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地中海に浮かぶリゾート地マルタのサッカー事情

リゾート地として有名なマルタ。イメージするのは地中海のスカイブルーのビーチや美味しいイタリアンなどではないだろうか。そんな美しい国として知られるマルタ共和国だが、マルタ国内ではサッカーの発展が著しく進んでいる。

昨年、私が指導しているクラブがマルタの2部リーグに所属しているFgura United FCと提携してパートナーシップを結んだ。今回はそのコネクションもあって、Fgura United FCが主催するインターナショナルトレーニングキャンプへ招待していただいた。今回はそんなトレーニングキャンプの様子やマルタへ実際に足を運び垣間見えたマルタのサッカー事情についてまとめていく。

インターナショナルトレーニングキャンプ

このインターナショナルトレーニングキャンプはマルタのクラブのアカデミー選手たちへ3日間指導して、アカデミーの選手たちが貴重な経験を積むと共に、コーチエデュケーションとして指導のノウハウを現地の指導者が学ぶことが目的だ。

私のクラブからはアカデミーマネージャー、U-19の監督、そして私の3人が参加。そして私達の他に、アーセナルアカデミーからGKコーチ、ポルトガル1部リーグに所属するSCブラガのアカデミーからテクニカルコーディネーター、そしてUEFA Proライセンスを持ちポルトガルのベンフィカアカデミーやデンマークのFCコペンハーゲンなどプロアカデミーで指導を務めたコーチの3人を含めた計6人でトレーニングを行った。恐縮ながら錚々たるメンバーの1人として今回のトレーニングキャンプに参加させていただき、身が引き締まる思いだった。

ゲストコーチ6人

トレーニングキャンプは1日に1時間半の練習を8:30〜10:00と17:00〜18:30の二部練で計6回の練習が3日間で行われた。U-8〜U-13までの6学年を1人1回ずつ指導。私は1日目がU-9とU-10。2日目がU-11とU-12。そして最終日がU-13とU-8を指導した。

1日ごとに練習のテーマが決められており、

1日目: コントロールオリエンタード&フィニッシュ
2日目: ポゼッション
3日目: 1vs1、ドリブル

上記の練習テーマに沿って練習をオーガナイズした。

Fgura Unitedの練習着も頂きました。
U-12の選手たちと集合写真
Fgura United FCのコーチ陣と一緒に集合写真
Fgura United FCとの全体写真

3日間のトレーニングキャンプの中で短い時間ではあったが、一生懸命ボールを追いかける選手たちと素晴らしい時間を過ごすことができた。正直なことを言うと、選手たちのレベルはさほど高くはない。いつも私が自チームで行っているような練習をすると技術的、戦術的、メンタル的な部分で歪みが生まれる。しかし、そんなチャレンジングな練習メニューでも選手たちは必死に食らいついてきてくれ、最後までサッカーに向き合ってくれた。私自身もいつもと違う環境、文化、知らない選手たちに指導したことはかけがえのない経験となった。常に適応力や柔軟性が試されていたし、「与えられた環境の中でどれだけ自分の力を発揮できるか」というチャレンジになった。きっと選手たちと同様に私自身もこのトレーニングキャンプを通じて成長させてもらった。

マルタのサッカー事情

このFgura United FCはクラブ全体で改革を進めている最中で街クラブからプロクラブへと変貌を遂げようと取り組んでいるクラブ。今年にはクラブの練習場を新築して11人制のフルコートとフットサルコート、クラブハウスにカフェまで新設した。

クラブ施設の門構え
11人制のピッチ(正規サイズよりは小さめ)
フットサルコート
クラブハウス
トップチームとユースチームが使うドレッシングルーム
クラブカフェ

マルタ国内では徐々にサッカー熱が高まっているらしく、プレミアリーグとセリエAは非常に人気らしい。週末はクラブのカフェにサッカー中継を見に人が集まってくる。クラブのカフェは朝から深夜まで空いており、サッカー中継を見ながらランチやディナー、お酒などを楽しむこともできる。しかも、カフェで出てくる料理も本格的で実際に厨房で調理しているらしい。

鶏肉のグリルステーキ
ブラジオリ(マルタ料理: ソーセージのトマト煮)
ラビオリ(マルタ料理:パスタみたいなモチモチした生地にチーズが包まれている)
ガーリックブレッド
チスク(マルタビール)

Fgura United FCのクラブ代表の方とお話できる機会があり、マルタのサッカー事情について色々聞くことができた。

まずクラブの予算についてはスポンサーや会費、カフェの売り上げやピッチのレンタル代などが主な収入源となっているようで、マルタリーグの中でめちゃくちゃお金を持っているというクラブではないらしい。特にマルタプレミアリーグ(マルタリーグ1部)に所属するクラブと比べるとクラブ予算は開きがあると言っていた。

Fguraのトップチームに関しては2014/15シーズンから現在までマルタディビジョン1(マルタリーグ2部)に所属しており、プレミアリーグ昇格を目指している段階。

トップチームの練習風景

Fgura Unitedのトップチームの中には若干名プロ契約の選手がいるらしく、1番給料の高い選手で大体€20,000(315万円)+貸し住居という待遇になっているらしい。ただ、ほとんどの選手はパートタイム契約でお小遣い程度の給料となっているため、他で仕事をしている選手がほとんどである。これがマルタプレミアリーグになると€60,000くらいは貰えるらしく、しっかりとしたプロ契約になってくるようだ。

育成に関しては現在他の欧州諸国に比べると遅れを取っているのが現状だとクラブ代表は危惧していた。やはりトップチームしか持たないクラブやトップチームにお金を回すためアカデミーの方ではあまり予算を取れないクラブも多いらしい。その点で言うとFguraは徐々にアカデミーも含めたクラブの改革を行っており、持続性+将来性のあるクラブのように感じられた。

今回のトレーニングキャンプは選手がゲストコーチから直接指導してもらえるだけでなく、クラブの指導者が私たちゲストコーチの指導を間近で見て学ぶことも狙いとしていた。実際にゲストコーチのサポート役として必ずクラブのコーチがアシスタントとしてサポートしてくれていた。練習後の振り返りの場などで現地の指導者と「どのような練習をしているか」、「どんなチーム状況なのか」など話す機会があり、指導という面ではまだまだ伸び代がありそうな内容だった。

コーチエデュケーションの観点で言うと、なかなかマルタでは指導者が学ぶ場がないらしく、指導の知識やスキルを学びたくても難しいようだ。マルタでは独自の指導者ライセンスがあるらしいが、UEFAライセンスを取得することはできないため、UEFAのライセンスを取ろうと思うとマルタ国外に出る必要がある。クラブの代表もクラブの指導者を育成するためにウェールズやイングランドへ海外研修することを検討していると言っていた。また、そもそも指導者として生計を立てていくことが難しいことから指導者への待遇ももう少し向上する必要があると言っていた。現在、Fguraではクラブの半分の指導者がパパさんコーチとなっており、今後アカデミーが発展していく上ではしっかりと全員にお金を払って指導者を雇う必要があるとクラブの代表は語っていた。

普段の練習を見てないので何とも言えないが、サポートをしてくれていたクラブの指導者の中には、確かにディテール(How)を教えられずに「こうしろ、ああしろ」になってしまっている指導者の存在も伺えた。プロアカデミーに進化するには指導者の育成は不可欠になってくるだろう。また、その他にもフィジカルコーチ、メディカル、分析官といったパフォーマンスを向上させるために重要な役職も拡充していく必要がありそうだ。

しかし、Fguraは能動的にアカデミーやクラブ全体を改革しようとしているので好印象を受けた。特にクラブの事情をオープンにして第三者からのアドバイスを貰ったり、サッカー先進国からロールモデルを取り入れようとする姿勢は日本のクラブにも必要なのではないかと思う。日本では指導者レベルでの活動はあっても、クラブ間の交流やアカデミー全体でのアイデアの共有はJのクラブレベルでようやく始めたクラブがある程度だ。しかも、短期間や一時的なものではなく長期的にノウハウやフィロソフィーなどを共有できる関係にすることは容易ではない。そういった意味ではFguraが海外とのネットワークを築いて長期的なパートナーシップを結んだことは有意義ことなのではないかと思う。来月にはFguraのスタッフが今度はウェールズに来て私のクラブの取り組みを視察するようなので、またすぐに会えることは楽しみだ。

自前のグラウンドは浪漫に溢れている

今回訪れたFgura Unitedは先程紹介したように自前のサッカー場とフットサルコートを保有している。特に日本でサッカーに携わる方はご存知かもしれないが、サッカー場を作るのには物凄く費用がかかる。土地代、整地代、工賃、照明代などなど。サッカー場を作るのは非常に経済的にも大変なプロセスなのだが、サッカー場には浪漫が溢れていると感じられた。

練習が終わったら選手たちが空いているフットサルコートですぐに試合を開始。親御さん同士が会話が終わって帰ろうとしても「あと1プレー!」と帰ろうとしない。何回かこのラリーがあった後に親御さんが痺れを切らせて「もう帰るから1人で帰ってきてね」と言ったところでようやく子どもが渋々ピッチを後にする。そして翌朝、私たちが練習の準備をするために少し早めにグラウンドに着くと、既にフットサルコートではミニゲームが行われている。そんな光景を見て「彼らは心からサッカーを楽しんでいるな」と感心したと同時に「きっとこういう選手たちが上手くなっていくのだろうな」と感じた。指導者から教わることも大事なのだが、こういう風に純粋に友達やチームメイトと楽しく、熱くサッカーをする時間は彼らを育てる。自前のグラウンドが選手を育てると考えると浪漫に溢れている。

またこの施設は町のコミュニティとしても機能している。レンタルコートやカフェがあるので一般のお客さんも多く訪れてボールを蹴って汗を流す。

土曜日の夜。私達が指導後にプレミアリーグを見ながらお酒を飲んでいた。

試合が終わり帰宅しようかと思い、ふとフットサルコートに目を向けると、23時を過ぎているにも関わらずボールを蹴っている人達の姿がそこにはあった。

夜のフットサルコート

普通の一般人は23時になったら寝ている人もいるだろう。しかし、23時過ぎてもボールを蹴っているサッカーバカはどの国にも存在していて、草サッカーだがピッチには活気があり、サッカーボール1つでみんなが夢中になる環境がそこにはあった。老若男女問わずみんながサッカーを通じて集まれる場所には浪漫が溢れている。

もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。