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【映画の話】「アシスタント」―仕事って、なんだ??―


―—―—仕事。

それはほとんどの人が生きていくうえで避けては通れないもの。
僕たちはそこに夢を見てよいのだろうか。
それとも、あるがままの現実を受け入れ、淡々と走り続けることだけを考えるべきなのだろうか。

主人公のジェーンはエンターテイメント企業のアシスタントとして働いている。彼女はいつか自分がプロデューサーになることを夢見ている。キラキラした鮮やかな夢の生活・・・しかしそれとは裏腹に、現在の彼女が行っているのは日々の平凡な雑務、雑務、雑務。
早朝から深夜までの長時間労働。会長からのパワハラまがいの仕打ち。殺風景なオフィス。ルーティンワーク。
それでもいつか叶うかもしれない夢のために、ジェーンはひたすら働き続けるしかない・・・。


まず、印象に残るのは冒頭のシーン。主人公ジェーンが、街明かりがキラキラと輝く夜の街のどこかに出かけるところから物語が始まる。事前に少しあらすじを読んでいたから、なんとなくオフィスの日常みたいなものを切り取る映画であることはわかっていた。だから、ここで少し驚きを感じた。あれ、夜?それとも海外のエンターテイメント企業は夜から仕事がはじまることもあるのだろうか。
それからジェーンはオフィスに到着し、電気をつけてまわったり、コーヒーを淹れたりして、仕事の準備を進めていく。そうこうしているうちに、同僚が一人出社してくる。
ここで最初のセリフ。

「おはよう」

そう、最初は夜だと思っていたのだが、今の時間は早朝だったのだ。
まだ太陽もろくに昇っていない時間からジェーンは一人で誰よりも最初に出社をして、オフィス周りの準備をしなくてはならなかったのだ。
映画が始まってまだ5分くらいだが、このあたりですでに恐ろしい過酷さの香りがプンプンと漂ってくる。


細かいけれど、もう一つ印象的なシーン。
この映画では、主人公が書類を印刷するシーンがけっこうでてくる。
そしてそのたびにプリンターの発する、あの無機質なヴィーン・・という音をたびたび聞かされることになる。
僕も基本デスクワークで、同じようにプリンターを使う機会が多いせいもあって、この音を聞くと腹の底をぎゅっと握りつぶされるような気持ちになる。(仕事終わりにこの映画をみたので、こういうシーンのたびに仕事を思い出して、何度か停止ボタンに手を伸ばしかけた。)
そして、ある一つの印刷シーンで、プリンターが詰まる。
主人公は膝をついて、トレイをガチャガチャと開けて、中からくしゃくしゃになって破れた用紙を引っ張り出す。
同僚たちはプリンターの前でなにやらトラブっている彼女のほうを心配そうに見つめている。
・・・これ、あるなあ。
プリンター、よく詰まる。
そのたびにいろんなところをガチャガチャあけて、原因を探さなくてはならない。破れた紙をみつけて、取り出そうと思ったら、端っこだけが破れて、余計取り出しづらくなったり。
こういうことがあるたびに、少しむなしくなる。
こういうところが、本当にリアルな映画だ。


この映画には、いわゆる音楽的BGMがほとんどない。代わりに背景音になっているのは、仕事をしているなかでたてられる生活音だったり、どこかから聞こえてくる同僚だか、役員だかが深刻そうに話す声だったりが、夢の中の音のように、どこか遠くからぼんやりと聞こえてくるだけだ。
映像自体もかなり地味で、ほぼ無表情の主人公が淡々と書類の印刷だったり、会長の予定の調整だったり、飲み終えたグラスのあと片付けなどを淡々とこなしていく。

重役の秘密をアシスタントが見てしまった、みたいなドキドキする展開や、失敗をとおして主人公が精神的に成長し、自分の人生に対して希望を抱いていくといった感動的要素は、この映画には存在しない。
ただの一日。
たぶんものすごくもやもやしたものを抱いているであろう主人公が、感情を爆発させることもしないまま(ちょっとそういう場面もあるけれど)、一日を過ごす。
僕もどちらかといえば同じように淡々とした生活を送っているほうだから、こういう映画をみると自分の生活のことを考えてしまう。

夢と現実。
思い描く理想の生活と、実際の生活。
そこにどうやって折り合いをつければいいのだろうか。
もし主人公が夢をかなえて、プロデューサーになったとして、それですべてが満たされるのか、それとも、そこには別の現実があるだけなのか。
理想の生活なんていうものは本当はなくて、ただの一日を積み重ねていくことが生きるということなのか。
こういうことをよく考えてしまう。
こういう考え方はつまらないですかね。

とにかく、画は地味めだけれども、そこにはものすごいリアリティと、いろいろ考えさせられる要素が詰まっている。

ヒーローとかアクションとかミステリーとか、そういう映画に飽きてしまった人は、たまにはこういう映画を観ると、また新たな面白さを発見できるかもしれない。




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