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日の名残り

鑑賞時の感想ツイートはこちら。

1993年のイギリス映画。第二次世界大戦が起こる目前の1930年代から大戦後の1956年まで、英国貴族の屋敷に仕えた執事を主人公に「品格とは何か」を知る執事としての誇り、同僚の女中頭との淡いロマンスなどを描いたドラマ作品です。原題 "The Remains of the Day"。

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原作は、2017年にノーベル文学賞を受賞した日系イギリス人小説家、カズオ・イシグロによる小説『日の名残り』。

出演は、『羊たちの沈黙』、『ジョー・ブラックをよろしく』のアンソニー・ホプキンス、『ラブ・アクチュアリー』、『ウォルト・ディズニーの約束』のエマ・トンプソン、『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラント、ほか。

監督は『眺めのいい部屋』、『モーリス』、『ハワーズ・エンド』のジェームズ・アイヴォリー

カズオ・イシグロの同名小説を映画化

本作は、カズオ・イシグロの小説が原作です。わたしも文庫版を持っています♩ 映画がとても良かったので原作も読んでみたくなり、その日のうちに Amazon でポチってしまいました。笑

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○『日の名残り』/カズオ・イシグロ著
短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。失われゆく伝統的英国を描く英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。(早川書房「ハヤカワ・オンライン」より)

最新の文庫は、わたしの手元にあるものとは表紙が違う新装版みたいですね。

装画は、北住ユキさんによるものだそう。素敵なイラスト。

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あらためてご紹介するまでもないかと思いますが、一応、カズオ・イシグロ氏の概要も載せておきます。

カズオ・イシグロ
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、家族と共に渡英。以降、日本とイギリスの2つの文化を背景にして育つ。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。
1982年の長編デビュー作『女たちの遠い夏』は王立文学協会賞を、1986年に発表した『浮世の画家』でウィットブレッド賞(現・コスタ賞)を受賞。1989年に『日の名残り』で英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞。2017年にノーベル文学賞を受賞。

ご覧のように、イギリス文学界が世界に誇る大作家で、大英帝国勲章の「ナイト」の爵位が授与されており、「サー」(Sir)の称号で呼ばれます。

憧れの英国貴族の世界♡

さて、noteでも繰り返し書いていますが、わたしは英国が大好き!♡ こちらのマガジンにまとめている英国映画も、日に日に増える一方です。笑

『日の名残り』も英国が舞台の映画ということで、かねがね観たいと思っていた作品でした。どのくらい前から観たかったかというと――

このツイートが 2011年。その後、実際に観たのが 2015年なので、実に4年越しで鑑賞の機会を待っていたことになります。

最近でこそ映画配信サービス(サブスク等)でちらほら見掛けるようになりましたが、当時はまだ、ちょっとマイナーな作品だったのですよね~。そんな経緯もあり、やっと観られた時はとてもうれしかったです♩

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本作の主人公は、スティーブンスという初老の男性。

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スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)
貴族のお屋敷「ダーリントン・ホール」で、執事としてダーリントン卿に仕えている。使用人のトップに立ち、責任者としてダーリントン・ホールのすべての仕事を取り仕切る。主人のダーリントン卿を心から敬愛してやまない。彼の父親も名高い執事だった。

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スティーブンスが仕えていた「ダーリントン・ホール」の主(あるじ)が、ダーリントン卿

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ダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)
ダーリントン・ホールの主人。執事のスティーブンスを信頼している。伝統的な古き良き英国の「紳士」であり、高潔であることを貴ぶ。ただ、育ちの良さが仇となり、“世間知らず” で “理想主義” なところをナチス勢力に上手く利用され、ドイツに対する宥和政策を説いていた。

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字幕なしですが、トレーラーはこちら。よろしければ、雰囲気だけでも。

貴族のお屋敷~! 執事! 晩餐会! 乗馬!
立派なお屋敷に、緑いっぱいの広大なお庭、美しい調度品―― ああ、わたしの憧れそのもの!♡

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BBCドラマ『ダウントン・アビー』などの世界も大好きです。
お屋敷のどの部屋からでも使用人を呼べるこのベル、『ダウントン・アビー』でも登場していましたよね!

わたくし、わが家の息子には「きっと、わたしの前世はイギリスの貴族だったに違いない」と常々申しております(笑)。だって、こんなにも心惹かれてしまうんですもの……♩

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あるいは、イギリスの田園風景を見ると無性に安らぎを感じるので、コッツウォルズか湖水地方あたりの野ウサギが前世だったかもしれません。笑

スティーブンスみたいな執事が欲しい!

本作の物語は、第二次世界大戦が終わった後の 1956年が主な舞台です。

前主人であるダーリントン卿の死後、どの親族も相続しようとしなかった「ダーリントン・ホール」。それを、アメリカ人のお金持ちであるルイス氏が買い取ったことから始まります。

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ルイス氏は、生前のダーリントン卿と親交があり、お屋敷へも何度か訪れたことのある人物でした。このルイス氏を演じるのは、『スーパーマン』こと「クラーク・ケント」役でお馴染みのクリストファー・リーヴ

本作に出演した2年後(1995年)、彼は不運にも落馬事故によって脊髄を損傷、首から下が麻痺状態に――。車椅子での生活を余儀なくされ、一旦は映画界から遠ざかります。その後、障害にも負けず俳優活動を続けましたが、2004年に52歳という若さで永眠。
そういった意味では、元気だった頃のクリストファー・リーヴの姿がフィルムに収められている、貴重な作品でもあります。

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新しいご主人様ルイス氏は、アメリカ人。もちろん貴族ではありません。以前は何十名もの使用人で成り立っていたダーリントン・ホールも、時代の流れと共に、執事のスティーブンスを含めて数名の使用人だけが残り、かろうじて運営されているような状態でした。

昔のように大きな晩餐会が頻繁に催されることもなく、スティーブンスが取り仕切るべき仕事の量も、以前に比べれば減りました。そこでルイス氏は、長年仕えてきたスティーブンスの労をねぎらう気持ちも込め、こう勧めるのです。

「たまには休暇を取って、旅でもしてきたらどうだい?」
「私の車を使っていいよ」(もちろん高級車)
「狭い世界(お屋敷)に縛られず、世界を見ておいで」

ルイス様ったら♩――


なんて素敵な上司なんでしょう!!

もし、わたしだったら、大喜びでご主人様のお申し出を受けて、旅に出掛けると思います。笑

ところが、職務に忠実で、ダーリントン・ホールでの生涯に誇りを持っている “執事の鑑スティーブンスはこう答えます

世界がこのお屋敷を訪ねてきたもので」――

このウィット! この品格! 機転の利いた素晴らしい返答ですよね♩

ちなみに原作小説では、このようなやりとり。

「本気だよ、スティーブンス。ぜひ骨休めしてきたまえ。ガソリン代はぼくがもつよ。だいたいだね、年中こういう大きな家に閉じ籠って、ひとに仕えてばかりで、君らはせっかくのこの美しい国をいつ見て歩くんだい、自分の国なのにさ?」

「失礼ながら、ご主人様、私はこのお屋敷でお仕えした長い歳月の間に、いながらにして最良のイギリスを見る機会に恵まれまして、ありがたいことだと存じております」

お屋敷、ひいては前主人のダーリントン卿に対するスティーブンスの敬愛とプライドがよく表れている言葉ですよね~!

このように、原作小説との比較から、

「世界がこのお屋敷を訪ねてきたもので」――

というスティーブンスのセリフは映画オリジナルのようです。おそらく脚本家が考えたのでしょうね。素晴らしい!(脚本:ルース・プラワー・ジャブヴァーラ)

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わたし、こういった粋な応対をしてくれる執事や一流ホテルのホテルマンが登場する映画が大好きなのです!

たとえば、『プリティ・ウーマン』でヘクター・エリゾンド演じる、ホテルの支配人とか♩

こちらの動画、以前『プリティ・プリンセス』の記事でもご紹介したのですが、それくらい、この支配人が大好きです。最高!♡

こちらのホテルのロケ地は、ビバリーヒルズにある「ビバリー・ウィルシャー・ビバリーヒルズ・ア・フォーシーズンズ・ホテル」(Beverly Wilshire Beverly Hills A Four Seasons Hotel)。泊まってみた~い♩

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本作の執事スティーブンスも、慇懃で、いかなる時も失礼のない応対ができ、品位を保ち、決して相手を不快にさせず、最大限のおもてなしで、ご主人様やゲストたちに仕えます。

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ダーリントン卿から「名付け子である甥(ヒュー・グラント)の縁談が近いので、“子どもを授かる仕組み” について、それとなく彼に話してくれ」と頼まれるシーンでは、スティーブンスの生真面目さに “クスッ” と笑えます。

ある大切な会合が屋敷で催され、集まったゲストの一人が靴ずれで足を痛めていた時も、テキパキと部下に指示を出し、甲斐甲斐しく世話を焼くスティーブンス――。

ああ、こんな執事がわたしにもいてくれたらなぁ……!

と、思わずにはいられません。

大好き! エマ・トンプソン♡

アンソニー・ホプキンス演じるスティーブンスの次に、本作で重要な役どころが「ミス・ケントン」。エマ・トンプソンが演じています。

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ミス・ケントンは、スティーブンスがダーリントン卿に仕えていた1930年代、「ダーリントン・ホール」で一緒に働いていた女中頭の女性。

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エマ・トンプソン。わたしの大好きな女優さんです♩

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ほら。もう、この表情なんて、すごく彼女らしいではありませんか! う~ん、好きっ!♡

わたしの「エマ・トンプソン好き好き♡」ぶりは、このあたりの記事で熱く語っています。笑

ご興味がありましたら、あわせてご覧ください。

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さて、エマ・トンプソン演じる「ミス・ケントン」。第二次世界大戦前のある時期、女中頭の欠員補充のためダーリントン・ホールへやって来ました。その頃の様子が、スティーブンスの回想として描かれます。

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執事のスティーブンスとは、いわば「使用人の責任者」と「その補佐役」のような立場関係。最初はスティーブンスの四角四面な態度に腹を立てていたミス・ケントンですが、次第にお互いの気持ちが変化してゆきます。

この “細やかな心の機微” をイギリスの名優二人が演じるわけですから、たまりません♩ 見応え充分です! 特にわたしと同世代、おとなのみなさんには、両者の演技の良さがずっしり伝わってくるのではないでしょうか。

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映画の冒頭(大戦後の1956年)、新しい主人ルイス氏からの勧めに従い、スティーブンスが重い腰を上げて旅に行こうと決めたきっかけは、実はこのミス・ケントンだったのです。

休暇の話が持ち上がる少し前、スティーブンスの元へ、かつて共に働き結婚退職していたミス・ケントンから手紙が届きます。そこには、夫と別居中であること、ダーリントン・ホールで働いていた日々を懐かしく思っていること―― などが綴ってありました。

折しも、人手不足に陥っていたダーリントン・ホールの人員事情もあり、懐かしさも手伝って、ミス・ケントンへ職場復帰のオファーをしてみようと思い立ちます。

そして、現在ミス・ケントンが暮らしているというイギリス西部を目指し、ドライブの旅へ――。道中、ミス・ケントンと共にダーリントン・ホールで仕えた日々の出来事や淡い恋心が、ぽつり、ぽつりと思い出されてゆくスティーブンスなのでした。

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果たして、どんな再会になるのか?

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ぜひ、本編でご覧になってください♩

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あのバス停のシーンの美しいこと。名作です。

と感想ツイートにも書きましたが、バス停での二人を描いたシーン、本当に美しいです。 また観たくなっちゃったなぁ……♡

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最後に。


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