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たくさん食べても、元気になれなくても

人間を30年以上やっているのに、うまくできないことがたくさんある。
そんなふうに言語化してみたら、自分の正確な気持ちと異なっていることに気づいた。
実際は、人と比べて「うまくできていること」なんか本当はなくて、当社比で「ちょっとよくなったこと」を掻き集めながら暮らしている。たぶん、それくらいな感じ。

食べることや、食欲は代表的なひとつのような気がする。
いまでも、規則正しく食事をすることは苦手(思い返してみれば、高校生の頃からひとりごはんが定番)、無尽蔵に食べ続けていた(ラーメンのあとに牛丼を食べていた)大学時代も卒業して、貧乏で削るのは食費しかなくて、セブンイレブンをお母さんと慕い、いちばんカロリーの高いおにぎりを食べて、なんとか身体を動かそうとしていた二十代中頃からも、なんとか脱出している。

「おなかが空いたから食べる」という原始人みたいな感覚が、いまでも抜けない。
だから、おなかが空かなければ食べない。
おなかが空いたら、ようやく冷蔵庫を開ける。
何もなければ、転がっているお菓子を食べる。わざわざ買いに行ったりすることは、ほとんどない。
という習性に気づいたので、最近は冷蔵庫を満たすようにしている。少し、おとなになれた。

満腹、というのも難しい感覚だ。と思っている。
正確に言えば、「腹八分目」ってやつ。適切なラインで「おなかいっぱいになった」と思うことが難しい。
ついつい「満腹」まで食べてしまう。
満腹になるまで、少しずつ何かをつまんでしまう…

近頃はそれに対して、「自制」と「開放」を繰り返している。
からっぽになったお皿をしばらく見つめて、「もともとはあんなにあったものを食べたのだ」と思うと、満足する気もする。いやほんとうに、これちょっと効果ある気がする。まぬけな感じがするけれど。
あと、食後5分は我慢する。とか
そうすると、「あ、おなかすいてたの気の所為だった」って思える。こともある。

開き直ることもある。
そういうときは大きな声で、「たくさん食べちゃお」と言う。

おなかが空くときは、元気が無いときだって気づいている。
たくさん執筆しているときや、きちんと散歩に行けてるときって、そんなにおなかは減らない。
なんだか動けない。なんだかやる気が出ない。眠い。
そう思っているときは、おなかが空く。

本当は、執筆なり散歩なり、数多抱える「やったほうがいいこと」に向かうと元気になるので、食べている場合ではない。というのが正論なんだけれど。わたしは正論が嫌いだ。正論より、生産性のほうが大事。こういうときは、食べるに限る。
だから、「たくさん食べちゃお」と言う。
続けて、「たくさん食べて、元気になろ」と自分を励ましたりしていた。

そうしてわたしは、食パンをもう1枚食べる。
2枚で終わろうと思っていたのに、3枚目。
ごはんを食べ終わったのに、ジャムを塗ってデザート代わりにもう1枚。
「たくさん食べちゃおう」と言いながら。

そして、「元気になろう」と、願ってはいる。
願ってはいるのだけれど。

空腹を伴う軽度の絶望感から抜け出すには、時間がかかる。
このままうまく執筆や散歩ができることもあるけれど、大方はもう一度眠ったり、だらだらアニメを見てしまう。

「たくさん食べて元気に」なれたらいい。
でも、ならなくてもいい。

いいよ、とりあえずさ
たくさん、食べちゃえ。

いろんなことに飽きて、わたしはもう一度歩き出す。
調子の良いときも悪いときも、わたしはどうしても長続きしない。不思議だ。

「君は、同じ速度じゃないのに、歩くのを辞めないのがすごい」と言われたことがある。
二十代の中頃だったと思うけれど、いまでも変わらない。

「どうせいつか元気になるなら、たくさん食べる必要なんてないんじゃない?」と、誰かは言うかもしれない。
そっちのほうが、正しいかもしれない。
でも、さっきも言わせてもらったけれど、正論なんて好きじゃない。
「たくさん食べて、元気になることを試みてみる」くらいでちょうどいい。結果は結果論で、べつにどっちでもいい。

自分にやさしくすることって、案外難しい。
いつも足りないとか、頑張らなくちゃとか、周りと比べて落ち込んだりしちゃう。
もう友達はずっと遠くに行って、わたしは隣に立つことができない。
でも、そもそもわたしはひとりでも平気だし、今できることはやっている。つもり。だし。
なんて、家にいる時間が長くて、ごちゃごちゃ考えて、焦ったり開き直ったりを繰り返していた。

乱暴な極論かもしれないけど、「よし。よくやった」って自分を撫でることより、「なんで自分はダメなんだ」という思想に辿り着いて落ち込むほうが、よっぽど手軽なんだ。残念ながら。少なくとも、わたしにとっては。

だからさ、いいじゃん。
食パン1枚くらい、食べたって。
べつにさ、たまには2枚だって3枚だって、なくなるまで食べちゃっていい。
おなかいっぱいで苦しくなって、そのうえ元気になれなくたっていい。

食パンの熱がじわりと溶けて、
明日か明後日か、いつかのわたしが元気に歩いていてくれていれば。それでいい。

おなかが空いたら、またたくさん食べよう。






※「たくさん食べちゃお」と言って、わらったひと


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