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石炭町の燃える鳥

ズリ山というものがあります。昔、石炭を取った残りのクズを捨てていたところです。
ある日一人の炭坑夫がズリ山の下の方で寝転んでおりました。

俺たちの掘った石だ、でもこれも大地の恵みにちがいねえ。ただ火にかけるために、銭のためだけに、俺は黒い綺麗なもんを地の底から掘って、こうしてクズを捨てている。
そう思いながら寝転んでおりますと、西の方から妙に白く光る何かが、ヨロヨロと飛んできます。
なんだべ…白鳥の季節でもなし…

光る鳥は男のすぐそばへ、ほとんど雪崩れ込むように落ちました。白く長い首はもはや上がる力もなく、同じように薄く発光する体は、切れかけた白熱灯のようです。
男はそっと歩み寄り、その体に手をかけました。
オイ、オイ、よくわかんねえが白いの、大丈夫か。
誰か人を…と男が立ち上がった刹那、持っていた石クズが鳥の口元へと落ち、あろうことか鳥はそれを飲み込んでしまったのです。
鳥が石を食った!えらいことだ!もうダメかもわからねえ、えらいことをした。鳥よ、それは食っちゃいけねえ、危ねえもんだ、鳥よ、しっかりしろ。
男はポトリポトリと鳥の上へ涙を落としました。

すると、不思議なことに涙に濡れたその頭が火のように赤く猛りはじめました。
男が触れていた首と尾羽は、そこだけ美しい黒色へと変わっていきます。
やがて鳥はすっくと立ち上がりました。

ありがとう、親切な坑夫。
美味しい石とあなたの優しい涙で、私の体はすっかり、芯から燃えるようです。

石炭の町。
今、その名前は歴史に埋もれようとしています。
しかし丹頂鶴という美しい鳥は、今も増え続けているようです。

おしまい。

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