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「北極百貨店のコンシェルジュさん」感想! 絶滅種の魂の鎮魂! 負の搾取関係から対等な共存関係へ!

 こんにちは!今回は現在上映中の、「北極百貨店のコンシェルジュさん」についての感想を語っていきたいと思う。

 簡単なあらすじは、多様な動物達がお客として訪れる不思議な百貨店で、主人公のコンシェルジュ見習いの秋乃が、様々なお客さんの要望に答えるために、奮闘する話である。 作品全体としては、コミカルな雰囲気で進む「お仕事物」であり、最後に少し感動もあって、広い層が楽しむ事が出来る良作である。 

 ただこの映画は、決してただの良作ではない。そもそもなぜ、動物が百貨店にきて、人間が店の従業員として働いているかという設定の部分が、実は受け取り方によってはかなり怖い話なのだ。しかし、僕はその怖い部分が一番面白かったし、今作を名作たらしめていると考えている。それでは詳しく説明していこう。


○絶滅種の魂の鎮魂?高度消費社会とその犠牲!

 まず、この映画が始まってから、ずっとある違和感があった。それは、日本語を話す動物達が普通に百貨店に買い物にきて、人間がコンシェルジュとして接客をしているが、これはそもそもどういう世界観なのかの説明がない。つまり、観ている側としては、普通に人間と動物が対等に共存している世界なのか、もしくは、北極百貨店だけが、そういう特別な場所なのかが、全くわからなかったというわけだ。

 そして、その謎は物語後半に明らかになる。日本に高度消費社会が到来して、人々が必要だからではなく、欲望で物を買い始めた時代が始まった。その時に、人間の欲望のままに乱獲され絶滅種となった動物達がいた。         北極百貨店とは、そういった動物達に、謝罪の意味をこめ、かつて人間がやっていたように欲望のままに消費させてあげるための場所だった事が明らかになる。 

 割とコミカルな雰囲気の映画だった事もあり、このあたりの設定はゾッとした。
 僕は、北極百貨店がまるで、「あの世」であり、人間のせいで絶滅していった動物達の魂の供養のようにも見えたのだ。人間に乱獲され、死んでいった動物達に、あの世で好きに買い物を楽しんで貰い、成仏して貰うようなものだろう。そして、人間側は、百貨店の従業員として、動物達に尽くす事で罪を償っているというわけだ。

 もちろん、今僕が言ったのは例えにすぎないし、作中でそこまでの描写があるわけではない。そういった設定が裏にあるというだけで、あくまでメインの重心が置かれているのは、秋乃のコンシェルジュとしての成長物語だ。ただ個人的には、この裏設定的な部分が一番面白く、興味深かったのだ。

○絶滅に対する種の存続や作品の影響による「継承」を描く!

  そして、秋乃のコンシェルジュとしての、奮闘が描かれるそのエピソードの1つ1つが、実はこの裏にある大きなテーマと繋がっている。

 例えば、アザラシのお客さんが出てくるエピソードでは、秋乃が優しく対応しすぎて、アザラシが調子にのってクレーマー化し、秋乃を困らすという展開がある。これは、絶滅種となったアザラシが、人間にされた事を、そのままやり返しているという見方も出来る。人間が欲望のままに、アザラシを乱獲し絶滅させたように、このアザラシの客も、自分の欲望のままにワガママをいって秋乃(人間)を傷つけたという訳だ。 

 この後、秋乃の先輩が、「お客様は神様だが、他の神様に迷惑がかかるから」と、その場を納めてくれたのだが、このセリフは、そのまま人間に対しての皮肉でもある。
 人間も、自分達が神様にでもなったかのように、自分達の欲望のためなら、種を絶滅させる事すら厭わない程思い上がっていた。お客様は神様と主張するクレーマーと、自分達の欲望のためなら種の絶滅すらひき起こしてしまう人間の傲慢さは、似たような物なのかもしれない。

 そして、他のエピソードでは、ニホンオオカミのお客さんのプロポーズを成功させる手伝いをする話と、バーバリライオンのお客さんの彼女の探している香水を一緒に探す話など、結果的にお客さんの婚約を成立させる話が2つもある。これも要は、絶滅種のニホンオオカミやバーバリライオンの婚約を成立させる事で、種を残す事による「継承」の話に繋がっている。

 それ以外でも、ウーリーという、マンモスの芸術家と、ウーリーを尊敬していて、パティシエを目指しているネコが登場する。ネコはウーリーの作品が大好きで、自分が作るスイーツにもウーリーの影響が出ている。この話も、作品という、種を残す事とは別の形での「継承」が描かれている。

 なぜ色々な形での継承が描かれるのかというと、絶滅というのは、ずっと続いていたものが途絶える事である。だからこそ、それに対する対抗として、カップルを結婚させて種を残す事であったり、作品への影響という形での、途絶えさせず、継承していく姿を描いたのだ。

○搾取による負の関係性から与え合い助けあう対等な共存関係へ!

 そして物語終盤に秋乃は、病気で入院していて、百貨店に来ることが出来ないインコの子供のために、今まで秋乃が接客して、悩みを解決してあげたお客さん達にも協力して貰い、百貨店の中を紹介する動画を作る。
 これは何を意味するのかを僕なりに考えると、今まで人間は、欲望のままに動物達を傷つけてきたように、アザラシ(絶滅種)のお客さんが、自分の欲望のままに秋乃(人間)を傷つける描写があった。つまり、相手から奪うから奪われるという、人間と絶滅種の負の関係性が描かれていた。

 しかし、秋乃は、コンシェルジュとして全力でお客さんに尽くしたから、最後に動画撮影を行う際、今まで秋乃が接客したお客さん達が協力してくれたのだ。つまり、自分がまず与えることで、相手からも何かを与えて貰えるという関係が描かれている。人間が絶滅種から搾取し、その結果、百貨店で自分達がしてきた事をそのまましっぺ返しをされるという負の関係性から、与え合い助けあえる対等な共存関係が描かれているのだ。

 このように、今作は、秋乃の成長を中心とした、お仕事物としての面白さもあり、同時に絶滅種と人間の関係性の部分で深いテーマも扱っていて、やはり、大人から子供まで楽しめる作品である。

○本来の意味での「作画のいい」アニメーション!

 ストーリーに関してはこんな所であるが、この映画は、映像面に関しても凄まじいものがある。秋乃のコンシェルジュとしての立ち振舞いなどの人間の動きはもちろん、動物達の特徴や個性が動きで表現されており、物凄い作画だった。派手なアクションシーンなどはないが、日常芝居的な動きで、人間や動物達がスルスルと繊細かつ大胆に動くので、本来の作画が良いアニメとは今作のような物をいうのだと思い知らされた。

  後は、すごくどうでもいい事なのだが、作中に秋乃をクビにしようとする外商員のトキワというキャラが出てくるのだが、トキワは秋乃よりも、飲食物(スープ)の鍋に入っている常識のないフロワマネージャーの東堂をまずクビにしろと強く思った笑

 とまあ感想に関してはこんな所である。
今作のような、誠実でいい作品はしっかりと評価されて欲しいと強く思う
 製作スタッフな方々は、いい仕事をしてくれた。次回作を作るチャンスを得るためにも、売れて欲しいと思う。そういった応援したくなる何かが今作にはあるのだ。
 面白い映画を作ってくれてありがとうございました!

 今回は以上になります。最後まで読んで下さりありがとうございました。ではまた🙋

 

 
 

 

 

 
 
 

 

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