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ランドセルの記憶 その2

夫は、私が「馬鹿みたい」という程、ランドセルに対して夢がなく、ネガティブな反応をした事に驚いていた。だから私は、ネガティブなのには理由があるのだ。と言い訳するように自分の思い出を夫に話した。

私の思い出話を聴いたら、夫は納得し、同意してくれるだろうと思ったが、そんなことはなく、
「俺はちゃんと使っていたよ。嫌とも思わなかったし。」
そして立て続けに、
「俺は当時、確かに、何にも考えていなかったけど、今考えても、馬鹿な事だと思わないよ。」
夫は私とは真逆の考えだった。
小学生頃の私の苦い記憶は、彼からしたら、悩み事の対象になるレベルではなかったのだろう。まさか、ランドセルで夫婦の価値観の違いを発見してしまうとは。私は負けじと、"いかにランドセルが使いにくいか"、とか、"重くて大変なのか"など、思いつく限り熱く語った。しかし彼は、
「プリントなんてなくさなかったよ。折って入れるだけじゃん」「重いと思わなかったし、まぁ、昔のランドセルはそんなものでしょ」とことごとく、私のネガティブなイメージは否定された。

結局、ランドセルに対する夫婦の意見は平行線のまま、議論は終わった。しかし、想いを吐き出した話し合いが終わった後、ふと、「今はどんなランドセルがあるのか、この目で確かめてみたい。かも知れない。」と、まるで毒が抜けてしまったような、魔法から醒めてしまつまたような感覚に襲われた。

そうだ、私のランドセルではなく、もう息子のランドセルなんだ。

数日後、私はホワイトボードに貼られている紙を見ながら、
「展示会、行ってみようか。」とつぶやいた。すると、夫はニヤッとして
「"限定です"って言われても予約とかしないでよ。結構高いんだから。」
と言った。
私は、「息子がお気に入りを見つけてしまったら、断る勇気はないな。」と心の中で思い、そう思った自分に驚いていた。




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