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我慢はオシャレ(短編小説)

こんなにも寒いのに外で待ち合わせるのは、駅の喫煙所が外にしかないからだ。
吐くのが息なのか煙なのか見分けがつかない中で、それでも煙草に火をつけるのは、これが喫煙者の性だからだ。

右手で1本吸い終えたら、次は左手で。
交互に手を温めながら、俺は友人を待った。

「悪いなー待たせた」

それは友人の声だ。おせーよ。と悪態を吐きながら、こちらへ向かってくるやつを見て、俺は絶句した。

ここで思い返してほしい。
コーデュロイという生地は秋冬のファッションに欠かせないものなのはお分かりだろう。

そんなコーデュロイのカジュアルジャケットとパンツのキャメル色セットアップ。
おそらく、誰がどう着てもピシッとしまって、かっこよく見えるはずだ。
セットアップなんて大抵そんなところだ。

ところがどうだろう。
友人はそんなキャメル色のコーデュロイセットアップを見に纏っていたが、俺の感想はこうだ。

「お前、今日クソださいな」

友人はそれに怒りもせず、ため息をついた。嘲笑を浮かべていう。

「お前がわかってねーんだよ可哀想に」

ここまでダサいやつからの言葉は、最早こちらも怒る気力を失わせる。
事細かに説明させてもらう。

まず、ジャケット。
ジャケット自体はカッコいいはずだ。何せキャメル色のコーデュロイのルーズジャケットなのだから。
しかし、なぜかやつはそれを抜襟させて着ていた。いや、正確に言えば右肩だけ若干はだけさせていた。

なんだその着方は。

次にパンツ。こちらもルーズなシルエットはいいのだが、裾が八分丈ほどしかない。
絶対に秋物だ。
それをこいつは無理やり腰パンして、ブルレングスに見立てている。なんてこった。

さらにいえば、ガチャベルトを右腰に垂らしている。
少し子どもっぽいが、そこまではいいとして。
どうして、ガチャベル垂らした側に、ウォレットチェーンも垂らしているのだ。
うるさすぎて仕方ない。

最後に中に着ていたシャツ。幾何学模様のアロハシャツに使われるようなテロテロの生地のオープンカラーシャツ。
これは下手すりゃ夏物だ。
そもそもこのクソ寒い時期にカラーをオープンするな。

「正気の沙汰か?」
「どゆこと?」

そういえばもう一点、気になる箇所がある。

「お前、コートは?」
「あー、着てきてない。ダウンしか持ってなくてさ、セットアップにダウンとかおかしいだろ」
「おかしくねーわ。お前のルールがおかしいわ。てかそもそも寒いだろ」
「オシャレは我慢だから」

我慢することがオシャレだと勘違いしているのではないだろうか。
これでは、こいつの横に歩く俺が我慢しなくてはならない。


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