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創作

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創作した物語はこちらからお読みいただけます。 完全な創作ではなく、私が経験した出来事に脚色を加えたものもあります。 もしかしたら私の思い出が少し乗っかっているかもしれません。
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今日も店舗は異常なし!?【第二話】売り場研修

今日も店舗は異常なし!?【第二話】売り場研修

<第一話はこちらから>

雲一つない青空だ。
南野瑞月は大きな欠伸をしながら、カーテンを開けた。
お父さんお母さんは何をしているだろう。いつもみたいにニュースを観ながら痴話げんかでもしているのかな――
関東に引っ越してきてまだ2週間しか経っていない瑞月の部屋は、整理されていない段ボールで溢れかえっていた。



初期配属の面談で強く関東配属を希望したが、本当に叶うとは。
ずっと東京に憧れがあった

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今日も店舗は異常なし!?【第一話】物語の始まり

今日も店舗は異常なし!?【第一話】物語の始まり

「吉城寺?どこじゃそりゃ。」

緊張の面持ちで開いた封筒に入っていた、配属辞令。
でかでかと書かれた「吉城寺店」という文字を見て、一真は首を傾げた。
住みたいまちランキングか何かで聞いたことがあるようなないような。

「よかったじゃない、都内の店舗で。実家にも帰ってきやすいんじゃない?」
母の晴美がドライヤーで濡れた髪を乾かしながら大きな声で言う。
「都内配属ってことは、将来有望なんじゃないか?」

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6年3組 問題児選抜クラス 密告係K君

6年3組 問題児選抜クラス 密告係K君

「いつも先生に捕まって怒られるのは僕だけさ」
この言葉を聞いたとき、とっさにある歌詞が思いつく方はいらっしゃるだろうか。いるとしたら、とてつもない記憶力の持ち主か、大の合唱ファンであろう。

答えは、合唱曲「see you」の中の一節である。

私が通っていた小学校ではこの歌を授業中によく合唱していた。
合唱に力を入れていた学校(どんな学校?)ということもあって、大人になった今でも歌詞を口ずさむこ

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雨に濡れたコンクリートの匂い

雨に濡れたコンクリートの匂い

頬を雨がかすめた。
程なくして雨に濡れたコンクリートの匂いが立ち上って鼻腔を刺激する。

匂いは記憶のトリガーだという。コンクリートの匂いは、雨に濡れて輝いたその色は、私の中に長く隠れていた記憶を呼び覚ました。そう、雨の中でコンクリートの上を一生懸命走っていたあの日々である。

僕は中学校に入り陸上部に入った。部活動体験で色々な部活に行ったが、結局は部活の内容よりも先輩や同級生の人柄で陸上を選んだ

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俺は異国の地で、弱い自分と決別した。

俺は異国の地で、弱い自分と決別した。

未熟な自分が嫌いだった。弱い自分と決別したかった。自分で自分が弱いことは痛いほど分かっていた。
この劣等感は私の人生に常につきまとって邪魔をするものだった。
好きな子に告白するときも、友達と喧嘩するときも、この劣等感は常に心の中で愉快にタップダンスをし、「なりたい自分」になることを許さなかった。

いつか未熟な自分と決別できる時がくるのだろうか、いや決別しなければならないのだとは分かっていた。だが

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「まよすな」は僕の世界全てだった。

「まよすな」は僕の世界全てだった。

もし私がどこにでも住めるなら、幼稚園の時に住んでいた実家に戻りたい。できるなら当時住んでいた人たちも一緒に呼び戻して。

当時の実家は、埼玉県のとある住宅地の中にあった。
緑豊かな住宅地で、大きな公園が2つあり、2つの公園を囲うように一軒家が軒を連ねている。円を描くように住宅が並んでおり、他の住宅地とは道路でつながっているものの、川などで隔てられているためやや孤立した住宅地という印象をもたれていた

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ヒーロー裏表

ヒーロー裏表

俺はヒーローもののアニメが嫌いだ。勧善懲悪を高々と謳いながら、いわゆる「ヒーロー」側の人間を当たり前のように「善」とみなし、サクセスストーリーを描くからだ。

そもそも神羅万象には表と裏の2つの側面があるのだ。ヒーローにはヒーローの善があり、悪役には悪役の善があるのだ。どちらが正しいとか断ずるのは言語道断で、そこには公平な議論があって然るべきなのだ。

小さい頃からもれなくヒーローものの番組を見て

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