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選歌

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選歌 令和5年11月号

選歌 令和5年11月号

パンクしたママチャリ重く押して来る己の影も引摺りながら
臼井 良夫

静かなる傍観者の如く立ち尽くし縄文の名を負う私の大樹顔
児玉 南海子

朝より雨のち雨のひと日には老夫と久びさ語りて過ごす
今野 恵美子

青空もひと月見ればこころ萎ゆ水待ち顔の庭見ればなほ
高田 香澄

ふかふかの蒸しパンのような赤ちゃんの足に触れたしこの手は不浄
高田 好

コツコツと亡父の杖の音胸を打つ逝きたる日より七度目

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選歌 令和5年10月号

選歌 令和5年10月号

妹に誘はれて来し旅なれど始めて心開く気のする
渡辺 茂子

柿の木は身の丈ほどを育てんと地にほろほろと幼実落とす
青山 良子

この道は飛鳥へ続く一本道道租神となり吾のいる道
児玉 南海子

一生を吹かれるように生きてきて風そよぐ階にたどり着きたる
清水 素子

去年、今年、子がひまはりを数多植う退職したるよろこび故か
友成 節子

水分をとれとれと茶を注がれて老のひと日はそこにとどまる
広瀬 美

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選歌 令和5年9月号

選歌 令和5年9月号

奴隷にはなりたくないと思ひつつ長く追ひ来ぬこの韻律を
臼井 良夫

孤独感ふかめて過ぎし四年間こんな時代に生きてしまった
児玉 南海子

校正に使へと君の買ひて来し鉛筆をもて挽歌をつづる
高田 香澄

流し目でキリンは首をしゅっとして見物人を見物してる
髙間 照子

土産箱の陶人形を開け見れば手の跡、ぬくみ、ほの明かる頬
橋本 俊明

アナベルとふ白きあぢさゐ咲かしめて語らずもよし一つの矜恃
渡辺

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選歌  令和5年8月号

選歌 令和5年8月号

海底に揺らぐ光の重さから今日のあなたの機嫌を測る
森崎 理加

十一時二十分頃窓越しに寄港の飛機の通過待ちゐる
毛呂 幸

闇に光り闇に消えたる蛍火よかなしみは不意に胸をつきくる
渡辺 茂子

花よはな花は心のビタミンぞ研ぎ汁のませ朽ち花を摘む
青山 良子

てのひらに怪我して気づく亡き夫は二十年間片手洗顔
高田 香澄

わびしさを秘めて強がり言ってます お互い解る優しさごっこ
高田 好

月に近

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選歌  令和5年7月号

選歌 令和5年7月号

生きてあれば負うかなしみや花あふるるこの街並は輝きたれど
渡辺 茂子

要人の服にはポケット多すぎて私欲の財を詰め込みおらむ
青山 良子

便利なる「ルンバ」なれども吸ひ取りしゴミの始末は私がします
岩本 ちずる

顔知らぬ父のことなど思ひつつ今年の花の咲く下に立つ
臼井 良夫

君の瞳に涙が浮かぶものだから、ぼくは無敵の少年になる
鎌田 国寿

連れ立つて通院した日がなつかしいさよならあなたのお

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選歌  令和5年6月号

選歌 令和5年6月号

ささやかな違反ひとつで返します心で誓いハンドル握る
永田 賢之助

暗闇の祠の奥でほほえんで語り合いたし病めるバッカス
宮本 照男

吾よりも勉強が好きだつた弟よ微分積分教はりしかな
渡辺 茂子

ふるさとのあおき山河よ老いぬれば帰る日叶わず夢に顕わる
青山 良子

新宿に反戦デモのありし頃寺山修司は健在だつた
臼井 良夫

淋しさは次の淋しさ呼ぶように通院帰りと友が立ち寄る
児玉 南

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選歌  令和5年5月号

選歌 令和5年5月号

映像のダイヤモンドダストに目を凝らす誰かが中にゐると思へて
高田 香澄

切り落とす桜の枝の樹液さえ意志持つ者の恨みなるべし
田口 耕生

大相撲を初めて詠みしは愚庵とか癖のメモ書きまた一つ増ゆ
橋本 俊明

人と犬次々過ぎてその為のごとく静もる一本の道
広瀬 美智子

恋しいと冷たい月夜に身をよじり横たわる君のてぶくろ一つ
森崎 理加

孫とまく鬼やらひの豆朗朗と久しぶりなる夫の良き声
渡辺 茂

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選歌  令和5年4月号

選歌 令和5年4月号

恒例の第九聴きつつこの年もとどこおりなく早終えんとす
財前 順士

追ひ焚きのボタンを押した熱い湯にあなたのゐない時空を生きる
高田 香澄

他の人の役に立つとは生くるための杖を手にいれ歩むに似たり
高田 好

夏豪雨あり洗はれて古滝の恥しきまで白き岩組み
橋本 俊明

夕日浴ぶる母と児の背ひっそりと黄昏時の影となりたり
松下 睦子

夕さりてまた降りだしぬしらじらと雪はこの世の讃たらしめよ

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選歌  令和5年3月号

選歌 令和5年3月号

この世には分からぬことの三つ有る寿命と心・生存理由
木下 順造

行く舟の航跡の波の打ち寄せて秋のひとひに心あふるる
清水 素子

ぽかぽかと足先温し細胞が両手を挙げて万歳をする
高田 好

車椅子狭い売店の中に入れ夫は森永キャラメルを買う
玉尾 サツ子

日毎増すコロナ罹患を告げしのち今月の死者数ことなげに言う
永田 賢之助

ウクライナに干支のあること知りたる日冬陽に重き山茶花の紅
橋本 俊明

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選歌  令和5年2月号

選歌 令和5年2月号

現実は現実として老いの身を単独で飛ぶ風をとらへて
臼井 良夫

「好きだったの」写真の君はその通り、彼に寄り添い夢を見ている
鎌田 国寿

わたくしは歩き回る木生きるため枝を張らない自我なんてない
高田 好

何気ない言葉の棘が抜け切れぬ 外は大空翔んでみようか
高橋 美香子

怠り来し墓参コロナの言ひ訳の子供じみゐて帰路の寂しさ
橋本 俊明

褄を合わせてみても綻びの見えてくるのも人間だから

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選歌  令和5年1月号 

選歌 令和5年1月号 

ひそやかに降り来る白き秋の風聞きつつ庭の草を取るなり
青山 良子

久に見る天の青さに吸われたる心の隅の小さき黒点
上村 理恵子

孤のつく字みな淋しいと友が言う遠き日輝く孤独ありしに
児玉 南海子

空気読むこと出来るらし餌やるなと書きたる駅に鳩来なくなり
高田 好

もて余す時間か老ら陽だまりに二人・三人また一人増す
広瀬 美智子

汗たりて草とるよりもなお辛し取れずして庭ながめいる身の
藤峰

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