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場をひらく③

前回からのつづき)

──ところで、あなたの夢は何?

ぼくには三歳(もうすぐ四歳)の息子がいる。彼が生まれる前、産院の先生に初めて会ったときに、突然、そう聞かれた。

いま、そのときのことを急に思い出した。

咄嗟に考えて(いや考える間もなく)ぼくの口から出たのは、

──人が集まる場をつくって営むようなことをしていたい。

と、言い方はちょっと違ったかもしれないが、そんなことを話した。

それまでには、本をつくる仕事や、“書く”仕事や、放送やイベントをつくる仕事や、“教える”仕事や、障害のある人たちを“支援”する仕事などをやってきたが、「夢は何?」と聞かれてぼくの頭に浮かんだ、そのことばから思うのは、なんだか、ぼくは本づくりにもメディア制作にも教育にも福祉にもそんなにこだわりはなくて(もちろんそれぞれに対する思い入れはあるのだけど)、何よりも“人”が好きで、ひとりで何かやるでも組織に尽くすでもない、“人”にもまれて生きてゆきたいということだった。

そのときそこは産院で、ぼくの“夢”を語る場ではないから、いきなり聞かれて、こたえて、それきりだった。

これまでもぼくはそのときのことを、たまに思い出したことがあるが、最近は生活のこと、自分の仕事のことで余裕がなくて、思い出すのは久しぶりだ。

続けて書いているこの文章のタイトルを「場をつくる」にしたから思い出せたことで、“書く”ことにはこんな効力もある。

“書く”ことによって導かれる。

何かに導かれるから“書く”のではなくて。

そうだ。妻(息子の母)にも、聞いてみよう。いま、きみの夢は何?(つづく)

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