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【第14回】たいいんできるとおもったのに

執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)

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 とってもイライラした表情で、教室に来てくれた男の子がいました。
 発達の課題もあるお子さんで、ちょっといやなことがあると、病棟でも友だちとけんかをしてしまう、そんなお子さんでした。
 でも、今日の感じはちょっと違います。
 イライラのなかに、寂しさや悔しさ、がっかりなどいくつもの気持ちがあるようにみえました。
 何があったのだろうと思いながらかかわっていると、
「退院できなくなった」
と彼が言いました。
 退院日が決定していたわけではないのですが、彼なりに目標としていた日があったのです。
〈なるほど、それが理由なのか〉
と思いました。
 そこで、彼のいまの気持ちと、身体の感覚、希望などを少しずつ、ゆっくりゆっくり話してもらいました。
 ある程度話ができて、彼の表情も落ち着いてきたとき、気持ちや考えを詩に書いてもらいました。

 退院できると思ったのに

  退院できると思ったのに
  CRPがあがってさっ
  退院できなくなった

  すっごい やな気持ちになる
  やなきもちになるとあつくなる

  早く退院したい
  退院して
  学校にいきたい

 下書きの言葉を何度か直し、パソコンで清書をして、色画用紙の台紙をつけました。

•自分の気持ちや考えを言葉にすることができる。
•身体が感じていることを言葉にすることができる。
 心理学の言葉で、「感情の言語化」「感情の社会化」といわれていることを行えると、多くの子どもたちは気持ちを落ち着けることができるようになります。
 そのうえで、未来にどうなりたいかが語れたときに、子どもたちの表情は大きく変化をします。

 「退院」は、子どもたちにとって大きな目標です。それだけに、何度も入退院を繰り返している子どもたちは、簡単に「退院」とは言いません。
 教室のドアを開けたとたんに、大きな声で、
「先生! 退院決まりました!」
と言う子は、だいたい1回目の入院の子です。
 せっかく仲良くなった友だちが先に退院をしたり、自分の退院がまた延びたり、そんな経験を何度もしている子は簡単に「退院」なんて言わなくなります。
 「退院」は子どもたちにとって、とてもうれしいことです。でも、どこかでちょっと寂しく不安もあります。
 そんな気持ちも言葉にして、子どもたちに返すようにしています。

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著者プロフィール:昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当。1966年、福岡県生まれ。 89年、都留文科大学卒業。 同年、東京都公立小学校教員として採用され、 以後25年間、都内公立小学校学級担任として勤務。99年、東京都の派遣研修で、在職のまま東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。2006〜13年、 品川区立清水台小学校さいかち学級(昭和大学病院内)担任。 14年4月より現職。 学校心理士スーパーバイザー。 ホスピタル・クラウン。北海道・横浜こどもホスピスプロジェクト応援アンバサダー。TSURUMIこどもホスピスアドバイザー。 東京こどもホスピスプロジェクトアドバイザー。日本育療学会理事。 NPO法人Your School理事。 NPO法人元気プログラム作成委員会理事。 09年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。 11年、『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK総合)に出演。 20年、NPO法人Your School によるYouTubeチャンネル「あかはなそえじ・風のたより」に出演。https://www.youtube.com/watch?v=ndP0lIrhg8k
近著:『あのね,ほんとうはね 言葉の向こうの子どもの気持ち』

※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです

2023年12月号 特集:腎臓病をもつ子どもへの看護;成人移行を見据えたケアを実践しよう
2023年11月号 特集:地域における医療的ケア児の支援と看護
2023年10月号 特集:新生児看護の教育;看護職の専門性を高める

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