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エツの渦中で

「簡単に超えられたら困るよ」

あぁ、この子は揺るがない信念を持って、作品に向き合っているんだ。

じゃあ私は?

服飾の専門へ通うようになって、半年ちょっと。

クラスメイトの得意・不得意なんかが、少しずつ
明瞭になってきたように思う。

ものすごく手先が器用で、丁寧かつ完璧な子。
計画性・効率性に長けていて、大変合理的な子。
周りをよく見て、陰でそっと支えてくれる子。

中でも、中学からずっと美術系の勉強をしていたあの子は、どんな先生も唸るようなデザイン画をスラスラと書いてしまう。

ぱぱっと、ささっと、さりげなく卒なくこなしているように、見えてしまう。

「いいなぁ。そんなふうに書けたらいいよね」
誰かが、聞こえないくらいの声で呟いた。

「はは。簡単に超えられたら困るよ」
ニッコリ笑って答える彼女。

なんて格好良いのだろう。

自分の圧倒的な武器を、これでもかという程に
深く認識して、きちんと使いこなしている。
信念と誇りを高く持って、作品と向き合う。

じゃあ、私の武器って何だろう。

手先が特別に器用な訳でもない。
1ミリの線や角度にこだわる余裕すらない。
べらぼうにデザイン画が美しい訳でもない。

「頭の中で思っていることを、しっかり言葉と形に出来る所じゃない?」
いつも隣にいる子がコッソリ教えてくれた。

そうだ。

やっぱり私は言葉が好きで、作ることが好きで。

こうやって頭の中で考えていることを、言葉や、
音楽や、服なんかにスッキリ落とし込めた時。

そして、大好きなみんなに共感される瞬間が、
何より嬉しくて、絶対負けたくない部分なんだ。

私の越。私の武器。

もっと勉強して、もっと経験して。
この【負けられない武器】を自分だけのものに
するんだ。絶対に。

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