プラント

こんにちは。楽しめて読みやすい小説を投稿して行きたいと思います。気軽に読んでください。

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最近の記事

私とカップメン 出会い編

  新入部員  皐月の風が青葉の木々を揺らす。西陽の中でも、その風と相まって清々しさを感じた。長箱のように切り取られた緑の中からツツジの花が顔を出している。講義棟の窓ガラスは、流れる雲を映す。キャンパスを歩く学生たちに混ざり、クラブハウスへと向っていた。 「なんで昨日来なかったんだよ」  隣を歩く志保がそう言って、体をパシパシと叩いてくる。 「いやぁ、ゴールデンウィークのあいだ、毎日バイトだったから疲れちゃってさぁ」 「ずっと、気まずかったんだからね」  言い訳

    • 私とカップメン 親子編

       テレビから、いつもの日本酒のCMが流れた。社会人になった息子が、父親と小料理屋で酒を酌み交わすというもの。  自分にも父親がいれば、もうそんなことがとっくに出来る年になっている。  物心ついたときから家に父親はいなかった。  母ひとり、子ひとりの家庭だった。  父は、ある人に騙されて借金があり、それを母に隠して交際していた。  自分が三才のとき、父の借金が一千万円近くあることを知り、母は離婚に踏み切った。  あれは、十歳になったばかりのある休日のことだった、その

      • 消えた口内炎 後編

        1、孤独な遺伝子  高校時代、教室で話すぐらいの子はいたけれど、放課後に遊んでくれる子いなかった。  もちろん、彼氏なんているはずもない。  大学に入ってからも変わらず、気づけば1年生が終わっていた。  私は、孤独な遺伝子を受け継いでいるのだろう。祖母も母も孤独な青春を過ごしたそうだ。  2年生になってゼミを受講したら、そこで里乃と知り合った。  鏡を見つめて、メイクをチェックする。里乃の手前、手抜きメイクで行かなければ。バッチリして、レストランに行けば誤解され

        • 消えた口内炎 前編

          1、占い  目を閉じて水晶玉に手をかざす母の姿を何度見たことだろう。 「あのね。アナタってとても華がある人だと思うの。人望もあるみたいね」  母の向かいに座る里乃は、不思議そうに見つめている。 「青山という男もアナタと同じ、華があるの。似た者同士ね」  里乃の目が輝く。 「同じ者同士は惹かれあうこともあれば。すれ違うこともあるの」 「すれ違うって、青山さんに振られるとか」 「そうね」 「何かいい方法ないですか」  母にすがるような里乃の言い方だった。

        私とカップメン 出会い編

          雪害(せつがい)後編

          これまでのあらすじ  栞は、小瓶に入った粉骨を持参し、湯村温泉郷を訪れていた。知人の中込と遭遇した後、降りしきる雪を見つめながら亡き母と弟を思い出していた。  散骨をするべく、甲府にやってきた栞だったが、目を覚ますと盆地はまれに見ぬ大雪になっていた。 1、インフラの麻痺  雪の少ない甲府盆地を白く染め上げた大雪は人の営みを妨害していた。  どこのバス会社もタクシー会社も営業していない。  もうすでに二十件ほど電話をかけている。  散骨には、バスで行くはずだったが、大

          雪害(せつがい)後編

          雪害(せつがい)中編

          前回まであらすじ  栞は、湯村温泉郷を一人で訪れた。駅に着いた頃から雪は降り始め、やがて甲府盆地を白く染め上げていった。偶然にも知人の中込に遭遇し、自身のタレント活動が不調であることを告げる。ホテルの部屋に入ると死に別れた母のことを思い出していく。 1、弟の宏  私が母の粉骨を持って、山梨に来た理由を述べるには、弟の宏の死を語らずにいられない。  母と一緒に都内のマンションで暮らし始めて二年が過ぎたころのこと。  この時期になると私の芸能界の仕事は減り、テレビドラマ

          雪害(せつがい)中編

          雪害(せつがい)前編

          1、家族  二〇一四年二月。  都内の自宅から数本の電車とバスを乗り継いで甲府までやって来た。  甲府駅に着いた頃には街は雪化粧をはじめ、路面も白く染まり始めていた。  雪は降り続けて、この湯村温泉郷に着いた頃には、あたり一面白一色。  ホテルにチェックインした後、シングルルームに入って、カバンから粉骨の入った小瓶を取り出し窓際に置くと、私は呟いた。 「お母さん、山梨に着いたよ」  ベッドの上に寝そべってみる。エアコンの音が静かに鳴っている。まだコートを着た状

          雪害(せつがい)前編

          脱恋社会 前編

          あらすじ  恋をしなくなった未来の若者たち。結婚相手はAIによって選出される。フリーライターをしている主人公の紫乃は、AIが選んだ清雲という女性と出会い交際を重ね、やがて結婚を決意する。性交の経験のない紫乃は、子作りのトレーニングとして風俗店に通いはじめる。そこでトレーナーの雪恵と出会い、彼女の魅力に吸い込まれていく。やがて、雪恵のことばかり考えるようになった紫乃は、清雲がそばにいても心ここにあらずの状態となり、トレーニングのない日も会いたいと思うようになる。そして、紫乃は雪

          脱恋社会 前編

          脱恋社会 後編

          1: 魔法  青空に羊雲が浮かび、陽射しは穏やかに僕たちを包む。吹く風は清々しく、どこからともなく金木犀の香りを運んでくる。テラス席の向いに座る清雲は、いつものように爽やかな笑顔を振りまきながら、どことなく甘い雰囲気を漂わせていた。 「今から予約して、二月の挙式に間に合う式場って限られてくるでしょ。その中から、紫乃リンは、この海が見る教会を選んでくれたけど、ごめんなさい、私はこの丘の上にある教会にしたいの。コストもこっちの方が安くあがるし、それだけじゃなくて食事とか含

          脱恋社会 後編