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『熱冷え3』 当たり前だが、始めからこんな風だった訳じゃない。ただ、熱かった日々──熱に浮かされるような時を、思い起こせば思い起こすほど己の中心が冷たくなっているのを自覚するのだ。いつから?どこから?ふたりの始まりは。……ああ、そうだ。出逢ったのは冬も入り口の頃だった。三年前の。

5年前

『熱冷え4』 冬の冷えこみとなったあの日、陽差しだけはやわらかく眩しかった。色づいた落ち葉のクッションを踏み締めながら、まだ心持ち青の残った木々を見上げる。枝葉の隙間から差し込んだ光に、ふと目を細めた時、何かが背中に当たった。振り返った目に飛び込んで来たのは、光よりもまばゆい熱。

5年前

『熱冷え5』 熱い──色と視線だった。決して互いにひと目で戀に落ちた、等と言う事ではない。その身の周りに纏う何か、その目から溢れる何かが、自分には酷く熱を帯びて見えたと言うだけ。今にして思えば、それは己の中で消却出来ない物を、誰かに肩代わりして欲しいと言う願いだったかも知れない。

5年前

『熱冷え6』 背中に当たったのは、落ち葉でよろけた拍子に藁を掴もうとした拳。何とか堪えた体勢で見上げる目と、驚いて見下ろす目が交差する。「大丈夫ですか?」かけた声に「ああ、ごめんなさい」と拍子抜けするほど感情のこもらない謝罪。思わず硬くなる己の表情に、容赦なく照りつける熱の視線。

5年前

『熱冷え7』 その熱に当てられたのは、恐らくはタイミング。本来なら近寄らない、危険過ぎると判断する熱量。間が悪かったのだ。たまたまその時、己の奥底に燻っていた炭に飛び火した──そうとしか考えられなかった。煉獄の業火の中、諸共に火達磨の日々。燃え尽きたのは、たったひと言が故だった。

5年前

『熱冷え11』 拳よりも先に氷の様に冷たい感触。次の一瞬で業火の熱に転じ、同じ熱さの何かを体から奪って行く。それは抜け出す傍から、指先と共に急激に冷えて行った。何が起きたのか判らないまま見下ろすと、見上げる瞳から涙が伝う。泣きながら微笑むその輪郭が、ゆっくりと少しずつ傾いて行く。

5年前

『熱冷え2』 熱量と言う物は、ある日突然に枯渇する物なのか。それとも偶然なのか。小さな擦り合わせがうまく行かない事など問題ではなかった。……少なくとも最初の頃は。『恋心のなせる技』と言うのは遮蔽幕だ。今までは何でもなかった『それ』が、ある瞬間いきなり鈍器のように襲い掛かって来た。

5年前

『熱冷え8』 選んだ理由を問うて、一瞬の間。その間とは裏腹に、返って来た言葉に躊躇いはなかった。『そこにいたから──』特に珍しくもない、ありがちなセリフだ。本来の自分なら、驚くべくも傷つくべくもない。だが、それもタイミングだった。一番酸素を与えられながら、氷海に投げ込まれた様な。

5年前

『熱冷え12』 ソ・コ・ニ・イ・タ・ノ・ニ──唇が動き、体が傾いだ。己が冷めた分、相手の熱量は増していた事に今気づく。だがもう遅い。こうなるしかなかった。そのまま重なった体が、その熱量とは裏腹に冷たくなって行く。薄れ行く意識の中、涙に濡れた微笑みは今迄の何よりも愛おしかった。~終

5年前

『熱冷え10』 とっくにおかしくなっていたのだろう。そんな状態での決意を切り出した。終わりを。スローモーションの様な時、表情だけがクローズされて見える。何の感情も現れないと確信していれば、こちらもそう有れば良いだけ。なのに、始まりには背中に当たったそれが、胸下辺りを目がけて来た。

5年前

『熱冷え9』 一体、何を期待していたのか──いや、それはない。有耶無耶のままに日は経ち、記憶は薄まるごとに鮮明な夢となって現れる。さながら拷問の様に、何かを吸い取るが如く。夢なのに。だが夢を見れば見る程に、覚めなければ覚めない程に、ただ認めざるを得なかった。これは現実なのだ、と。

5年前