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【Creative Journey】北山孝雄さん(後編)五感から生まれるアイデアが、時代を動かす

戦略クリエイティブファーム「GREAT WORKS TOKYO」の山下紘雅による対談連載企画。さまざまな分野のプロフェッショナルの方との、クリエイティブな思考の「旅」を楽しむようなトークを通して、予測不能かつ正解もない現代=「あいまいな世界」を進むためのヒントを探っていきます。

第1回のゲストは、株式会社北山創造研究所の代表・北山孝雄さん。後編では、北山さんの仕事術と発想術や、天才クリエイターたちとのエピソードなど、よりパーソナルな話題から思考を深めていきました。

対談を終えた山下は、「北山さんは “バランスの人”。クリエイターとしても、ビジネスパーソンとしても、あらゆる能力が欠けることなく秀でているんですよね……」と、大先輩への尊敬の念が増した様子。読者の皆さんにも、2人の対話から刺激をお届けできますようにと願いを込めて、後編のスタートです。

(前編はこちら

プロフィール

北山孝雄(きたやま・たかお)さん
1941年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナーだった20代の頃に、ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏氏が代表を務める株式会社浜野商品研究所の副社長に就任。以来、企業、計画、デザイン活動を軸とする集団創造をデザイン・プロデュースという領域で確立。一貫して、自分たちの生活実感をもって、素人の視点に立ち、そこに「どんな生活を実現したいか」をテーマに活動している。1993年、浜野商品研究所を北山創造研究所に商号変更し、代表に就任。つねに人から商品を考え、人から界隈や建物を考え、人から企業のありかたを考え、そして人からまちづくりを考える姿勢で臨んでいる。

山下紘雅(やました・ひろまさ)
1982年生まれ、東京都出身。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了後、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社に就職。2012年、住所不定無職で1年間の世界一周旅行へ。スタートアップ参画を経て、2015年に「ビジネスの世界に、もっと編集力を」との想いから、株式会社ペントノートを設立。2020年、グレートワークス株式会社取締役社長に就任。ロジックとクリエイティブのジャンプを繰り返す“戦略的着想“を提唱し、クライアントが抱えるさまざまな課題解決をサポートしている。


■データに表れない「生活の実感」を大事に

山下 今日はぜひ、北山さん独自の発想術について聞いてみたいと思っていました。たとえば、かつて浜野安宏さんのもとでプロジェクトマネジメントを担当された東急ハンズは、「手の復権」という圧倒的なコンセプトがあった上で、それをビジネスとして具体化するマネジメントを北山さんが担当されています。その過程では、どのようにアイデアを生み出していったんでしょう。
 
北山 東急ハンズの場合は、当時のビジネスが売り手の立場から考えられてきたところを、消費者の立場から考えたところが新しかったんやないですかね。自分がお客さんだったら、どんな店が欲しいのかと考えて、イメージを膨らませていった。今は生活者目線という言葉が当たり前のように使われているけど、当時はまったくそうではなかったわけです。
 
山下 先ほど「五感の時代」という言葉をおっしゃっていましたけれど、北山さんはかねてから自身の肌感覚を大事にされてきたということでしょうか。
 
北山 そうやね、そこはそう思っていた気がします。今は、マーケットのニーズは全部データから読み取るでしょう。それだと、数字には見えなくても大化けするかもしれない要素が、大事にされなくなってしまうよね。
 
山下 東急ハンズのように一時代を築く事業は、一般化されたデータからは読み取れない不確実性のなかから生まれるケースも多いですよね。そういうプロジェクトは、後になってみれば成功要因を分析できますけれど、立ち上げ段階では当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃないですか。クライアントをはじめとする関係者に、「賭けてみよう」と思わせるために、どんなことを意識していましたか?
 
北山 相手の体質・資質・才能・興味・好奇心。そういうものをしっかり捕まえることかなあ。どうやるかっていったら、そこは勘やね。

山下 なるほど、勘ですか(笑)。ただ、今のご発言もそうなんですが、北山さんの生み出す言葉って、いつもすごくシャープだなと感じていて。プロジェクトの設計資料を見ても、すべての言葉がキャッチコピーかというくらいに端的。相手の心をとらえるのは、その言葉の力も大きいのかなと思うんです。
 
北山 あんまり多くの言葉を知らんからやな(笑)。「こういう時代だから、こういうことが必要で、だからこんなプロジェクトにします」ということを説明しているだけですよ。

山下 その「だけ」が、普通は難しいんですよ。今日のはじめにお話しした「オフィスはハウスである」もそうですけど、物事の本質をつかんで、言葉と直結させているというか……真似したくても、できることではないのが悔しいです。


■これからのプロジェクトビジネスは志が軸になる

山下 これも先ほど少しおっしゃっていたことですが、北山さんはプロジェクトごとにさまざまな分野の人を集め、チームを組成するということを長年やられていますよね。

北山 ちょっと待っててよ。(本棚から一冊の本を取り出して)これは50年くらい前の雑誌なんやけど、僕が集めたプロジェクトチームが載ってます。

山下 倉俣史朗、梅棹忠夫、横尾忠則、三宅一生……すごいメンバーですね。

北山 ね、すごいと思うでしょう。とにかくこういう名前をそろえておくと、クライアントも「こんな面々が言うことなら間違いないだろう」って提案を受け入れてくれる。

山下 なるほど……。

北山 自分を大きく見せることも必要や、ということ。つまりは、こけおどしやな(笑)。まあ、この頃は人とコンタクトをとる手段が限られていたから、メンバーを集めること自体が仕事になったんですね。今はメール一本で誰とでもつながれるでしょう。メンバー集めだけでは仕事にならんですよ。

山下 企業内だけでプロジェクトを動かすのではなくて、案件ごとに外部からもパートナーを集めることが、当たり前になってきましたからね。そう考えると、私たちのように無形資産を扱う仕事は、会社組織という形をとる必要がなくなってくるんじゃないかとも思えるんです。個人と個人が案件に応じてつながり合えばいい。

北山 まったく会社が不要ということはないやろうけどね。ただ、これからの世の中では、その人それぞれに、代わりが利かないプロフェッショナルであることが求められると思いますよ。

山下 特にデザインなど技能系の仕事は、サポートしてくれる技術が発展して、スキル獲得のハードルが下がったことで、携わる人の数が増えていますからね。そのなかから選ばれるようなセンスやスキルがなければいけない。

北山 映画とかでもよくあるよね。「異なる7人のプロフェッショナルが集結して……」みたいな。そうでないとあかん。

山下 そうするとチームをマネジメントする側には、プロジェクトの軸となる、しっかりとしたコンセプトを持つことが必要になると思います。

北山 うん。これからは、プロジェクトの中心となる人の志や人柄に共感して、業界や職種の枠を超えて集まろうと考える人は増えていくやろうしね。


■破天荒な天才たちと過ごした時間

山下 先ほどの雑誌にもビッグネームがたくさん載っていましたけれど、北山さんは世間から天才と呼ばれるような人たちと、数多く仕事をされてきましたよね。

北山 うん。ああいう人らを見てると、つくづく自分は普通の人間と思うよ。

山下 北山さんも、すごく才能にあふれた方だと思うんですが。

北山 そう評価いただくこともあるけど、五感のどれかが優れているわけでもないし、やっぱり普通やなあ。それに、天才って言われる人たちは、日常の行動が奇怪やで。

山下 奇怪って(笑)。

北山 とある高名なグラフィックデザイナーさんなんか、尾道から広島駅に向かう途中に電車の接続が悪かったんで、「あと5分電車が早く着けばなあ」って話してたら、「そうですか、じゃあ車掌さんに頼んできます!」なんて言う人やで。

山下 ピュアな子どもみたいですね。でも、常識を知らないくらいじゃないと、真っすぐに創作と向き合えないのかもしれない。

北山 そうやね。創造を矮小化するような余計なことは考えないで、自分のやりたいことをやるんやなあ。だから倉俣さんのアイデアにも、「さすがにそれは無理でっせ」ということがよくあった。不均一な3センチくらいのタイルを、5メートル×10メートルに敷き詰めるとかね。デザインとしては素晴らしいけれど、人の手ではとてもできないですよ、と。僕が顧問をさせてもらっていた三宅一生さんも、そういうタイプでしたわ。

山下 そういえばこの間、実際の書類を見せていただきましたけど、三宅デザイン事務所の初期のブランドライセンス契約書は、北山さんがつくられたんですよね。

北山 僕が30歳の頃ですな。最初に僕が嘘八百みたいな条件を並べて、弁護士が修正して、それをさらに僕が書き直して……っていうのを半年くらい繰り返してつくった。

山下 ライセンス契約を書面で結ぶという感覚がなかった頃に、30歳の若者がそれをやったんですから驚きます。天才とされる方々は、そういった権利やお金の管理が苦手なイメージがあるんですけど、やっぱりそうでしたか?

北山 ピシッと管理できる人もいたけど、倉俣さんとか三宅さんは、やっぱり無頓着だったね。倉俣さんなんか、いつもお金がなかった。非常識を常識として生きているから。

山下 そういう人たちにとって、北山さんのようなパートナーは大切な存在だと思います。破天荒に生きていても周りに仲間が集まる人と、そうでない人の間には、どんな違いがあるんでしょうか?

北山 人を寄せ付けるのは、やっぱりものづくりへの考え方と愛情がある人。それに天才は、才能があるだけではなくて、すべからく努力してるよ。これはみんなに共通して言えること。

山下 なるほど。とはいえ北山さんとして、破天荒な天才たちを手なずける……というのは言葉が悪いですが、うまく付き合うのは大変ですよね。その点で何かコツはあるんでしょうか?

北山 とにかく、向こう側の立場になること。

山下 クライアントを説得する時と同じですね。北山さんは、生活者とビジネスパーソン、天才クリエイターといった、まったく違う人たちの立場から思考して、それぞれに必要なアウトプットができてしまうのがすごいですよね。バランス感覚が非常に優れているというか。

北山 確かにバランスは意識してますね。さっきも言った通り、僕は普通の人間やから、何かの能力が突出しているわけじゃない。そんな人間が「お金が欲しい」と思っていろいろやった結果が、今なんやろな(笑)。


■もっと厚かましく、もっとアグレッシブに

山下 北山さんは半世紀以上にわたってクリエイティブの第一線でご活躍されていますが、その原動力はどこから生まれるんでしょうか。

北山 楽しく自由に暮らしたいっていうだけですよ。仲間内でゴロゴロしてるようなんが一番ええ。それなのにまあ、世の中は窮屈やな。

山下 でも、北山さんは自由に生きていらっしゃるような見られ方をされるんじゃないですか。

北山 いやいや、いろいろ気にしてるよ。ほら、特にうちの兄は安藤忠雄っていう、スーパー有名人やから。どうしたって兄の名前に泥を塗らないようにと考えてしまう。あれをしてはいけない、これをしてはいけないってなるから、窮屈やで。僕は僕として放っておいてほしいんやけど、世の中はそうしてくれない。

山下 私なんかは想像の及ばない境地です。どれだけ功績を上げて名を成したとしても、自由になれるわけではないんですね。

北山 それでもね、誰でも何かしら、不本意なことと付き合ってるのと違うやろか。全部が思い通りで、全部に納得してるなんて、逆におかしいでしょう。

山下 そんななかで、北山さんはこれから、どのようにお仕事に臨まれようと考えているんでしょうか。まず、後継者育成はお考えにないだろうなと想像するのですが。

北山 うん。後継者をつくるのは頭にないですね。

山下 今日のお話から改めて感じましたが、北山さんの仕事術は鋭い感性あってのもので、しかも領域が多岐にわたる。ロジカルなノウハウとして教えられるものでも、真似できるものでもないんですよね。そして、替えが効かないからこそ、周りもまだまだ北山さんを求める。

北山 年齢も年齢やから、もう本当はそんなに働きたくないんですよ。

山下 でも、気力も体力も、すごく充実されているじゃないですか。今日だって、ゴルフ終わりなのに、こんなに内容が詰まったお話をしていただけましたし。私よりもよっぽどエネルギッシュです。

北山 まあ、山下さんはまだまだ、ひ弱やな。もっと厚かましく、もっとアグレッシブでもええでしょう。僕が40歳の頃なんか、もっとめちゃくちゃやったで。

山下 めちゃくちゃでしたか(笑)。

北山 うん、50歳くらいまでは、めちゃくちゃやったな。

山下 北山さんと同じようにはできませんが、少しでも近づけるように頑張ります。これからも、いろいろなことを学ばせてください。今日は、本当にありがとうございました。

(終)

2023年12月14日、北山創造研究所にて。
編集・執筆:口笛書店
撮影:嶋本麻利沙

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