ゆっくりと繁殖していく小宇宙。豊かな土壌に支えられた、Fumie Shimaokaの世界に迫る。
『妖精』
画用紙、水性マーカー/2018
花弁や細胞のようにも見える小さな図形の集積。
細部の美しさに魅入っていると、視界の外側で世界が広がっていくような感覚に襲われる。
まさしく小宇宙とでも言うべきこの作品は、「HERALBONY ArtHandkerchief AWARD2021」の受賞作品に選ばれた。
作者は、大阪府に住むFumie Shimaoka(しまおかふみえ)さん。現在は作業所に通いながら、自宅で制作を続けている。
今回の受賞に際し、ステイホーム中のShimaokaさんに様々なお話を伺った。
その中で見えてきた彼女のチャーミングさや制作秘話を存分にお伝えする。
(書き手:インターン・カサハラリカコ)
「妖精」は「怪獣」だった?——ハンカチに隠された秘密
——まずは「アートハンカチアワード2021」の受賞、おめでとうございます。感想をお願いします。
Shimaoka「…嬉しかった」
——今回受賞された作品ですが、「妖精」というタイトルの理由を教えてください。
Shimaoka「最初は(タイトルを)『かいじゅう』にしてた。怪獣やと思ってたけど、見直したら妖精たちになった」
——当時(2018年)は怪獣だと思って描かれていた?
Shimaoka「まるとか…しかくとか…いろんな形にしたので、妖精になった」
——この中に妖精はたくさんいるんですか?
Shimaoka「多少」
——多少…。絵の中のどの辺が妖精なんでしょうか?
Shimaoka「…わからん。でも妖精は妖精」
降りてくるインスピレーションのままに——普段の制作事情
——次に作品全体の作風や制作方法についてお聞きします。例えばこの作品ですが…
『宇宙』
画用紙、水性マーカー
Shimaoka「そこに四角あります?」
——はい、たくさんあります。
Shimaoka「四角とか丸とかよう描くんで」
——ここには星がありますね。
Shimaoka「そういう…イメージ(で描いている)」
——なるほど、宇宙のイメージから星の図形が出てきたんですね。
Shimaoka「それやな」
——こういうのって、どこから描き始めているんでしょうか?
Shimaoka「端っこから。先に端書いて、真ん中を…。でも今描いてるやつは、真ん中から」
——本当だ!それは新作ですか?
Shimaoka「新作です」
——素敵です。なんだかプラネタリウムみたいですね、余白がキラキラ残っていて。では、枠から決めていくやり方もあるし、真ん中から書いて増やすってことも…
Shimaoka「それもある」
——なるほど。描くときに、目の前にある何かを参照することはありますか?
Shimaoka「しません。…描くたんびに、『描け』いうんが降りてくるんで」
——じゃあそのときのインスピレーションのままに手が動くんですね。基本的に同じ画材で描かれているようですが、これは水性の紙用マッキーですねか?
Shimaoka「妹のペン。(妹が)いらんようになったからもらった」
——そうなんですね。ちなみに一番好きな色ってありますか?
Shimaoka「ピンク!」
——確かに今着ている服もピンクですもんね!
紙(支持体)の色もかなり多様ですが、ここにもこだわりがあるんですか?
Shimaoka「降りてくる度に何色か決めているのがあって、そんで決めた後に描く」
——史絵さんが、今まで書いた中で一番好きな作品はどれですか?
Shimaoka「(少し迷ってから)これ」
『オリオン』
画用紙、水性マーカー/2016
——これも素敵ですね!宝石みたい。宇宙がお好きなんですか?
Shimaoka「宇宙は…まあまあ」
——タイトルは毎回自分で付けているんですか?
Shimaoka「まあ付けてるけど…わかんなくなって…(あとで)変えるときもあります」
——やっぱり描いてる時と後から見返した時とじゃ印象が違いますもんね。一枚の絵を仕上げるのに、どれくらい時間をかけますか?
Shimaoka「むっちゃかかるけど…一ヶ月くらいかねえ」
——作品は毎日描かれているんですか?
Shimaoka「ほぼ毎日。描けへんときもあるけど」
——毎日のんびりちょっとずつ描く、という感じ?
Shimaoka「そう」
——絵を描くことは楽しいですか?
Shimaoka「気持ちが…よくなる」
ストレス発散の毎日?——日常の風景
——絵を描くこと以外に好きなことがあったら教えてください。
Shimaoka「肉!」
——他には?
Shimaoka「カラオケとか…歌が好きなんで」
——何をよく歌われるんですか?
Shimaoka「三代目 J SOUL BROTHERS!あとユニバによくいく」
——近いんですか?
Shimaoka「近くはないけど…スッキリする。ストレス発散」
——じゃあ肉とユニバとカラオケと絵と…甘いものは好きですか?
Shimaoka「ケーキ」
——作るのと食べるの、どちらが好きですか?
Shimaoka「作る」
——おうちで作られたりしますか?
Shimaoka「ホットケーキ」
——すごい。手先が器用なんですね。
Shimaoka「うん」
——なかなかカラオケやユニバには行けないご時世ですけど、お家の中で絵描いて美味しいもの作ってストレス発散してください。
Shimaoka「ふふ」
この状況でもきっと、大きい世界を創造出来るはずだ——最後に
Shimaokaさんの作品は、基本的に支持体を埋め尽くすことがない。
余白があるから収まりがいいのだ。作品自体も大きくはない。
それなのに、とてつもなく「大きい世界」を感じさせる。
その世界観を支えている作品の密度感は、日々の着実な制作に裏打ちされたものだった。
そしてもう一つ、ご家族の支援にも秘密があった。
Shimaokaさんのお母様は、作品を全てファイルにまとめて保管しているのだという。
Shimaokaさん自身、作品を見返していて『まだまだ書きたらんな』『まだ足さなあかん』と言うこともあるそうだ。作品がどこで終わるのかは、本人にしかわからない。それを寛容に受け止め、きちんと記録していくことが、アーティストの世界を跳躍させる土台になるのだろう。
お母様が記録していた作品郡。
ご家族が才能に気づくきっかけになった、カップヌードルのオリジナルデザイン(上)、絵の描き始める前に取り組んでいたリリアンの作品(下)。
毎日小さなビッグバンを起こして、いつまでも完結しない宇宙を描き出す。
「完結しない」ということは、簡単に終わらせて手軽に成果を得ようとすることより、実は大事なことだったりする。
小さく緩やかな継続が、発想を無限に広げられる豊かさをくれるのだ。
きっと楽ではない2021年も、外に出たいのを我慢し続けている今の私たちの呼吸を楽にしてくれる、そんな作品を身に纏って始めよう。
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