ゲイリーゲイリー

ゲイリーゲイリー

記事一覧

英雄譚へのアンチテーゼ

現代性を帯びた古典的SF作品宗教が狂信へと変わり、政治が新たな軋轢を生み出す。 人類史で繰り返されてきたそれらを圧倒的なスケールで描き、「神話」の構築を試みる一方…

真実は我々が作り上げたものに過ぎない

本作はミステリーとしての外皮を纏っているかもしれないが、その実はアンチミステリーと言っても過言ではない。 ミステリーとは謎を解明し真実を明らかにするものだが、本…

たとえ哀れであったとしても

本作は「バービー」同様、支配下に置かれていた被造物(実験体・玩具)が社会やジェンダー構造という檻の中で、何人たりとも私を所有・支配できないという事を高らかに宣言…

15
英雄譚へのアンチテーゼ

英雄譚へのアンチテーゼ

現代性を帯びた古典的SF作品宗教が狂信へと変わり、政治が新たな軋轢を生み出す。
人類史で繰り返されてきたそれらを圧倒的なスケールで描き、「神話」の構築を試みる一方で「神話」そのものにも批評的な本作は、神秘的で普遍的で現代的だ。
原作に忠実でありつつも主人公ポールを英雄として描くのではなく、母ジェシカのプロパガンダに苦悩し葛藤する青年として、諦念と悟りに満ちた瞳へと移り変わってしまう悲劇の主人公とし

もっとみる
真実は我々が作り上げたものに過ぎない

真実は我々が作り上げたものに過ぎない

本作はミステリーとしての外皮を纏っているかもしれないが、その実はアンチミステリーと言っても過言ではない。
ミステリーとは謎を解明し真実を明らかにするものだが、本作では真実という幻影が眼前で幾度となく姿形を変え、我々を嘲笑う。
そう、本作は真実を解剖するのではなく、断片的な情報を基に人々が何を真実と定義していくか、その過程こそを緻密に解剖していく。
明瞭で確固たる真実など空想に過ぎず、つぎはぎだらけ

もっとみる
たとえ哀れであったとしても

たとえ哀れであったとしても

本作は「バービー」同様、支配下に置かれていた被造物(実験体・玩具)が社会やジェンダー構造という檻の中で、何人たりとも私を所有・支配できないという事を高らかに宣言する。
女性を所有物として扱う男性中心社会の価値観に対し、ベラを通じて破壊と解放を行うのだ(何かの支配下、何かに縛られているものを描いてきたヨルゴス・ランティモスが破壊と解放を描くという点も特筆に値する)。
私という存在を自身で定義し、私と

もっとみる