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マヒした肝

20代の頃。とある場所で寮生活を送っていた。

怒鳴り声が響き渡り、たまに鈍い音が聞こえる。そんな抑圧的な環境で起きた珍事を話したい。      

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6階に私達の部屋があった。他の階への立ち入りは、いかなる理由であろうと厳しく禁じられていた。窃盗事件が発生したためだ。とはいってもトイレや洗面台は各階にあるため、他の階への立ち入りが禁止になろうが私達に不便は生じなかった。

それよりもエレベーター使用の禁止。これが痛かった。時間に追われる日常の中で、階段の上り下りはだるかった。


とある日の夕暮れ、寮の前に救急車が止まっていた。

私「何があったん?」
同期A「自殺したみたいっちゃ」

同期Aは山口県出身。語尾に「ちゃ」が付くのが特徴的だった。

同期B「5階の奴らしいよ~」
私「あーね」
同期C「ふーーん」

その時、同期Cが悪そうな顔をしていたのを私は見逃さなかった。

自殺者が出たことに驚きはなかった。多分ここにいる誰もが驚いていなかった。当時のみんなは感覚が麻痺していたんだと思う。


その日の夜。

「起きて 起きて」

目を覚ますと同期Cが満面の笑みで私を見ていた。

私「何時だと思ってるん?」
同期C「504号室の奴らしいよ 自殺したの」
私「だから?」
同期C「決まってるでしょ~ 肝試し~」
私「やだよ」
同期C「ビビってるん?」

カチンときた。

私「行ってやるよ」
同期C「同期Aと同期Bも誘おう! 人数多い方が怖くないでしょ!」
私「お前がビビってるじゃんか」

こいつ、、、私の部屋のカーテンが風でなびいていた。同期Cはベランダから私の部屋に侵入してきたようだ。
就寝時間はとうに過ぎているため呑気に廊下でも歩き、見回りに見つかったらひとたまりもない。私と同期Cはベランダから同期Bの部屋に向かう。

同期C「あれ? こいつ鍵かけてやがる」

部屋の窓が開かなかった。もう一度私の部屋まで戻り、今度は廊下からの侵入を試みる。

私「俺が同期Aを起こす。 同期Bはお願い。 非常階段前に集合」
同期C「了解」

廊下に出る前にまずはしっかり左右確認。見回りがいないことを確かめ、私は同期Aの部屋へ。

私「起きろ」
同期A「ん?」
私「肝試し行くぞ」
同期A「眠いっちゃ 行かないっちゃ」
私「ビビってるん?」


私が同期Aを連れて非常階段前に着くと、同期Bと同期Cが満面の笑みで待機していた。

同期C「よし行こう!」

音を立てないように階段を下りる。5階の廊下をゆっくり歩く

同期B「なんか寒くない?」
私「変な事言うな」

私達は固まりながら504号室へと向かう。同期Cがニヤニヤしながら私の顔を見てきた。

私「なんだよ」
同期C「このドキドキがたまんないよな」

こんなに楽しそうな同期Cを初めて見た。

同期B「怖いよ 早く帰りたい ん? 大丈夫なの?」

私達が同期Aを見ると、確かにケロッとした顔をしていた。全く怯えている様子がない。

同期C「怖くないん?」
同期A「俺はいつもここのトイレを使ってるっちゃ」

同期Aはそう言って5階のトイレを指差した。

え??

同期Cの顔から笑みが消えた。




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