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三匹の猿    花子出版オリジナル小話

こんにちは。

今日は、ちょっとした小話を・・・。



 昔々、とある神社に、一匹の猿が迷い込みました。猿の名前はミザルです。ミザルは地面の砂を手でなでながら、ゆっくりと歩いていました。
 すると、猿がもう一匹やってきて、鳥居に登りました。猿の名前はキザルです。キザルはミザルの歩く姿を見ると、声を上げて笑いました。自分の歩く姿とは、違っていたからです。
 静かな神社ですので、キザルの笑い声は辺りに広がりました。笑い声を聞いたミザルは、鳥居へ向かって大きな声を上げました。

「笑うな」

 ミザルの声も辺りに広がりました。しかし、キザルは笑うのをやめません。

「笑うな」

 ミザルはまた言いました。キザルはミザルと遊びたくなり、鳥居を降りて、近寄りました。キザルの足音を聞き、ミザルはいかくする声を上げました。

「近寄るな。かみつくぞ」

 ミザルの大きな声は、神社を超えて山々まで響きました。それでも、キザルは足を止めません。ニコニコと笑顔を作りながら近づき、ミザルに触れました。じゃれ合いたかったのです。
 しかし、次の瞬間、ミザルはキザルの腕にかみつきました。

「ぎゃー」

 キザルは痛みを感じ、大声を上げました。

「だから、近寄るなと言っただろ」

 ミザルは言いました。
 すると、騒ぎを見ていた、もう一匹の猿がやってきました。この猿の名前はイザルです。イザルは腕をおさえているキザルに近寄りました。キザルはかまれた腕を見せました。腕には歯型がつき、赤くなっていました。イザルは腕をなでてあげました。

「優しくしてくれて、ありがとう。僕はキザルだよ。あの猿にかまれたんだ。僕は遊びたかっただけなのにな」

 涙目のキザルは言いました。すると、ミザルが言いました。

「俺の名前はミザルだ。キザル君の言っていることは、違うぞ。俺は『近寄るな。かみつくぞ』と言ったんだ。でも、キザル君が勝手に近寄ってきたんだ。俺は目が見えないんだ。だから、大きな声を出して、いかくすることしか出来ない。かみついて、すまなかった。許してくれ」

 ミザルは頭を下げました。すると、イザルは指を使い、砂の上に文字を書きました。

「僕の名前はイザルだよ。僕は話すことが出来ないから、文字を書くからね。かみついたミザル君は、目が見えないんだ。だからね、キザル君のことを、敵だと勘違いしたんだよ。謝っているから許してあげて」

 イザルはきれいな文字を書きました。それを見たキザルは、言いました。

「そうだったんだ。僕の方こそごめんね。僕はね、耳が聞こえないんだ。だから、ミザル君の声が聞こえなかったんだよ。ミザル君が不思議な格好で歩いていたから、笑ってしまったんだ。目が見えないから、ゆっくりと歩いていたんだね。笑ってしまって、本当にごめんね」

 キザルは頭を下げました。

「キザル君は耳が聞こえないのか。だから、俺の大きな声も聞こえなかったんだ。噛みついてしまって、ごめんな」

 ミザルはかみついた腕をなでてあげました。

「僕ら三匹の猿は、それぞれに出来ないことがあるから、協力して生きていこうよ。その方が、もっと楽しいよ」

 イザルは地面に書きました。それを見た、キザルは嬉しくなりました。

「ねえ、ミザル君。イザル君がね、『僕ら三匹の猿は、それぞれに出来ないことがあるから、協力して生きていこう。その方が楽しいよ』と書いてくれたよ。僕も同じ気持ちだよ」

 キザルは言いました。

「俺も同じ気持ちだ。仲良くやろう」

 ミザルは言いました。
 

 それから、三匹の猿は生活が楽しくなりました。
 目が見えないミザルは、指先が器用で、きれいな器や竹とんぼをみんなのために作りました。
 耳が聞こえないキザルは、運動が得意で、おいしい果物をみんなのために探してきました。
 言葉を話せないイザルは、おもしろい物語を作るのが上手く、たくさんの紙芝居を作り、みんなに読み聞かせをしました。

 三匹の猿はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 

 おわり



お読みいただきありがとうございます。

先日、日光東照宮に行きました。神厩舎に掘られている『見ざる聞かざる言わざる』にて有名な、三猿を見ました。そこで、思いついた小話です。


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日光東照宮の感想は、又の機会に。






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