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昔語り : イギリス英語が間違った英語だった時代

今から約30年前ほどのこと。

筆者は大学で英語を専門に学ぶ学科に入ったのだが、そこで一か月以内に同級生からかなり厳しい言葉を浴びせられた。

ある同級生が授業の後つかつかと寄ってきて、大声で「あなたの英語は間違っているのよ!」と言った。

大学に入る前、筆者は親の仕事の関係で中学の途中からイギリスで暮らしていた。かの地ではなかなかアメリカ英語に触れることも無く、そのまま地元の発音やスペリングを学んでいた。

ご存じの方の方が多いかもしれないが、イギリス語圏とアメリカ語圏では発音やイントネーション、スペリングに違いがある。

あまりの剣幕に驚いたものの、なぜあそこまで怒られるのが分からなかった筆者は、仲が良かった友人に聞いてみた。

私に怒った同級生は、どうやら私の発音がアメリカ英語的には間違っているということを言いたかったようだ。

仲の良かった友人からは「受験英語では、発音記号を使って言葉の発音を学ぶんだよ」そう教えられた筆者は、書店で受験生が使う参考書を開いてみた。そこで筆者は真っ青になった。

発音記号を学ぶ章では、見事なくらい見た事の無い発音のオンパレードだった。
スペリングも語尾の部分が違う単語が沢山あり、これでは間違った英語と言われても仕方が無いと思った。

不幸中の幸いは、当時授業を担当してくれていた教授たちがどんなアクセントや発音の英語でも気にしないで授業中の発言を認めてくれていたため、幸い単位を落とすことは無かった。

これが入試英語並みの発音やアクセントに厳しい教授だとそうはいかないのだが、大喧嘩した挙句にこちらの使う英語を最終的には認めてもらった覚えがある。

ただ,こうした経験を通して、筆者は人に英語を教えることが怖くなった。特に高校生や中学生に教えることが本当に怖かった。ボランティアやアルバイトで英語を教えるという機会があると教えられていたものの、これから受験を控えた学生たちを混乱させ、入試で悪い点数が出る様な英語を教えるわけにはいかない。

英語を母語として使っている国は世界に数か国あるが、お国訛りはそれぞれある。

ただし、当時の日本の高校教育ではアメリカの発音やスペリングを正とし、それ以外の発音やスペリングは間違ったものとされていたようだ。

恐らくだが、15年程前でもイギリス英語は教育の現場では間違った英語とされていたのではないだろうか。当時、日本にJETプログラムでイギリスから日本に来て働いた経験のある人達と仕事をする機会があったのだが、皆、一様に「学校ではアメリカ英語を使うように」と指示が出ていたそうだ。

しかし、最近になってこの英語の地域別の違いへの反感は、筆者の通っていた大学の学科の為せる業だと知った。

筆者の友人で英文学を大学で学んだ人がいるのだが、文学系の学科に集まってくるのはイギリス英語に抵抗の無い学生だという。それもそうだろう。アメリカが国としてできた歴史はイギリスに比べると浅く、英文科の生徒がまず叩き込まれるのはイギリスの古典からだ。そこで「イギリス英語は間違っている」などと言っていたら授業になりはしないだろう。

英文学科に籍を置いていた友人からは「なぜ英語科に行ったのか。一体何を学ぶのか」と聞かれたが、当時学科にあったイギリスと旧植民地の関係性を学ぶために大学に入った自分としては、他の学科に目が行っていなかった。また文学を学んで将来どんな仕事に付けるのかイメージがわかず、文学部に進学するという事は考えにも及んでいなかった。

今現在の小学校や中学校、高校の授業がどうなっているのかは分からないが、今もアメリカ式の英語の方が主流なのかな、と考える時がある。

日本とアメリカという二つの国の関係性から考えると、アメリカ式の英語教育を受けた人の方が日米関係に貢献できる確率は高い。そして日米関係が今以上に薄くなってしまうのも困りものだろう。

ただし、教科書で取り上げなくてもいいから、英語には大まかに英語圏とアメリカ語圏というざっくり二種類があること、そしてどちらも間違ってはいないという事を学生さん達には知らせてあげて欲しいと思う。

日本とは関係性の薄いイギリスだが、その言葉の影響を受けているオーストラリアやニュージーランドなどとは、近年ワーキングホリデーなどで日本との関係性も強まってきているようだ。筆者の周囲でオーストラリアでワーキングホリデーを体験した人たちはかなりの数がいる。

この日豪関係を崩すような真似をせず、英語には豊かなバリエーションがある、と認知していただければ、学業を卒業して世の中に出た人たちが混乱することも無くなるのではないかな・・・と密かに期待をしている。

私立の学校ではイギリス英語で授業を行っても差し支えがない学校もあると聞く。古い感覚だと受験に差し障りがないのだろうかと心配になる。

しかし、インターナショナルスクールに挑戦する人達の中にはIGCSやAレベルなどイギリス式の教育に挑戦する学生さん達もいるようなので、今後はアメリカ英語とイギリス英語の違いももう少し柔らかく受けとめられていくのではなかろうか。

教育の場での英語のバラエティーが増える事によって、北米地域以外にも、イギリス及びオーストラリアやニュージーランド、シンガポールやマレーシアなどのアジア・太平洋地域の英語圏、さらにインドや中東地域やアフリカでの進学や留学、ビジネスでの交流が増えるのではないかと期待して止まない。

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