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【読書記録】本を読む中で出会った、印象に残る言葉・文章表現

※文章は都度追加していきます。

◾️木曜日にはココアを (宝島社文庫)
青山美智子

① 「だって、喫茶店でコーヒー淹れるマスターが夢だったんじゃないんですか?」 釈然とせずに訊ねると、マスターはなぜかうっとりするようなまなざしで答えた。「夢はかなったところから現実だから。俺、夢が好きなの。だからもういいんだ」

② ひとつひとつがライブなんだ。試行錯誤で、体当たりで、合っているかどうかわからない正解を探し続ける。毎日毎日、音を立てるように大きくなっていく子どもたち。ひとりひとりと向き合いながら、きっと私も、伸びていく。

③ 「……私、なるべくまっすぐな道を選ぼうとしてきたし、人にもそれを望んでたけど……どこか間違ってるのかしら」 「うーん……。道がまっすぐかどうかというよりも、曲がりくねった道をがんばってまっすぐ歩こうとしてるならいいんじゃないかなって、僕は思います」  

④ 「相手の身になるって、難しいわね……」 「そうですね。でも、もし間違ってても、相手を想ってるってことだけは伝わるかもしれません。それに、その人がどう考えてるのかなって想像するだけで楽しかったりもするし」

⑤ 正しさが疎まれる、そんな大人たちの群れにいるのがしんどかったから。

◾️死にがいを求めて生きているの (中公文庫)
朝井リョウ

①日勤、深夜勤、準夜勤、休日。毎日誰かが搬送されてきて、誰かが死んで、絶対に大丈夫と言い張った患者のことさえも忘れて。憧れていた人はこの仕事で心を病み、生死に対して冷たくいられる才能がある自分は時間に運ばれるがまま職務をこなして。あらゆることがただ繰り返されている日々の中で、何が生きがいになり得るのか。毎日ただ臥している友人を見つめ続けるという日々、確実に自分よりも変化がない毎日を送っている堀北は、何を生きがいにしているのか。

② 絶対こうなる、と、未来に起こるはずの変化を力強く唱えられるような、そんな変化を引き寄せられる自分の力を信じていられるような、そんな日々をもう一度、自分で手に入れたかった。絶対、と唱えた願いが叶わなければ立ち直れなくなるほどショックを受けたかったし、祈りが実れば我を忘れて喜びたかった。四日間の塊に自動的に運ばれているだけではないと信じたかった。

③ いま礼香がしているだろうことを具体的に想像すると、その緊張が引き金となり、亜矢奈の心臓は射的のコルクみたいにバンとどこかへ飛び出していきそうになった。

④ 南水のつま先は、夏と秋の間で足踏みをするように動いている。

⑤ ここ北海道から、日本――とまでは言わなくても、半径五メートルを変えようと奮闘する若者たちに光を当てるスペシャル

◾️ スター
朝井 リョウ

① 同時に、レンズを通して捉えた景色がどうしたって現実より見劣りするのは、その景色を見た気持ちを一緒に収めておけないからかもしれないと思った。

② 悩んでいるポーズは保ったまま、思考の綱から手を離す音がはっきりと聞こえていた。

③ それは無理なんじゃないか、と思うような方向に身体が曲げられるが、施術後、最終的には心地良さを手に入れているあの感覚だ。泉は、初めは「そんなわけない」と思うような言葉をぶつけてくるが、こちらの意識の隙間にごりごりとその言葉を 嵌め込み続けることによって、いつの間にか絶対に合わないはずのパズルのピースをこちらの脳内に押し込みおおせるようなところがある。

④ AをAと思わないようにしましょうという時流があっても、AをAだと思う人の心がそのままならば、本質的にそこにある等号の形は変わらない。

⑤ 消費者が対価として支払ってるのって多分、お金じゃなくて時間ですよ」 紘は、目の前の光景が少し色を変えたような気がした。それまでは乗客がみんなスマホの画面を眺めているように見えていたが、突然、移動時間という対価をスマホに向かって注いでいるように見えた。それは、世界が手を組んで、泉の発言を肯定しているような感覚だった。

⑥ 「周りが取り囲むと、そこに何にもなくったって、取り囲んだ人垣が輪郭になる」

◾️傲慢と善良 (朝日文庫)
辻村 深月

① 婚活で知り合う相手、というのは不思議なものだ。相手を結婚の候補として見ていることを互いに意識しながら、まだ恋人ではないのに表向きは交際しているのと変わらないデートを繰り返す。

② 「婚活でうまくいかない時、自分を傷つけない理由を用意しておくのは大事なことなんですよ。自分が個性的で、中味がありすぎるから引かれてしまったとか、資産家であるがゆえに、家の苦労が多そうだと敬遠されたとか、あるいは自分が女性なのに高学歴だから男性の側が気後れしてしまった、とか」  小野里がまた子どものような目になって説明する。 「あとは、本当は容姿に自信があるのに、顔が整っているからこそ、男性の側が自分に他の男性がいたかもしれないと気にしているのではないか、とかね。資産家であることも、個性的であることも、美人であることも、本当は悪いことではないはずなのに、婚活がうまくいかない理由を、そういう、本来は自分の長所であるはずの部分を相手が理解しないせいだと考えると、自分が傷つかなくてすみますよね」  

③ 「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」

◾️月の立つ林で
青山美智子

① だからどうか、どうか見守ってください。この弱くて愚かで、ただ懸命な僕たちを。

② でも実際には、この地球はどこもかしこも汚れて破壊されている。意味のない戦いは止まず、わけのわからない病がはびこって、いつも誰かが傷ついて泣いている。

③ 「あたりまえのように与えられ続けている優しさや愛情は、よっぽど気をつけていないと無味無臭だと思うようになってしまうものなのよ。透明になってしまうものなのよ。それは本当の孤独よりもずっと寂しいことかもしれない」

④ どんな状況も、私たちには、良い悪いとすぐにジャッジすることなんかできないのかもしれない。物事はいつも、ただ起きる。そして私たちは、起きていることが自分にとってみんなにとって「いいこと」になっていくようにと、願い、信じ、行動するだけだ。

◾️ センセイの鞄
川上 弘美

① しかし微妙に怒りは蓄積され、伝わっていった波が離れた場所で大きな波を起こすことがあるのと同様、日常の思いがけないところに怒りが波及するやもしれませんから。結婚生活とは、そのようなものです、ええ。  

② センセイとは、さほど頻繁に会わない。恋人でもないのだから、それが道理だ。会わないときも、センセイは遠くならない。センセイはいつだってセンセイだ。この夜のどこかに、必ずいる。

③ 年齢と、それにあいふさわしい言動。小島孝の時間は均等に流れ、小島孝のからだも心も均等に成長した。 いっぽうのわたしは、たぶん、いまだにきちんとした「大人」になっていない。小学校のころ、わたしはずいぶんと大人だった。しかし中学、高校、と時間が進むにつれて、はんたいに大人でなくなっていった。さらに時間がたつと、すっかり子供じみた人間になってしまった。時間と仲よくできない質なのかもしれない。

④ 大事な恋愛ならば、植木と同様、追肥やら雪吊りやらをして、手をつくすことが肝腎。そうでない恋愛ならば、適当に手を抜いて立ち枯れさせることが安心。  

⑤ ポップコーンの匂いのする休日の映画も、夏の夕方のあかるくよどんだデパートの空気も、大型書店のレジのあたりのひんやりとしたざわめきも、わたしには重たすぎた。呼吸が、うまくできないような感じだった。

⑥ しかしほんとうに、今まで一人で「楽しく」など生きてきたのだろうか。 楽しい。苦しい。きもちいい。甘い。苦い。しょっぱい。くすぐったい。かゆい。寒い。暑い。なまぬるい。 いったいわたしは、どんなふうに生きてきたんだったっけ。

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