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第28夜◇年のうちに花は咲きけりひととせを~在原元方

年のうちに 花は咲きけり ひととせを
去年(こぞ)とやいわむ 今年とやいわむ


(意訳:年が明ける前に梅の花が咲いてしまった。この一年を、もう去年といおうか。まだ今年といおうか。) 

本歌 在原元方 古今和歌集

数年ぶりの寒波により、凍える日が続いておりますが、わが家の裏にたつ梅が、初めて年のうちに開花しました。

周りの木々は、まだ色づいた葉が落ちきらぬなか、紅白の梅がぽつらぽつらと咲く様子は、まるで季節が錯綜し、ゆらめいて、愛おしくも時があいまいになったような光景です。

行ききらぬ秋、雪降らぬ冬、春の訪れと呼ぶにはまだ早く、時の流れがたわんだような梅の下で、花を見ながら心に浮かんだのは、年のうちに 春は来にけり ひととせを…という古今和歌集の巻頭歌。

春を花に、来るを咲くにとりかえてみれば、ぴったりと当てはまるようで嬉しくなり、ここ数日梅の下を通るたび、歌をそっと口ずさみながら、去年、今年とおもい巡らしておりました。

そんなあわいの時を楽しめるのもあと少し。年が明けてもまた古の歌にならい、自然が語りかけてくれる小さな声に耳を澄まして過ごしたい…。いつか土に帰る日まで。