【小説】曇天らいふ2

《ホームレス生活1日目》たばこ

今日は雲一つない快晴の空だ。バカでかい公園のベンチで俺は空を眺めていた。暑くもなく寒くもない。風も気持ちがいい。まさに春の陽気だ。そばでは猫が日向ぼっこをしている。手を差し出すと逃げていった。(ごめん)

俺は財布の中を確認した。880円。この土地にきて一週間で持ち金を使い果たした。
もう少し節約するべきだったと反省した。
さぁこれからどうするか。俺は自分の中で悩んだふりをした。俺は立ち上がりフラフラと商店街へと向かった。途中のコンビニでタバコと水を買った。

商店街はの入り口には『魚住商店街』という看板が掲げてあった。(よし。今日からここは魚ロードと名付けよう)
自分の語彙力のなさに心の中で小さく笑った。

中を歩くと飲食店やら雑貨店、洋服屋に和菓子店。時計店に漬物屋。ドラックストアにパチンコ店。とにかく、ありとあらゆる店が乱立していた。その中で特に目を引いたのはラーメン屋だ。そばを歩くと豚骨のなんともいえないな香りが食欲をそそった。
しばらく魚ロードを散策した。
ふと時計を見るともう夕方5時だ。腹が鳴った。昨日の夜から何も食べていない。

俺は公園のベンチへと戻り疲れた体を癒した。喉が渇いた。しかし昼間、買ったペットボトルの水は空になっていた。仕方なく俺は公衆トイレに足を運び、そこの洗面台でペットボトルを満杯にした。手を洗うと冷たく感じるが飲んでみるとかなりぬるい。
この時、俺はトイレの水だから汚いとかそんな思考なかった。渇いた喉を潤すだけで十分だった。
トイレを出ると茂みに小さな紙袋が落ちていた。拾って中身を確認したが何もない。そのまま放置しようかと考えたが、水を持ち歩くのに便利だと思った。紙袋にペットボトル入れベンチへと帰った。

しばらく、ぼぉ~としていると日は傾き、あたりは薄暗くなっていた。俺は紙袋を手にもう一度、魚ロードへと向かった。手にした紙袋はペットボトルだけなので、かなりバランスが悪く持ちづらい。俺は捨ててあった雑誌を拾い紙袋の中へ押し込んだ。
魚ロードは先ほどよりもかなり賑わっていた。居酒屋のの前では円陣を組むように10人ほどの人だかりができていた。2次会へ行く相談だろう。その中の一人がタバコをその場に捨てた。なんてマナーの悪い奴だ。

集団が去ったあと俺はその場所に、捨てられた可哀そうなタバコに目を向けた。さほど消費していないタバコは、無造作に踏みつけられ消火されていた。俺はそれを拾いコンビニの前にある灰皿の前に移動した。

さっき拾ったタバコを灰皿に捨てよう。そう思った。しかし頭で考えている事とは逆に、手がそれを放してくれない。その手はゆっくりと口元へと移動した。腹は減っていたが、それよりもタバコが吸いたかった。午前中に買ったタバコはもうない。汚いと感じる抵抗感よりもニコチンへの欲望が勝った瞬間だった。そしてタバコに火をつけ大きく息を吸った。うまい。完全にニコチン依存症だ。これからタバコを入手する手段はこれしかない。そう分かっていたが為の行動だった。早く慣れなければ。そういった思いもあった。

俺は歩きながらタバコの空き箱を拾い、吸い殻を集めて回った。ある程度、戦利品を集め公園のベンチへと戻った。さてもう一度タバコをゆっくり吸おう。拾ったタバコを1本1本丁寧に並べる。根本まで吸ってあるやつは削除していった。残ったのは3割程度だった。(次に吸い殻ひろいをする時は確認しながらやろう)
そして俺は、中でも一番短いやつを手にした。長いやつはあとのお楽しみだ。食事でも美味しいものを先に食べるか、最後に残すか。人それぞれだが、俺は後者だった。
そして火をつけて息を吸う。しかしスカスカでなかなか吸えない。確認すると紙で巻いてある部分に、小さな亀裂入っていた。そこに空気が入いり込んでるようだった。(そうか。こういうタバコは吸えないのか)ひとつ学習ができた。

時計を見るともう22時を過ぎていた。ただ歩いただけで、何もしていないのに時間はたつものだ。腹の鳴りも収まらない。眠気はないが今日はもう寝よう。俺はベンチに横になった。数分後(寒い!)この季節。俺は薄手のパーカーを羽織っているだけだった。昼間はいい。ただ夜はまったくだめだ。風のないところへ移動しよう。しかし、いろいろ探したが屋外でそんな所はない。マシだったのは魚ロードの中だった。俺はシャッターの閉まった眼鏡店の前に座り小さくなった。両手で体をさすったが、何の効力も発揮しない。もちろんこんな状況で眠れるわけもない。その夜、俺は朝まで歩き続けた。
歩きながら思った。この先俺はどうやって生きていくのだろう。いや、生きることを諦めたから、自分自身をこうして追い込んだのではないか。そんな思いが頭の中を駆け巡り交錯した。そして自分でも、なにかしら分からない衝動がこみ上げてきた。頬を伝う涙を朝日が照らしていた。
そしてこれが俺のホームレス生活の始まりだった。

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