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日本人が世界に誇れる「ナショナル・コアコンピタンス」の確立

松下幸之助 一日一話
12月 9日 世界に誇れる国民性

同じ日本人でも細かくみれば、考え方や性格など実にいろいろな人がいるわけですが、しかしまた一面には、日本人には日本人としての共通の特性というか、日本人独特の民族性、国民性というものがやはりあるように思います。日本独特の気候や風土の中で長い間過ごしているうちに、たとえば日本人特有の繊細な情感というようなものが、しだいに養われてきたと言えるでしょう。

日本人の国民性のなかにも、反省すべき点は少なくありませんが、とくに勤勉さとか、器用さとか、恵まれた気候風土と長い歴史伝統によって養われてきたこういう特性には、世界にも大いに誇り得るものがあるように思うのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

「日本人の国民性」を考える上では、先ず混同しやすい「ナショナリズム」と「ナショナリティ」の違いというものを明確にする必要があると言えます。安岡正篤先生は著書「興亡秘話」(1957)にて以下のように述べています。

この頃よくいわれますことは、ナショナリズムということはいけない。しかしナショナリティというものは大事である、とこういうことがいつも論ぜられるようになっておりますが、なぜナショナリズムというものがいけないかと申しますと、これは自分の国民だけをむやみに主張して他を排斥する。つまり排他的民族主義になる。そういうものをショウヴィニズムと申します。これがいけない。
しかしナショナリティ(国民性)というものは大事である。これなくして世界性、国際性、宇宙性というものは何も出てこない。やはり日本人は日本人でなければならぬ。それでなくて世界市民になれるわけがない。
(安岡正篤著「興亡秘話」より)

昨今においては、各国においてポピュリズムに端を発したナショナリズムが強さを増しショウヴィニズムと化している現状がありますが、ナショナリズムについて安岡先生は、「日本精神の研究」(1924)や「日本精神通義」(1936)にて、昭和を代表する一つのナショナリズム論を説いています。そのナショナリズム論の中では、ナショナリズムには「国民的伝統」「国民的利益(国益)」「国民的使命(観)」の3つの側面があり、これらの独自性や特色についての共通認識を国民が有することを意味するナショナル・アイデンティティが中核をなすものであるとし、当時の混迷する日本に明確な進路を掲示すると同時に、涵養・振作すべき国民精神の神髄を提唱されています。

他方で、ナショナリティについて考える際には、松下翁が日本人の優れた伝統精神として挙げる「和を以って貴しと為す」、「衆知を以って事を決す」、「主座を保つ」の3つの側面をベースとした他国が真似できない中核となる強みや世界に誇れる強さの確立、すなわち「ナショナル・コアコンピタンス」の確立が重要になると言えるのではないでしょうか。換言するならば、平和愛好の精神、民主主義、主座を失わずに外来のものを消化吸収し日本化する能力を礎とした「ナショナル・コアコンピタンス」の確立ということです。

翻って、世界の人々の視点に立ち、世界はどのような「日本人独特の民族性や国民性」に注目しているかと考えることも重要になります。ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授竹内弘高先生(現ICU理事長兼任)から昨年伺った話によりますと、HBS では日本人が提供する日常サービスにおけるホスピタリティの高さに注目しているそうです。例えば、新幹線内において駅折返し清掃を行う株式会社JR東日本テクノハートTESSEI。普通のおじさんとおばさんたちが、驚くべきスピードと正確性を持ち新幹線の掃除を5分で終わらせてしまう。その結果、新幹線が遅れることなく定刻通りに出発する。これは世界では考えられないことだそうです。

更に世界が驚くこととして、日本では「ゴミ箱」がないのに「ゴミ」が落ちていない。タクシーはチップを渡さずとも丁寧なサービスをしてくれる。セブン-イレブンは ”This is heaven” と感じるくらいきれいでサービスがいい。交通誘導員は、単純労働にも関わらずドラッグでもやっているのかと思うくらい楽しそうに働いている。これらに、世界の人々は大きな驚きを覚えているそうです。

加えて、「富裕国における所得の不平等と健康および社会問題の指標との関係」の相関図が示すように、所得が多くなるにつれて社会環境が悪くなる米国に比べて、日本は所得が低くとも社会環境は維持されています。これは、「日本人の持つ「フレキシビリティ」に由来しており、テーゼに対してアンチテーゼを許容する文化。換言すると、デジタルの世界ではありえ得ない、侘び寂びを生むアナログの世界観に感性的な価値を見出している “Fusion of Analog and Digital”」という文化的背景があり、日本は「生き方の先進国」であると竹内先生は仰っていました。

上記の事実は現状における世界から日本に対する注目が、かつてのものつくり大国日本の時代とは異なり「モノ」から「コト」へ変化しているということを意味しています。つまりは、日本は「コト」の中に世界に誇れる価値を持っているということです。

更にいうと、「ナショナル・コアコンピタンス」の最大化をはかるためには「コントラスト」が重要となります。「コントラスト」とは、例えば勤務時間中は目の前の仕事にど真剣に向き合いながらも、就業後は一転して別人のように阿波踊りをするようなクレイジーさを持つことです。ラテン系の人々などは、基本的には陽気ですが仕事も大雑把でコントラストがありません。つまりは、勤勉さや真面目さに対するユーモアさやクレイジーさがあることで、勤勉さや真面目さがより一層際立ち最大化させることを可能にするということです。

要するに、日本人がナショナリティとして有する「和を以って貴しと為す」、「衆知を以って事を決す」、「主座を保つ」の3つの伝統精神を礎とした世界に誇れる「ナショナル・コアコンピタンス」の確立、更には最大化が求められているのであると私は考えます。

中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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