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【詩】たぶんジブラルタルまで

たぶんジブラルタルまで

 たぶんジブラルタルまで


俺は共産主義者だが
このトラックを盗んだ
その理由がけっさくだ
つまり、オンボロだったんだ
わかるかい 小僧
廃棄するんだとさ
まだ六十キロは出せるのに
書類に印鑑が押されたんだ だから
俺はこの相棒と一緒に党を辞めたのさ
ことわっておくが
俺は今でも共産主義者だぜ
運転手はそんなことを陽気に言った

夕立があがると彼は窓を開けて
タバコを吸いながら
どこへ行くのかと聞いた
僕はどこへでもと答えた
そのトラックは 西の方に向かっていたから
たぶんジブラルタルまで行くだろうと思う

彼はおそらく翻訳の教理くらいは暗唱できるはずだ
このトラックは共産主義そのものだとも言った
地平の果てまで道がのびているようだった
ラジオからは
ブランデンブルク協奏曲が流れ
彼はグールドのように鼻歌で合わせていた

夜になると雨になり
オンボロトラックは魚臭い町に入った
彼は港で荷を下ろし、そして積み込むのだった
ヘッドライトのジャンギャバン
あれはいいねぇ
あの 哀愁がさあ 共産主義にあれば
いうことあないんだがねえ
別れしなに彼はそう言って
手を振った

次の日の朝
僕は港まで行ったが
案の定 港などどこにもなかった
目にしたものは いつもの通り
マヌカンの胴部のような
消波ブロックが見える限りつづく無人の海岸である
もちろん トラックはジブラルタルに向かっているはずだ

さて
次に僕が乗るのはバスだ
たぶん駆け落ちした無政府主義者アナーキストのカップルが乗っているだろう
うんざりだが、夏という季節だから
まだ救われる話だ

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩のようなもの #映画 #フランス映画
 #ジブラルタル海峡 #思想 #ジャン・ギャバン


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