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教室のアリ 第12話 「4月23日」〈不思議な給食室、三文の徳〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
きょうは早起きをした。アリは人間みたいに6時間とか8時間とか寝たりはしない。1時間半くらい、何回か「休憩」して体力を回復するんだ。オレも昔はそうだったけど、学校のリズムに合わせていたら、人間と同じになってしまった。いつもは子どもたちが登校してくる8時に起きるのに、7時に起きてしまった。先生が言っていた「早起きは三文の徳」。シーンとして安全な校舎を散歩していた時、給食室の隅に甘いものを隠しておいたことを思い出した。たまには廊下の真ん中を「触覚」で風を切って歩いた。大通りの真ん中を王様気分で給食室に進んだ。記憶では窓ぎわの棚の中に隠したはずだ。きっちり閉まらない戸の隙間から奥に入った。すると…「なななな、無い!」。きな粉揚げパンのきな粉も、アセロラゼリーのカケラも、タルトのカスもなんにも無いではないか!!誰だ!早起きは三文の徳とか言ったやつは!しかし、なぜだろう?あまり使われない食器が入っている棚の奥、つまり人間の手が伸びない場所を選んでオレはエサを貯めてきた。戸も開け閉めされた形跡はない(気がする)。オレは考えた。この日は国語の時間も、体育の時間も、社会(なぜか5年2組は社会が多い)の時間もずっと考えた。そしてひとつの結論が出た。うれしく、希望に満ちた結論だ。

〈この学校には、仲間がいる〉
① 給食室には4限の前にエサが集まることを知っていること
② エサのありかを突き止める「勘」と「経験」を持っていること
③ エサの好き嫌いがオレと同じこと

以上、3つの点からオレは、『この学校にはアリがいる』『そのアリはかつて公園で一緒に暮らしていた仲間』と確信した。この推測が正しいのか間違っているのか?確かめる方法はただひとつだ。もう一度、エサを集めて給食室のあの棚に運ぶこと。今週はきょうを除いてあと3日…運動会の練習、遠足、エサ運び…人手が、いや「アリ手」が足りない。

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