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プエルトリコ系移民が勝ちとった"みんな"のための医療と患者の権利 - 映画「Takeover」を見た話

アカデミー賞に向けて各カテゴリーごとのショートリストが出ると、今度はいろんなメディアが受賞予想を出したりするわけなんだけれど、その中から短編ドキュメンタリー作品で日本でも見られるものを、ちょっとずつ見て備忘録までに書き留めておきたいと思う。

まずはNew York TimesのOp-Docsから「Takeover」から。

1970年のニューヨーク。これはサウスブロンクスにあったリンカーン病院を、プエルトリコ系移民で構成される活動家グループであるヤングローズ(The Young Lords)のメンバーが占拠し、誰もが利用できる医療保険制度を求めて12時間にわたって立て籠もり、結果として患者の権利章典(Patient Bill of Rights)の成立を勝ち取ったという話である。



プエルトリコはカリブ海に浮かぶ島国。16世紀以降はスペイン領だったが、植民地争奪をめぐる米西戦争の結果米国に占領され、戦争終結のパリ条約によって米国領土となった。そして1950年代にプエルトリコは米国自治領に。

ただ当時のプエルトリコは工業化に失敗して十分な雇用を作り出すことができなかったため、大規模な移住を促進する移民政策によってプエルトリコ人は大量移民として米国本土に送られていたのである。ただ多くは言語の問題もあって工場やサービス業などの低賃金労働に就くことになり、都市部の貧困地域での劣悪な環境での生活を強いられていた。

アメリカンドリームを求めて移住して来た彼らは総じて社会的地位が低く、虐げられ、適切な社会的サービスを受けることができず、犯罪に走る者も多かった。その時の様子はまさに「ウェスト・サイド・ストーリー / West Side Story」の中で歌われる「America」の通り。



I'll get a terrace apartment
Better get rid of your accent
Life can be bright in America
If you can fight in America
Life is all right in America
If you're all white in America


そして1960年代に入ると、ブラックパンサー党に触発された若いプエルトリコ系移民が、彼らのコミュニティーの社会的な状況を改善することを目的としてヤングローズを組織化する。まずはシカゴから。

そこから分岐してニューヨークでも活動家グループが組織化され、サウスブロンクスの老朽化したリンカーン病院にバリケードを張って籠城、医療保険制度に関わる7つの具体的な改善案を提示したのだった。



そして警察が病院を包囲すると活動家は医者や患者になりすまして、外に通ずる扉から無血のまま難なく逃げ出した。警察が雪崩れ込んできた時には、病院内はもぬけのからだった。そんな話。

当時のフッテージと元活動家のインタビューで構成された短いドキュメンタリーだが、今の米国における医療保険制度の破綻と格差の問題を、この一件になぞって改めて問題提起しているように思う。だからこそのショートリスト入りなのかなと。




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140文字の文章ばかり書いていると長い文章を書くのが実に億劫で、どうもまとめる力が衰えてきた気がしてなりません。日々のことはTwitterの方に書いてますので、よろしければ→@hideaki