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ボジョレー・ヌーヴォーの祝福

 秋も深まり、冬の足音が間近に聞こえ始めた頃、フランスからボジョレー・ヌーヴォーがやってくる。

 ボジョレー・ヌーヴォーは、ブルゴーニュ地方のボジョレー地区でその年に収穫されたブドウで造った新酒のワインである。その解禁日はフランスの法律できっちり定められているそうだ。法律を持ち出すところに、ワイン王国フランスのプライドがうかがえる。

 ボジョレー・ヌーヴォーで気になるのは、何と言っても、毎年付けられるキャッチコピーだ。その味わい深さは、ワインの味を凌ぐものがある。
 言葉のみでその味を表現している年もあれば、

「ここ10年で一番の出来」
「100年に1度の出来、近年にない良い出来」


 そう表現する年もある。
 100年に1度の出来かぁ、すごいなぁ。と思ったその翌々年には

「ここ数年で最高」

 と言ってのける。
 ボジョレー・ヌーヴォーの世界では、自由に時間を操れるらしい。まさに時をかけるボジョレー・ヌーヴォーである。

 私はワインに詳しくはないが、飲むのは大好きだ。
 日本酒、焼酎、ビール、ウイスキー。どれも好きで、一升瓶でどんと来い、と胸を張れるが、ワインだとテンションがより上がる。

 10月に人間ドックに行く夫に付き合い、半月ほど禁酒をしたが、なんだか体調が思わしくなかった。夫に隠れて、ビールや焼酎を少しばかり飲んでみたが、イマイチである。
 人間ドックが終わり、待望のワインを飲んだ翌日、ようやく体調が回復した。爽やかな朝を迎えたとき、やはり私にはワインが必要だと痛感したものだ。

 そんな吞んだくれである私だが、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁を待ちわびるようなワイン好きではない。
 正直、同じ価格を出せば、国産で美味しいものがいくらでも飲める。日本の呑んべえとしては、山梨、長野、北海道、山形の新酒を無視して、ボジョレー・ヌーヴォーに手を出すわけにはいかない。やはり、心情としては、国産ワインを応援したくなってしまう。

 とはいうものの、私は個人的にボジョレー・ヌーヴォーには感謝しているのだ。何故ならば、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日が、第三週の木曜日だからである。
 ちなみに、私の誕生日は、11月17日。11月の第三週にあたる。つまり、私の誕生日の前後に、必ずボジョレー・ヌーヴォーが解禁されるわけなのだ。

 毎年、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁は必ずニュースになる。試飲のボジョレー・ヌーヴォー片手に、
「カンパーイ!」
 盛大に解禁を祝っている様子はまるで、私の誕生日を祝ってくれているかのようだ。

 ああ、今年も多くの人がワインを開けて、私の誕生日を祝っているなぁ。

 そう思いながらニュース映像を見ていると、何だか気分がいい。自分が人気者にでもなったような気がしてくる。そう思い込んで楽しめるのが、私のにとってのボジョレー・ヌーヴォーなのである。

 今年の解禁日は何と、本日、11月17日だ。

 今年は円安の影響で仕入れ自体が減っているらしい。2004年以降、ボジョレー・ヌーヴォーの販売は右肩下がりだそうだ。もしこのまま売れなくなったら、解禁日がニュースにならなくなってしまうのだろうか。だとすると残念でならない。

 できれば毎年、ちょっぴりでもいいので、あの「カンパーイ!」の映像をニュースで流してはもらえないだろうか。あれがないと、どうも誕生日を迎えた気がしないのだ。
 各メディア、放送局の皆さん、どうぞよろしくお願いします。





 ボージョレ―、ボジョレー、ヌーボー、ヌーヴォー
 様々な表記がありますが、当記事ではエノテカさんの表記にならいました。お読みいただきありがとうございました!


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