見出し画像

ダークナイト

第96回アカデミー賞の授賞式まで1週間と少しになりました。

クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』が幾つの賞で受賞するかが注目されています。

この作品が制作開始された頃から私はこれまでの記録である11部門を超えられるのはノーラン監督の実話に基づいた作品しかないと言い続けてきました。

それが叶わなくても、おそらく久々の大量受賞で独占状態になるのではないか…と思っています。

長編デビュー作の『フォロウィング』から『オッペンハイマー』まで発表した全ての作品が超がつく名作のクリストファー・ノーラン監督には、バットマンを主人公にした映画が3作品あります。

ちなみに、日本で生活している私はまだ『オッペンハイマー』を観ていないのですが…。

ゴジラは観れるし、何人もの人が無惨に殺される猟奇的な殺人を描いた映画みたいなのは観ることができるのに、原爆を作った人物の葛藤を描くヒューマンドラマは観れないのはどうしてだろう…と疑問に思っていました。

原爆がダメなのかな?

それでも、日本だけお蔵入りになるという事態にならなくて良かった…。

まぁ、アカデミー賞も終わった時期外れの公開ではありますが、映画館で観るチャンスを得られただけでも、物凄く嬉しく思います。

この国はどれだけの映画後進国だ…と昨年の夏に『インセプション』について書いた時にも私は嘆いていました。

観る自由や選択も与えられないのか…と思ったものです。

映画なんですから、ポップコーン食べながら観たって良いんです。

最近はnoteで愚痴だらけになってしまっているので、そろそろ話を戻します。

The Dark Knight

ノーラン監督のバットマンを主人公にした映画と言えば、『バットマン・ビギンズ』、『ダークナイト』、そして『ダークナイト・ライジング』です。

この3部作は“ダークナイト・トリロジー”と今は呼ばれています。

ちなみに“ナイト”は夜(Night)ではなく、騎士(Knight)のことです。

なので、“ダークナイト”は“暗い夜”ではなく“闇の騎士”という意味になります。

『バットマン・ビギンズ』を撮影していた頃のノーラン監督には、続編の構想はなかったそうですが、3年後に『ダークナイト』が完成しました。

そして、その4年後には『ダークナイト・ライジング』です。

『ダークナイト』は、オープニングから異様なテンションで始まり、観る側はここで一気に引き込まれます。

ジョーカーとその一味が銀行を襲撃して、容赦なく人々の命を奪い、大金を持ち去るまでのシーンです。

マイケル・マン監督の1995年の名作『ヒート』の影響も感じられるこのオープニングだけで、ジョーカーの卑劣さや不気味さみたいなものが凝縮されています。

その後も凶悪事件を繰り返し逮捕された後も罠を仕掛けるなど、最初から最後までジョーカーの恐ろしさが作品全体を支配しています。

演じたヒース・レジャーさんは、『ダークナイト』が公開される半年前に28歳の若さで急死しました。

そのこともあり、このジョーカー役は“伝説”になり、ヒース・レジャーさんは本作でアカデミー助演男優賞を受賞しました。

死後にオスカーを受け取った2人目の俳優になりました。

1人目は『ネットワーク』で主演男優賞を受賞したピーター・フィンチさんです。

『ネットワーク』は、シドニー・ルメット監督の1976年の名作ですが、架空のテレビ局を舞台に、視聴率に踊らされるテレビ業界人の狂騒を痛烈に皮肉った…現代にこそ観られるべき作品です。

フェイ・ダナウェイさん、ウィリアム・ホールデンさん、ロバート・デュヴァルさんといった名優の競演も熱いです。

現在までのところ、演技部門で死後にアカデミー賞を受賞したのはこの2人だけです。

ヒース・レジャーさんが助演男優賞を受賞した年のアカデミー賞で『ダークナイト』は8部門にノミネートされましたが、作品賞にノミネートされなかったことで多くの批判を受け、翌年から作品賞のノミネート数が5作品から10作品に変更になりました。

このように、まだ映画監督として10年目の若手だった頃に、アカデミー賞までも動かしてしまっていたクリストファー・ノーラン監督です。

クリストファー・ノーラン監督は、バットマンは紛れもないヒーローだということを観客に示す為に、バットマンの誕生からゴッサムシティの真のヒーローになるまでを『ダークナイト・トリロジー』3部作で丁寧に描き切りました。

“人はなぜ落ちるのか。それは這い上がる為だ。”

この主人公ブルース・ウェインのお父さんであるトーマス・ウェインの言葉が、この3部作を通して重要になってきます。

『バットマン・ビギンズ』は、バットマンの誕生を描いたストーリーで、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベールさん)が幼少期に両親を殺されてから、なぜコウモリの姿を模したスーツを身につけてバットマンになったのかが描かれています。

この時はまだ警察からも正義の味方としては認知されていなく、コウモリのようなマスクをつけた得体の知れない存在が警察官を気取っているとしか思われていない状況でした。

後にバットマンの良き理解者として協力することになる警官のゴードン(ゲイリー・オールドマンさん)も、バットマンのことを信用していませんでした。

しかし、ヒマラヤの山奥に本部を置き、数千年に渡って腐敗した都市を破壊に導いてきた集団の“影の同盟”が、ゴッサムシティを壊滅させようとした際に、バットマンの力で街が救われたことからゴードンだけは全面的に信頼を寄せるようになります。

影の同盟は最初にヘンリー・デュカードと名乗っていたラーズ・アル・グール(リーアム・ニーソンさん)をボスとする集団で、バットマンもここで誕生しました。

渡辺謙さんが演じたキャラクターは影武者です。

ブルース・ウェインの復讐心を利用して、腐敗したゴッサムシティを破壊しようとしますが、ブルースはそれを拒否しました。

幻覚剤と水源気化装置を利用して、ラーズ・アル・グール自身がゴッサムシティ全体に幻覚剤を撒くことで破滅させようとしますが、ブルース・ウェイン=バットマンがそれを阻止します。

街の危機を救ったブルース・ウェインは犯罪者に対する抑止力としてコウモリのマークをライトで空に投影して、警部補に昇進したゴードンと一緒にバットマンとして街の防衛を続けていくことになりました。

そんな中、ゴッサムシティにジョーカーの影が迫っていました。

バットマンはラーズ・アル・グールとの決着をつけた時、殺すことはしませんでしたが助けるということもしませんでした。

つまりバットマンはラーズ・アル・グールを見殺しにしたということになるわけで、自分の手で直接ではないですが、間接的に人を殺しているわけです。

そのことが布石となって『ダークナイト』では、ジョーカーとバットマンの対峙が描かれます。

ジョーカーという素性が全くわからない存在によって、人間達の悪の部分が表面化されていきます。

バットマンもまた、ジョーカーによって、悪の部分を刺激されて狂人としての面があぶり出されていきます。

バットマンとジョーカーが檻の中で対話するシーンはとても印象的です。

ジョーカーはバットマンにゴッサムシティを永遠に変えてしまったのはバットマンという存在自体であり、警察から見れば自分(ジョーカー)と同じ狂人だと話します。

世の中が善良ではなくなり、倫理やモラルといったものが崩壊したらすぐに見捨てられて除け者にされてしまう存在だと言います。

バットマンと悪人とされる人たちの境界線は曖昧で、いつバットマンが狂人として見られるようになってしまってもおかしくないということです。

ジョーカーは監獄の中からでも、どんどん罠を仕掛けてアッサリと脱出すると同時にブルース・ウェインの最愛の人を殺します。

その後、バットマンはジョーカーを捕まえることはできましたが、市民の希望の星だったハービー・デント(アーロン・エッカートさん)がジョーカーによってトゥー・フェイスに化けてしまったことで殺してしまい、ハービー・デントがトゥー・フェイスだったことを知らない市民や警察にとっては悪人として捉えられてしまいます。

バットマンとゴードンは事実を隠したままにして、バットマンは警察から追われる身になることを選択したところで『ダークナイト』は終わります。

ゴードン警部補の息子を助ける為にハービー・デントを殺してしまったバットマンですが、最後のシーンでゴードン警部補の台詞から希望を感じることができます。

“彼はヒーローじゃない。沈黙の守護者。我々の監視者。闇の騎士(ダークナイト)。”

良き理解者と出会えるって良いですね。

『ダークナイト・ライジング』は、バットマンが堕落してから這い上がる姿が描かれます。

そして最後はヒーローになります。

バットマンと同じ“影の同盟”の生き残りであるベイン(トム・ハーディさん)に背骨を折られるほどの重傷を負わされて完全に敗北したバットマンが復活し、ベインと決着をつける為に、今までの“夜”ではなく“昼”に戦います。

バットマンが昼に仕事するのは初めてのことです。

バットマンは闇に隠れて活動するダークヒーローではなく、ゴッサムシティの紛れもないヒーローになったことを意味しています。

バットマンがベインを倒した際に、実はラーズ・アルグールの娘が真の黒幕であることがわかります。

その娘タリア・アルグール(マリオン・コティヤールさん)は父の意志を継いで時限式原子爆弾を使ってゴッサムシティを滅ぼそうとしていました。

しかし、バットマンは時限式原子爆弾をゴッサムシティから遠く離れた海上まで運び、そこで爆発させることでゴッサムシティを救います。

そして、自分の命を犠牲にしてゴッサムシティを救ったヒーローとしてブロンズ像が作られました。

ゴッサムシティの人々の記憶にはバットマンというヒーローが永遠に残り続けますが、ブルース・ウェイン本人は生きていてゴッサムシティではないどこかで静かに暮らす姿が描かれます。

最後のシーンはバットマンの意志を受け継ごうとする若者の誕生も描かれました。

それがロビンという展開は熱かったです。

“なぜ人は落ちるのか?それは這い上がる為だ。”

英語では…、

“ Why do we fall?
So that we can learn to pick ourselves up. ”

…です。

絶望から這い上がる術を学び、より強くなる為…という意味になります。

失敗や挫折、悩み、不安といった暗い気持ちに支配されて、どん底に落ちたような気分になったら、この台詞を思い出したいものです。

失敗や挫折、悩み、不安といったものは、どう向き合って活かすかによっては、今よりもっと幸せになる為に重要なものになります。

もっと強くなる為に与えられた試練と考えると乗り越えられるものかもしれません。

かかる時間は人によって違いますが、自分のペースで乗り越えた時には、間違いなくそれまでよりも大きくなった幸福があるはずです。

決して忌むべきものではなく、ありがたいものと思って、人生の輝かしいゴールへ向かう為の過程と考えるべきだと思います。

クリストファー・ノーラン監督はバットマンを主人公にした3つの作品でそういった希望を描きました。

執事のアルフレッド(マイケル・ケインさん)も、挫折に落ち込むブルース・ウェインに言います。

“人はなぜ落ちるのでしょう?這い上がる為です。私は決して見放しません。”

誰かが見守ってくれているのも確かで、それを無駄にして裏切っては、おそらく不幸に向かって突き進むことになります。

とにかく、まだまだ語りたいことがたくさんあり、他にも名言が多数ある名作3部作です…あぁ~ステキ♪

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?