うんだけど、シチリアの戦闘シーンのカメラワークは、ジェームズ・ワンらしさが最も活かされている場面だと思う。

オジサン ああ。

デス アクションシーンを撮ることに関しては、マーベル映画にしてもザック・スナイダーにしても定評があるけれど、ああいうカッコいいシーンはちょっと新しいっていうか…。あの、アクアマンとメラが、ブラックマンタ率いる精鋭部隊と戦う場面で、ちょっと離れた場所でそれぞれが戦闘を行っているんだけど、ワンカットの長回し風に撮ってる。うーん、これ、ちょっと説明が難しいんだけど…

オジサン えーっと、要するに、遠景で撮っていて、手前で戦っているアクアマン、その向こうに戦っているメラが映っていて、それが同時進行に一つの画面に収まっていて、でも、それぞれが別の戦闘になっている、っていう。

デス そうそうそう。

オジサン しかも、最初は別々に撮ってるんですよね、それぞれの戦闘シーンを。で、その戦闘が盛り上がってくると、カメラが引いて、両方の戦闘が一つの画面に入ってくる。アクアマンとブラックマンタ、メラとアトランティスの精鋭部隊と別カットで見せていた戦闘シーンが、いつのまにか一つの画面にまとまって、ってなるんですよね、ある段階で。で、その後、またそれぞれ別のカットに別れていくんですけど、それがスムーズに撮られている。
 2つの別々の戦闘が同時に起こっているというの自体はアクション映画ではよくあることですけど、その撮り方や編集が見事だってことですよね?

デス そう!
 で、あのシチリアのシーンはね、戦闘シーンだけでなくて、その手前も素敵なんだよね。メラは純海底人で地上での生活経験がないから、地上人たちの行動がひとつひとつ新鮮で理解ができなかったりする。で、花屋のおじさんが赤い薔薇の花をくれるんだけど、周囲のひとたちが果物を食べたりしているのをみて、自分も食べ物をもらったのだろうと思って薔薇を食べちゃう。
 で、メラはアクアマンにも「食べる?」みたいに差しだすんだけど、そこでアクアマンはメラに合わせて食べるわけです。「メラ、これは食べるものじゃないよ、観賞用なんだ」とかわざわざ言わない。つまり、このシーンを「強くて賢くて美しいヒロインの天然シーン」みたいに回収せずに、アクアマンはニコニコ一緒に薔薇食って合わせるっていう、あんまり今まで見たことない力技で和ませる。

オジサン うふふふふ。そうそう。

デス 当然そのシーンはメラとアクアマンが親密になっていく、ゆくゆくは恋仲になっていくっていう過程のひとつなんだけど、いままで、ヒーロー映画に限らず、あんまりああいうシーンって言うのは見たことがない、すごく素敵なシーン。『ワンダーウーマン』におけるダイアナとトレバー大尉のベタで古くさい、場合によってはちょっとミソジニー的なやりとりと比べても、全体的にそういう嫌な感じがない。だから、このふたりはもう祝福するしかないよね、って気持ちにさせられる。
 で、そのふたりの恋の結実がキスシーンで示されるわけだけど、たまたま戦闘シーンなんだけど、水中での戦闘による爆発がまるで花火のようにボーンボーンって打ち上がって、爆発すらもアクアマンとメラを祝福してる、海中(うみじゅう)がふたりを祝福してるみたいなかんじ。で、観客ももう祝福モードになってるから、めちゃくちゃ感情移入できるし、おめでとー!みたいになる。このシーンだけを切り取ったらベタに見えるんだけど、そこに行きつくまでの過程がベタではない。手あかに塗れた手法じゃないし、かといって奇策に逃げるわけでもなく、創意工夫を巡らせながらも奇をてらうことなく、ストレートにすべきところはストレートに、ってなってるんですよ。

オジサン でも、まぁ、モモアさんの台詞、だいぶアドリブも入ってるらしいんで、どこまでが計算なのかはちょっとわからないようなとこもありますけど、薔薇の花食べるところもそうだし、パラシュート無しでいきなり砂漠に飛び降りるところでも、基本的にメラが地上人から見たら「え?」っていうようなことをしても、アクアマンはそれを否定するようなことをしないんですよね。

デス そうそうそうそう。そういうところもストレスなく見られる。むしろこっちまで幸せになって見られるっていうか。

オジサン で、また、メラが子供からピノキオの本をもらって、(※手前でクジラの口に隠れて危機を脱する場面がある)元ネタを知る場面と並行して、アクアマンが道を聞きに行ってきたり、前景で描かれないけれど必要なことが、うまい具合に、なかったことになってないけれど、だらだらとは描写されていない。小さいことなんですけど、そういうのの積み重ねが積もりに積もると、ダラダラして長くなっちゃうんですよね。

デス そう。省略すべきところは省略して、でも、完全にばっさり削除という形ではなくて、最小化するっていうか、最低限にしてスマートに話を進めるという手腕に長けていると思う。

オジサン あと、デスのひとが好きな場面はあそこでしょ、ワインの…

デス あ、そうそう!シチリアの戦闘シーンで、水を操る能力をもつメラがその能力を活かして、棚にならんでいる大量のワインを使って、それを武器にして戦うんだけど、あのシーンが、オレがこれまでに観たあらゆる映画のアクションシーンで…、あんなにカッコいい闘い方、あんまりない。ベスト10かベスト5に入れてもいい。あえて女性キャラによる戦闘シーンに限定するなら、ダントツのナンバーワンにくるみたいな、そのくらいカッコよかったですね、あのシーンは。

「アクアマンこそが78年版『スーパーマン』の継承者である」

オジサン あの、ボク、それほどたくさんヒーロー映画みてるわけじゃないんですけど、あの、オームとアクアマンの決闘のシーンで、どう考えても「マトリックス」みたいなのやってますよね。他にも分かるひとには分かる「この映画からの影響を受けましたよ」みたいなのが、結構色々あったんじゃないかな、とも思うんですよね。そういうところからも、ジェームズ・ワンの映画愛が伝わってきたのもすごくよかったですね。

デス うん、ジェームズ・ワンはもともとホラー映画出身なだけあって、どちらかというとマニアックな部類の映画も好きなんだけど、スピルバーグとかジェームズ・キャメロンみたいないわゆる大作映画も普通に、あらゆる映画が好きっていう、淀川長治的な思想の持ち主っていうか…。おそらくね。だから、他の映画の影響とか過去の映画へのリスペクトを惜しまない。
 特にアクアマンはメガ盛り感がハンパなくて、過去の色んなヒーロー映画の影響を受けているけれど、その中でも特に1978年のスーパーマンイズムみたいなものを間違いなく意識的に受け継いでると思うんだよね。

オジサン ああ、それ、なんか力説してましたよね。「スーパーマンの真の継承者が誕生した」みたいなこと言って。

デス うん。やっぱスーパーマンとバットマンってのは違うから、バットマン映画ってのはヒットしたけど、バットマンにはスーパーマンの代わりはできない、また逆もしかりだけども。で、バットマンってのはノーランになっても、それなりにカッコよく描かれてたんだけど、スーパーマンは78年のクリストファー・リーヴのスーパーマンが決定打になり過ぎちゃって、その後、なかなか新時代のスーパーマンっていうの出てこないっていう状況だった。最初に少し話したけど、『マン・オブ・スティール』はスーパーマンにしてはウダウダ悩み過ぎっていうか、バットマンワナビーなスーパーマンみたいな感じだったし。

オジサン ひひひ(笑)

デス むしろ、マーベルのキャプテン・アメリカなんかの方がよっぽど新時代のスーパーマンってかんじだったんだけど、『アクアマン』では、他でもないDC映画で、スーパーマン的なヒロイズムっていうものをちゃんと描いているんだよ。で、あとは、王国の話ということで『ブラックパンサー』とか『バーフバリ』(※インド映画です)との共通点も感じられるし、家族を描いているという意味ではGOTGとか『アントマン』とかとも共通してるね。
 で、あとは、ジェームズ・ワンの得意とする、ホラー映画的な描写もいい。たとえば、トレンチっていう深海の…

オジサン 怪物ですね。

デス うん、あれが出てくる場面なんかは、真夜中の豪雨の海で、船の上にぞくぞくとトレンチが現われる。で、アクアマンとメラは怯えながらも戦うっていう、あのシーンなんかはちょっとエイリアン的というかね、SFホラー、モンスターホラーっぽいよね。

オジサン あれ、海にざっぱーんってした後、トレンチがめっちゃくちゃ湧いてくるじゃないですか。もう、ちょっと笑いますよね。

デス うん。そそそそ、すごい量だよね。

オジサン あれ、なんかに似てるなーって思ったんですけど…

デス スターシップトゥルーパーズとか?

オジサン あー。もっとなんていうか現実に見たことある。水族館行った時に、魚がぐるぐる回遊してたじゃないですか、あれみたいな。

デス ああ、わかるわかる。

オジサン 隙間がないよ!満員電車かよ!みたいな…

デス イワシの群れとかサンマの群れみたいなね。

オジサン そうそう、それみたいでちょっと笑えましたよね。トレンチって退化して野蛮になった海底人みたいな設定だし、魚っぽさ、群れっぽさと、プラスわけのわからないものっぽさ、街灯に群がる虫みたいな…ああいうかんじ?わらわら、不快なかんじで、ホラー映画っぽかったですね。

デス デルトロ監督の趣味にも通じるような、ね。で、冒険譚ってことで言うなら、インディ・ジョーンズとか…

オジサン そうですね、そうですね!

デス あとはまぁ、アメコミと冒険譚とでいうと、『グーニーズ』感もあるよね。あ、グーニーズの監督は『スーパーマン』とか『オーメン』のリチャード・ドナーですから!

オジサン え!そうなんですか?

デス そう。

オジサン マジですか?

デス マジです。あとは、まぁ、カラケンってあの巨大な化け物だけど、あれは、巨大イカ…だよね?

オジサン イカとカニとサメがくっついたようなかんじですよね。

デス うん、あと若干恐竜も入ってる。

オジサン 強そうなヤツとかわけわかんないもの全部盛りみたいな。ぶっちゃけあんな形だったら色々不便でむしろ弱いんじゃない?とか思っちゃいますけど…

デス でも、めっちゃ攻撃されても全然効いてなかったし、一撃でアトランティスの戦艦を沈めてたから、やっぱ強いんだと思う。でね、あれに乗ってアクアマンが登場するっていうのは、像を簡単にあやしちゃうバーフバリみたいだし…

オジサン あー。

デス で、戦闘の最後の方でさ、その全体像が映ったところで、カラケンが咆哮をあげるんだけど、あれは『ジュラシック・パーク』シリーズで必ず終盤でTレックスが咆哮をあげる、あのシーンへのオマージュではないかと。

オジサン まぁ、怪獣の咆哮は大事ですよね。怪獣映画ではそれがないと話にならないっていうか。

デス あと、アトランティスのビジュアルね、あれ、海の『アバター』っていうひとがけっこういるみたいだけど、オレ、『アバター』は見てないけど、同じジェームズ・キャメロンの『アビス』っていう深海をテーマにした映画の方は見てて、それを連想したな。

オジサン アトランティスの都市は深海ですけど、ビジュアルイメージ的には、いわゆるSF映画的なものになってますよね。空飛ぶ車の代わりに船だったり、ウミガメが荷物を運んでいたりしますけど。背の高い海藻を船が撫でていって、それが揺れるのとか、海底ならではって感じでしたよね。あと、ボクが非常に感心したのは、海底でのシーンの皆の髪の毛ですよね、あれ、後からCGでやってるんでしょうけど、あれ素晴らしいなって思いました。

デス で、意外と完全な海中じゃない場面の方が水を使って撮影してるっていうね。
 他の映画のオマージュって話に戻すと、アクアマンとオームの決闘シーンを盛り上げるためにタコが太鼓を叩いているっていう、あの場面は『マッドマックス/怒りのデスロード』感がある。で、実際、『怒りのデスロード』と同じスタントチームが参加していたりね。あと、海中の戦闘シーンは、海中の『スター・ウォーズ』って言っているひともいるけれど、それこそオレはGOTGの宇宙空間でのド派手な戦闘シーンを思いだした。ちょっと色合いがサイケデリックでさ。

オジサン まぁ、ボクたち、ぶっちゃけ『スター・ウォーズ』に詳しくないんですよね。ボクも『スター・ウォーズ』見てないし、デスのひともあんまり観てないので…

デス ただ、スター・ウォーズのヴィジュアルイメージみたいなものは知っているから、言われればきっとそうなんだろうとは思うけれど、ついつい自分の知っている作品に寄せちゃうってのはあるけどね。

オジサン そうですね。まあ、色んな映画からの影響があるし、色んな映画に対するリスペクトも感じられるから、どんな映画が好きなひとが観ても「あ、なんか自分の好きな映画もこのひと(監督)きっと好き」って思えてわくわくする。

デス そうそう、だから非常に射程が広い作品だよね。豪華で色んな要素があるんだけれど、単なる器用貧乏とか総花的な内容になってなくて、それがすごく必然性があるような、各要素の配置が有機的に結合しているっていうかね。カッコつけた言い方すると。

オジサン わかります。わかります。

デス その、まぁ、クロスオーバー感がまた素晴らしいと思います。

オジサン ちょっとね、最初、アクアマン2時間半あるし、長いなって思ったんですけど、でも、必要な長さだよねっていうか、あと30分くらいやっててくれてもいいなって思える映画だったですね。

デス むしろね、劇中で起きてる出来事を考えると、あれだけの内容をあれだけの尺に収めたっていうのは、褒められていいくらいだよ。

=Vol.6に続く=

オマケ:今の気分で選ぶ「お気に入りアクションシーン」


ぬいぐるみと人間の対談だのミサンドリーラジオだの、妙なものをupしておりますが、よろしければサポートをお願いします。飛び跳ねて喜びます。