見出し画像

ボール保持時のSBの影響力

現代サッカーにおいてボール保持時のSBの振る舞いは多様化している。WG的にワイドの高い位置に張り出すSBもいれば、内側に入ってボランチような振る舞いをする『偽SB』などSBに求められる役割は重要性を増している。

第11節の川崎vs浦和の試合は両者共にここまで思うように勝点を伸ばすことができていない"苦しみ"の部分がよく現れた試合だったように感じられた。大きなポイントとして浦和のSBの振る舞いはもっと改善できる部分であり、この試合の中でも良い場面と改善が必要な場面があったので今回はSBの振る舞いについて深掘りしていく。

プレスのスイッチの入れ方

川崎の可変プレス

浦和の4-3-3のビルドアップに対して川崎は4-3-3からプレスのスイッチによって陣形を可変させて対応した。川崎にとって1番の問題は「誰がいつアンカーのグスタフソンを対応するか」であった。

川崎は下の図のように浦和のCBの横パスをスイッチにWGが外切りでCBへとプレスをかける。それと同時にアンカーの橘田が浦和のアンカーであるグスタフソンまで飛び出して圧力を強めた。

3:44の川崎のハイプレス

基本的にプレスのスイッチが入るまではCFゴミスがグスタフソンをマーク。ゴミスが浦和CBまでプレスに出ていくと橘田が縦スライドしてグスタフソンまでマークすることが多かったのだが、時にはLIH遠野がCBまでプレスに出ていく場面が前半は数回あった。ただ、ゴミスと橘田が縦スライドするプレスはグスタフソンのマークを受け渡すタイミングが難しく、グスタフソンがフリーになっていたり、橘田がグスタフソンに飛び出したことで伊藤がハーフレーンで縦パスをフリーで受けるような場面が散見した。

グスタフソンのマークの受け渡しに修正が必要だった川崎は後半から4-4-2(4-4-1-1)の非保持の陣形に修正。LIHの遠野を前に出してゴミスと2トップにして、交代でグスタフソンを監視。遠野とゴミスが浦和のCBまでプレスに行った際には橘田がグスタフソンまで飛び出して対応した。

57:00は川崎の4-4-2のプレスが上手くハマった場面で、2トップ+橘田で中央から外へと浦和を押し出させて、最終的にLSB渡邊からのパスを橘田がインターセプトした。

57分の川崎のプレス

橘田がグスタフソンまで飛び出した時に、RIH伊藤がフリーになっていた前半だったが、後半はボールサイドとは反対のサイドにいるWGが絞ってきて対応することで上手く修正することができていた。

グスタフソンは浦和の攻撃の指揮者のような存在でここを潰すことができれば、テンポの良いボール回しというのが無くなる。実際にこの修正は非常に効果的で、前半よりもグスタフソンへボールが入る回数を制限することができた。川崎はハーフタイムでの修正が実る形となった。

WGの背後

浦和は川崎のプレスに対して川崎のWGの背後のスペースを狙いにボールを動かしていた。例えば、1:11のようにRSB石原へボールが渡るとRIH伊藤がサイドに流れてきてLWGマルシーニョの背後でボールを引き出そうとした。

1:11の浦和のビルドアップ

しかし、浦和の問題点の1つとしてWGが相手SBを大外でピン留め、SBが幅を取っている状態でIHまで大外に流れてくると、1つのレーン内に3人が並んでしまうためパスの角度が無くなりハマってしまうという状況になってしまう。あとで浦和のSBの立ち位置については詳しく触れるが、浦和は川崎のWGの背後を1つ攻略のポイントとしていたように思う。

逆に2:00の浦和の攻撃は川崎のWGの背後のスペースから上手く攻めた場面だった。下の図のように川崎のブロックの外側でボールを動かして、マルシーニョの背後のスペースから起点を作った。

2分の浦和のビルドアップ

RWGの大久保に入るとRIH伊藤が内側からサポートに入り、グスタフソンへと展開することで狭い局面を脱出。グスタフソンは逆サイドのLSB渡邊まで展開して浦和は一気にスピードアップ。中島がインナーラップでPA内のポケットへと侵入して、最後は渡邊のシュートまで繋げた攻撃だった。

サイドチェンジからポケット侵入してフィニッシュ

一方の川崎はボールを奪ってからの攻撃の方が有効的で、浦和ほどビルドアップからチャンスを作る回数は多くはなかったが、浦和と同様にWG-SB間のスペースを使った前進が何回かあった。

29:38ではLWG中島が外切りでRCB大南までプレス。RSB瀬川へのパスコースが消された川崎はRIH脇坂が降りてきてプレスの逃げ道を作り瀬川へと展開。RWG家長がLSB渡邊をピン留めしているのでその手前にはスペースが生まれ、そのスペースに脇坂が走り込んで瀬川からのボールを受けてボールを前進させた。

29分の川崎のビルドアップ

上記のようなビルドアップは試合を通じてさほどは多くなく、川崎は前線の家長とゴミスがロングボールのターゲットとなり、無理に後ろから繋いでビルドアップしなくてもラフにボールを送り込めば起点が作ることができていた。従って、浦和よりも長いボールを使った攻撃で敵陣へ侵入し、敵陣に押し込んでからは短いパスでPA内に侵入していく攻撃がこの試合は多くなった。

SBのボール保持時の影響力

浦和は川崎よりもボールを保持する時間が長かったが、主に浦和のビルドアップで前進できた場面は中盤のローテーションやパスの出し入れによって中央を攻略した場面が多かった。

しかし、中央が塞がれてサイドに誘導された時には川崎にハメられてしまい、WGへとなかなか良い形でボールが入らなかった。その一つの理由としてビルドアップ時の『SBの影響力』が考えられる。

ケーススタディ①

例えば、5:30の場面では浦和は石原からホイブラーテンへのサイドチェンジによって川崎のプレスを回避。しかし、渡邊は低い位置に留まったままだったためにノッキング(詰まって前進できない)を起こしてしまう。

5:30の浦和のノッキング

ホイブラーテンの前には大きなスペースがあり渡邊の前にもスペースがあったため、渡邊がもう少し高い位置を取ることができれば、ホイブラーテンから渡邊へのパスで2列目を超えて行くことができた。

もし仮に、渡邊がもう少し高い位置でホイブラーテンからパスを受けることができると、下の図のようにおそらく瀬川が渡邊を対応するために釣り出させる。すると瀬川の背後にはスペースが生まれるため、中島やサンタナが背後のスペースへと飛び出すことができたはずだ。

もし渡邊が高い位置を取っていたら、、①

更には、もし中島やサンタナの背後への動きに川崎が対応した場合には、川崎の最終ラインが後方へと下がるため最終ラインとMFの間に大きなスペースが生まれる。下の図のように、そのスペースで安居などがボールを受けて逆サイドへと展開することで、大久保に良い状態でボールを渡すことができて得意のドリブル勝負というような局面に移行できたかもしれない。

もし渡邊が高い位置を取っていたら、、②

ケーススタディ②

更には、51:20の場面に注目する。浦和は最終ラインで左サイドから右サイドへとボールをシフト。ホイブラーテンからショルツへとボールが入った時に、RSB石原はサイドに張り出しており、RWG大久保もサイドへと張り出していた。石原も大久保と同じようにサイドに張り出すことで、マルシーニョはプレスバックで大久保にアプローチできる立ち位置を取ることができた。その結果、大久保にボールが入った時にはファンウェルメスケルケン際+マルシーニョの2枚で囲まれてしまった。

51:20の石原の立ち位置

もし仮に、石原が内側に入って立ち位置を取ることができていたら、マルシーニョは石原のマークで内側へと絞らざる終えなくなるため、大久保にボールが入ると1vs1の状況を作ることができる。

もし石原が内側に絞っていたら、、

あるいは、下の図のように伊藤が背後に抜ける動きを見せていたので、ハーフスペースにインナーラップすることで、大久保がダイレクト並行パスをすることで局面を打開することができていたかもしれない。

もし石原がもう少し早いタイミングでインナーラップをしていたら、、

いずれにしても、浦和のSBはサイドの低い位置で張り出すことが多く、CBからSBへのパスが『ハメパス』相手がボールの奪いどころにするようなパスを繰り出してしまっている。おそらく、ヘグモ監督の指示であのSBの立ち位置を取っているのだろうが、現状自らで"ハメ所"を作ってしまっている状況で、浦和のボール保持からの前進は中盤3枚経由に依存している。

サイドのトライアングル

もしSBがWGとIHと連動して影響力のある立ち位置を取ることができるともっとチャンスを作れるはずだ。

この試合でもいくつか良い場面もあったことは言及しておく必要がある。31:22では石原がサイド高い位置に張り出して、大久保が内側の最前線、伊藤がハーフスペースへと立ち位置を取っていた。そこからローテーションする形で石原がショルツのパスを受けるために立ち位置を下げて、スペース①(黄色のエリア)を作り出す。そのスペース①に大久保が流れることでスペース②(赤いエリア)を作り出し、そのスペースに伊藤が飛び出して行った。

31:22の右サイドのトライアングルローテーション

最終的にショルツからパスを受けた石原は並行サポートに来たグスタフソンへとパスを出し、グスタフソンはダイレクトで背後の伊藤へとスルーパス、伊藤の決定機を作った。

このようにお互いが役割が被らないように立ち位置を取り、そこから立ち位置をローテーションさせることができるとスペースが生まれる。そしてこの攻撃のように3人目の動きを作ることができると、相手にとってより危険なボール保持に繋がるはずだ。

アタッキングサード内でのディテール

ゴールを決めるということは簡単ではない。特にビルドアップに比べるとディフェンダーの人数が多くなるだけでなく、GKがゴールを守ることができるので、アタッキングサードやPA内ではいわゆる『質』と呼ばれる高い技術や高度な連携が求められる。

例えば、47:30の浦和の攻撃ではビルドアップで中央から川崎のプレスを破り、左サイドの中島へと展開。ここまでの流れは複数人の選手が同じ絵を描くことができていて心地の良いプレーだった。

47:30の浦和のビルドアップ

しかし、アタッキングサードに侵入した中島からのクロスはファンウェルメスケルケン際によってクリアされる。もしこの場面でRWGの大久保がファーポスト目掛けて走り込んでいれば3vs2の状況をファーポスト周辺で作れていた。そうすれば中島のクロスに合わせることができる確率は上がっていたかもしれない。

47分の浦和の攻撃

この場面だけでなく、石原がサイドからクロスを上げた時に誰もスプリントをかけてゴール前に入ってくる選手がいない場面が2回ほどあった。WGによるペナルティエリアの角からインスイングでゴール前に入れるクロスには反応する選手の数が増えてきたことはポジティブな要素だが、SBのクロスに対する反応は改善が必要だろう。

更に47分の浦和の陣形を見てみると、ボールを失った際にネガティブトランジションへと移行することが難しい陣形だということがよくわかる。中央には浦和の選手が少なく、川崎がクリアしたボールを拾う陣形が作れていない。唯一中央にいたグスタフソンもプレスバックが緩く、その結果このクロスのクリアボールをゴミスが収めたところから川崎のカウンターアタックが始まり、佐々木のゴールへと繋がった。

佐々木のドリブルに対する石原と大久保の対応も良くなかったが、攻撃のオーガナイズ(いつ、どこで、誰が、どのように)の部分で浦和はディテールに欠けていたように感じられた。

逆に川崎は敵陣に押し込んだ際にしっかりとPA内に人数を集めたタイミングでクロスを上げたり、インナーラップでPA内のポケットを取る選手に適度なパスのスピードとタイミングで合わせることができたりと細部で技術の高さが見えた。

30:32では下の図のようにクリアボールが家長に流れたところから、家長が際どいクロスをあげてチャンスを作った。川崎はPA内に4人が走り込んでおり、特にゴール前からファーポストにかけて3vs2の数的優位を作れていることがわかる。

30分の川崎の攻撃

浦和はクロス対応が今シーズンは杜撰で特にファーサイドで数的不利を作られてピンチを招く場面が多い。川崎もスカウティングの段階で浦和のクロス対応が良くないことは調べ上げていただろう。

54:08ではミドルゾーンから流れるようなパスワークで家長まで展開して、家長が利き足ではない右足でクロスを上げた。そのクロスにファーサイドでマルシーニョがフリーで合わせたがシュートは枠の外へと外れた。

54:08の川崎のボール保持

この場面でも橘田がボールを捌いた後にPA内へと走り込んだことで、3人(ゴメス+橘田+マルシーニョ)vs2人(ショルツ+石原)で数的優位をゴール前で作った。当然、家長の利き足じゃない右足でのダイレクトクロスの質も見事なのだが、ゴール前で数的優位を作った川崎のプロセスも見事だった。

逆に浦和は中盤のプレスバックが中途半端で、最終ラインと中盤との間にギャップを作ってしまうことが気になった。この場面でも橘田の飛び出しに対して誰も付いて行く選手がいなかった。また、川崎の1点目の脇坂のシュートも安居と伊藤があともう一歩プレスバックできていればというような状況だった。「これくらいでいいろだろう」というような、少しの隙がチームの首を絞めている。

チャンスの数で言えばお互い同じくらいの数であった。しかし、そのチャンスの中で技術や状況判断でより高いレベルを見せたのが川崎であり、そのディテールが勝敗を分けた。またゲームの流れの中で要所を制したのが川崎であり、浦和はゲームの流れを手放すような要所でのミスが目立った。

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。